爆破探偵

 大広間に転がる男の死体。意味ありげなポーズ。意味深そうな文字列。いわゆるダイイングメッセージらしき何か。集う面々は皆、疑心暗鬼に駆られる。

 だが、彼は動じない。


「……ここは完全な密室だったといったね。本当かい?」

「は、はい! 間違いありません! 館の扉はすべて電子ロックで管理されているんです! 入退出があれば、鍵の開閉が行われれば、ぜんぶ記録が残ります。記録はスマホさえあれば、いつでも、誰でも見れるんです! ここは完全な密室だった!」


 ほとんど泣きわめくような女の声に、彼――麦葉海泰ばくはかいたいは眉をひそめる。


「……そうだったのか……しくじったな」


 海泰はスマホに指を滑らせ、皆に見えるように画面を向けた。


「聞いてくれ。今から俺が番号を読み上げた扉の鍵は、無視してほしい」


 集まっていた面々がざわつく。もちろん、海泰は気にせずに番号を読み上げる。その数、実に二十二枚。館にある扉の半分ちかくに達する。

 中年の男が進み出、海泰に尋ねた。


「いったい、どういうことなんです。どうしてこの扉は無視しないと――」

「――爆破した」

 

 海泰は中年男の言葉を遮るように言った。ざわ、と皆が鼻白んだ。

 今、爆破したって言った? 爆破って何を? てか爆破?

 フン、と鼻を鳴らし、海泰は親指大ほどの練り消しゴムのような物体を出す。プラスチック爆弾の一種である。


「これだ。服の下にみっちりと用意してある」

「……みっちりと?」

「見ていろ」


 海泰はぎゅむぎゅむと爆弾を練り合わせ、放った。宙を舞った爆弾はぺしょりと円卓の足に張り付いた。一秒、二秒、三秒――


「おい君、これはどんな冗――」


 轟音が男の声をかき消し、円卓が天井近くまで吹っ飛び回転しながら落下、そこにいた女の一人を下敷きにした。ぐえっと短な悲鳴をあげ、犠牲者がひとり増えた。  

 海泰は痛ましさに首を振った。


「――事故だ」

「な、な、な、何を言っている!?」


 顔を青ざめた生き残りたちはそれだけ言うと絶句した。

 海泰は新たな爆弾を手に握り込み、言った。


「俺は鍵を使うのが好かん。それに爆破が趣味だ。今ざっと確認して気づいただろうが、残念ながら、この館に密室は残っていない」

「…………」

 

 誰も、何も、言えないでいる。


「色々と仕込みをしたんだろうが、本当に申し訳ないと思っている」

「…………」


 口を開く者はいない。


「犯人がこの中にいるなら、名乗り出て欲しい。俺が建物ごと吹っ飛ばす前に」


 そうして、デスゲームが始まった。

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