第三章 仲間-FELLOW-(2)

「ソルカンさん。俺のせいで……すみませんでした」

 人がまばらになってきた戦場跡地。ソーヤどのが深々と頭を下げた。

「いえ、ソーヤどののせいではありません。ご自分を責めないでください」

 なるべく、いつもと変わらないように。平静を保って。優しく語りかけた。

「あいつは……ユヒザは昔からの戦友でした。いえ、もっとも信頼できる相棒でした。だからわかるんです。あいつは悔やんでなんかいない。大切な者を守れたのですから」

 おそらく、あいつはソーヤどのに自分の弟を重ねていた。

「ソーヤどのは、ユヒザのためにも戦い続けてください」

「……はい」

「さぁ、今日は疲れたでしょうからはやく帰ってお休みください。また、いつ敵が来るかわかりませんし」

「そうですね……。それじゃ、また……」

 ソーヤどのが去ると、夜の静けさがより一層感じられた。

 夜とはこんなにも静かなものだったか。

 ……いや、元からそうだ。今はもう、昼間のように明るく照らしてくれる存在が隣に居ないから。

 あぁは言ったけれど、私はもう少し……おまえと共に戦っていたかった。

 それを望むのは贅沢……というものだろうか……?

「ユヒザ……」




***




 数日後。色々あって忘れてたけど急に現実を突きつけられた。

 なんと、今日から……学校祭準備である。

 いやそれも一大事なんだけど、学校イコール明宏に会わなきゃいけないってのが……どうも……これ、どうする?

 あれから連絡とってないし……絶対気まずいだろうなぁ……。

 そんな一日を過ごしたけれど、結局明宏とは一度も会話しなかった。

 しかもぼんやりと一人で帰宅する途中で敵に出くわすし。

 小さい女の子を守るため剣を振るう。でも、どうせこの子も恐ろしくて逃げるんだろう。わかるよ。何度もあったさそんなの。もう、慣れるほどに。

「大丈夫かい?」

 一応声をかけてみる。瞳を大きくして俺を見上げる女の子。

「ありがとう」

 小声だったけど確かにそう言った。

「どうしたの?お兄ちゃん……痛いの?」

 俺を心配してくれる女の子に何でもないよと言いながら、ごまかすように涙を拭った。

 俺は……ずっとこの言葉を望んでいたのかもしれない……

 みんな、逃げていったけど、心のどこかで感謝もしていたんだろうか。

 明宏も……そうだったらいいなぁ。


 その後も明宏とまともに会話する事はなく、時間だけが過ぎていった。

 そんなある日、俺たちの前に再びあいつが現れた。

「よぉ、ナグラ」

「だ、ダントぉ……?!」

 ダントはヴァンルがもうすぐやって来るという情報を持ってきた。なんでかって聞いたら「おもしろそうだからさ」って……相変わらず変なやつだ。

 後日学校にて。

 黙々と学校祭準備を進めていると、不意に窓の外に違和感を感じた。

 振り返って思わず奇声を上げかけたが、かろうじてそれを飲み込んで小声でそこに浮かんでいる人物に話しかけた。

「何考えてんだよおまえ!誰かに見られたらどうするんだ!」

「見つからないさ。俺の姿はリング持ってるヤツにしか見えねぇ」

 窓枠に肘をついてなんてことないようにダントは言う。

 お、おどかすなよ……。

 今日は何をしに来たのか問えば、今ヴァンルが来るって……ヴァンル!?うそだろ!まだ心の準備が……!

「……てなわけで俺は見物してるぜ」

 そしてやつは去っていった。勝手なやつだなぁもう!

 休憩時間に入ってシフトと相談した。

「この戦に勝って……父に……王に勝てば私たちはまた旅立ちます」

「旅立つ?」

「えぇ。いつまでもここにいるわけにはいきませんので」

 そっか。そうだよな……。

 この戦いが終わればシフトたちにはもう会えなくなる……のか。当たり前だよな……。


 さて、来ると言われてもどうしようもない。準備を進めよう。手元に広げたクラス新聞に向き合う。

 あぁ、なんでこんなめんどいの選んだかな……ま、どれも似たり寄ったりか。

 頭を悩ませていると、クラスの一部がざわざわと騒ぎ出した。

「なぁ、あれなんだ?」

「飛行機?っていうかこっち向かってきてない?」

 ぞっとして窓に駆け寄る。

 小型の戦闘機みたいな宇宙船が三機、こちらに向かって来てるのが見て取れた。シフトの国の連中がいつも乗ってきてるやつだ。

“おそらく先行部隊だ。ヴァンルは後から追ってくるでしょう。ここにいる者たちを逃がした方がいい”

 シフト……俺たち、勝てるかな。

“……わかりません。ですが……勝ちましょう!”

 あぁ……!!

「みんな!ここから早く逃げろ!!早く出るんだ!!」

 俺が突然叫んでもふざけているようにしか感じていないのだろう。まわりの連中はからかうような笑みを浮かべていたり、呆れたような顔を俺に向けていた。

 どうすりゃいいんだよ、くそっ!

「……おい、あれ……こっちに突っ込んでくるんじゃないか?」

 冷静な声。……明宏だ。

「え、うそ……」

「近いって……」

「やばくね?」

 どんどん近づく機体にさすがに恐ろしさを感じたのか、全員叫び声を上げて教室から出て行った。

 助かった。明宏のおかげで伝える事ができた。

「みんな、行ったな……」

「誰が行ったって?創也」

 は?振り返ると教室には一人、明宏が残っていた。

「な、なんでおまえっ!逃げろよ危ないだろ!」

「おまえにずっと、言いたい事があった。あの時の事」

「いや今それどころじゃないから!早くっ……」

「ありがとうな」

 俺の思考が全停止する。

「あの時、助けてくれたんだよな。なのに俺は逃げて……悪かった」

「明宏……」

「……創也?おまえ泣い……」

「ばっ!!誰が!!」

 むきになって喚き散らす。けど、流れたものはごまかせなかった。

「よかった……よかったよぉ……」

 俺は、もうこんな風にしゃべれないかと思ってた。

 ありがとうはこっちのセリフなんだぜ、明宏……。

 突如、窓ガラスが派手に割れる音と生徒の悲鳴が響いて静寂が打ち破られる。そうだこんな事してる場合じゃない!やつらが来たんだ!

 一機がこの教室にも突っ込んできた。中から敵が一人飛び出してくる。以前より慣れた身のこなしで斬り伏せた。

 修行のおかげかな……。今はもう見る事のできない顔が脳裏をよぎる。

「創也……なんだかすごいことになってるが、そろそろ事情を教えてくれないか……?」

 青い顔をしているものの、今度は逃げ出さなかった明宏が困惑して聞いてくる。……そうだな。さすがにもう、話さないわけにはいかないよな。

 ざっくりとだけど移動しながら説明した。

「やっぱ信じてねぇだろ……」

「し、信じるさ」

「無理すんな。俺だっていまだに信じられねーんだから」

「でも、この状況を見たら信じざるを得ない……ってか?」

 まぁね……。

 でも、久々に明ちゃんとこういうやり取りできてうれしかった。この平穏を壊されないためにも安全な場所へ連れて行かなきゃ。

「よぉ、ナグラ」

 まーた唐突にダントが現れた!ホント神出鬼没なやつだなー。今度はなんだよ……。

「ヴァンルのやつがお出ましだぜ。それに“城”も一緒だ」

“城……!私の本体が閉じ込められている……!”

「じゃあ体を取り戻せば二人で戦えるって事?!」

“私の従者も助ける事ができる!”

 あ、でも明宏は…?

「まぁ、安全な所に連れて行ってやらない事もないが……」

 ホントかよ!珍しい事も言うもんだな!俺はダントに明宏を任せる事にした。

「創也。死ぬんじゃないぞ」

「ばっか。当たり前だ!早く行け!」

 ダントが言うには城はでかい広場に降りたらしい。……多分グランドの事だな。その途中でランジ団と集合した。

 するとソルカンさんが申し訳ないような顔をして、新しい副団長がまだ決まっていない事を明かした。

 どうする誰にする、とざわめくシフトと団員たち。

「……ラディー……いいんじゃないか?」

 何気なくぼそっと言ってみる。っていうかラディー以外あんま知らなくてだな……。

「はぁ?!なんで俺?!」

「そ、そうだな。おまえ仕切れるし」

「そうそう頼れるし」

「それで、意外に強いし……」

 当の本人差し置いて案外いい反応だ。ま、押しつけなのかもしれないが。

「なっ☆」

「な、じゃねーよ!!無理だって俺なんかが。決まるまでの代役ってのならまだしも……」

「だったらそれまでの仮の副団長になってもらえないだろうか」

 ソルカンさん直々のお願いに言葉を飲み込んだラディーだったが、しぶしぶ承諾した。

 俺とシフトは城へ潜入し、ランジ団はこの場を抑えるために残る事になった。

「じゃ、ここ頼むなー!」

「おお、気をつけろよー!」

「死ぬんじゃねーぞ!」

「おめーもな!!」

 ラディーとそんなやり取りをしながら、俺は目の前にそびえ立つ巨大な城と呼ばれる宇宙船へ近づいて行った。近づけば近づくほど圧倒的な存在感だ……。

“入口はこちらです。行きましょうソーヤ!”

「おう!」




 第三章 Fin

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