第18話 クロノとのデート
「はい、レイ君、あーん」
「あ、あーん」
俺は恥ずかしながらも口を開ける。
そんな俺の口にクロノが卵焼きを入れてくる。
「レイ君、あーん」
「あーん」
そして、今度は俺が、同じことをして欲しいと、催促するような目でこちらを見るクロノの口に卵焼きを入れる。
「レイ君!すっごくおいしいね!」
「そ、そうだな」
周りからは、面白いものでも見るかのような目で見られたり、恨みのこもった目で見られている。
クロノからの好意は純粋に嬉しいけど、正直すごく恥ずかしい……
どうしてこうなったのかというと、さかのぼること30分前・・・
・・・・・・
「じゃあ、あそこの店に行こうよ!」
というクロノの言葉で、俺とクロノは、朝ご飯を食べる店に入り、それぞれ、料理を注文した。
そこまではよかった……そこまでは……
「レイ君、あーん。」
料理が運ばれてきたときに突然クロノが自分の料理を俺の口に運んできたのだ。
「えっ、クロノ?」
「お互い食べさせあいっこしない?」
クロノは、もじもじと恥ずかしそうにして、俺を見つめる。
俺はそんなクロノの表情にノックアウトさせられそうになるが、最後の抵抗をする。
「い、いや、でもどっちも同じ料理だし、自分で食べたほうがよくないか?」
「やっぱりだめだよね……」
そう言ってクロノはこの世の終わりのような悲しそうな顔をする。
俺はそんなクロノの表情に耐えられなくなり、気づいたら行動していた。
「はい、クロノ。あーん」
「レイ君!?あーん」
俺が差し出した卵焼きを嬉しそうにクロノはパクっと食べる。
あー、本当にクロノってかわいいよな。
「はいっ!レイ君もあーん」
「あ、あーん」
俺も、さすがに断れず、クロノの差し出した卵焼きを食べる。
恥ずかしいはずなのに、なぜか嫌な気はしない。
これが俗にいう『好きな人効果』か……
俺は沙希が言っていたことを思い出した。
……俺は妹である沙希とショッピングモールで一緒に買い物をしていた。
「なあ沙希、どうして恋人とかはなんでも新鮮に見えるんだろうな?」
俺は目の前で彼女らしき人と手を繋いでいる男性を見て自然とつぶやいた。
「零兄、それはね、『好きな人効果』だよ!」
「『好きな人効果』?」
「うん!自分の大好きな人とすることはなんでも新鮮に見えたり、楽しく思うようになることだよ」
「へえ、そんな言葉あったんだ……」
「うんうん、この言葉は私が今作ったんだけどね、」
「いや、お前が作ったんかい!」
俺は優しく沙希の頭に手刀の形をした手を振り下ろした。
すると沙希はそれを真剣白刃取りの要領で掴んだ。
「零兄もまだまだ甘いね!ちなみに、今私は零兄との買い物、めっちゃ楽しいよ!」
俺の手をギュッと握り、沙希がニコッと笑った。
その笑顔がどれだけ眩しかっただろうか……
そんなふうに感慨に耽っていたのもつかの間、俺はクロノに差し出された卵焼きで現実に戻される。
……そうだ、今は目の前で笑っている少女とのデートを全力で楽しまないと。
そう決意し、俺はクロノの差し出した卵焼きをパクッと食べた。
それからお互い食べさせ合いっこをして今に至る。
俺とクロノはその後もしばらくお互いの朝ご飯を食べあい、全部食べ終わった所で店を出た。
あー、恥ずかしかったー……
隣の席の人なんてずっと「爆発しろ」ってブツブツ呟いていたし…
「クロノ次はどこに行くんだ?」
「うーん。考えてないや」
「いや考えてないんかい!」
「うん。とりあえず話しながら街を散策しよう!」
「分かった!」
クロノが手を差し出してきたので、俺はしっかりとその手を握る。
するとクロノはうれしそうな顔をしてギュっと手を強く握り返してきた。
それから俺とクロノは街を一緒に歩き出した。
「そういえばクロノって人界だと目立つのに俺と歩いてても大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ!」
「ん?どうして?」
「だって、今は僕の姿とか魔力の質は変えてるもん!」
「えっ、でも俺にはクロノは変わってないように見えるけど?」
「そりゃそうだよ!レイ君は僕と本契約したんだから!僕がたとえどんな姿に変わっていたとしても、レイ君には普通に見えるはずだよ!」
「ふーん。そういうもんなのか?」
「うん!」
「ちなみに今は周りの人からはどんな姿で見えるようになっているんだ?」
「この世界での超絶美少女だよ!」
「えっ?それって…」
俺は途端に嫌な予感がした。
いや、ずっと前から分かっていた。
店を出てから俺たちのことをつけている人間がいるのは……
それでも、俺はクロノとのデートを邪魔されたくなくて、わざと見逃していた。
だが、そんな俺の思いも汲み取らず5人の男達は近づいてくる。
「「「「「おいおい、そこのお嬢ちゃん。そんなさえない奴なんかよりおれたちと楽しいことしようぜ」」」」」
……もはやテンプレとなりつつある発言をかましながら、5人の男達はクロノを呼びかける。
そして、男たちは汚い手で、クロノに触れようとした。
すると次の瞬間、俺の中で何かが弾けた。
そして、俺は怒りを懸命に堪えつつ、男たちへ魔法を放った。
「【風魔法中級】風破」
魔法に当たった男たちは壁に吹き飛ばされぶつかり伸びている。
俺はそれを確認してから、クロノへ改めて手を差し出した。
「さあクロノ。デートを再開しよう」
「うん!」
クロノは唖然としていたが、俺の言葉を聞いて満面の笑みで俺の手を握った。
「レイ君!守ってくれてありがとう!」
「うん。まあクロノなら俺が助けなくても何とかしたと思うけどな」
「そんなことないよ!守ってもらえること自体がうれしいんだよ!」
俺とクロノはデートを再開した。
「レイ君、のどが渇いたから、あそこの屋台に売っているスタージュースでも飲まない?」
「うん?いいよ!」
「じゃあ買ってくるね!」
「うん」
そう言ってクロノは屋台のほうへ駆け出していく。
しばらくしてクロノは1つのスタージュースを持って帰ってくる。
……ん?待てよ。なんで1つなんだ?
「はい!レイ君。買ってきたよー」
「うん、ありがとう…」
「うん!」
「ところで、なんで1つしか買ってきてないんだ?」
「二人で順番に飲めばいいやって思ったからだけど、なんかまずかった?」
「いや…別に何もまずくないよ」
「そう?よかった!・・・チューーー。レイ君!これすっごくおいしいよ!ほら飲んでみて!」
クロノはそう言って俺にスタージュースを渡してくる。
いやっ、ストロー1本しかついてないじゃん!
これっていわゆる間接キスなのでは・・・
「レイ君、飲まないの?」
「の。飲むよ!・・・チューーー」
確かにおいしい。パイナップルみたいな風味がしたかと思えばキウイの味もする。
ってそんなことより俺、今クロノと間接キスしたってことになるんじゃ・・・
そう考えると顔が羞恥心で、どんどん真っ赤になっていく。
「・・・チューーー」
クロノは俺の飲んだ後など気にせず、ストローに口をつけて飲む。
やばい、、、意識したらどんどん恥ずかしくなっていく。
「レイ君!休憩も終わったし、これを二人で飲みながら街の散策を再開しよう!」
えっ、今の時間って休憩の時間だったの!?
すごく疲れたんだけど・・・
「う、うん」
「ほらっ!じゃあ行くよ!」
クロノは俺の手を引いて嬉しそうに街を歩く。
・・・俺、正気を保ったまま、デートできるかな。
俺は、不安になりながらも、クロノの手を握り返した。
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