第21話 アリスと学校
二人のやり取りに、圭介と真が目で微笑みあう。
「ところでアリス、さっきハルが見つかったとかいってなかったか」
突然、山崎が話を違う方向にずらした。
「あぁ、だいたいの見当がついたんだ」
ふーんと山崎は頷くと、
「いつ回復したんだ」
と続けた。
「今日だ」
「今日か、ちゃんと学校の授業受けてきたんだろうな、まさか授業中にハルを探していたりしてないよな」
形勢逆転か、ニヤリと笑うと山崎がそう訊いた。
ウッと今度はアリスが押し黙った。どうやら痛いところをつかれたらしい。
「授業など聞かなくても、教科書を読めばわかる」
「要するに、授業中にずっとぬいぐるみたちと話していたということだな」
山崎が呆れたようにため息をつく。
その様子は我が子の非行を嘆く父親のようだった。
「自分だって仕事サボってるくせに」
ぼそりと吐き捨てる。
しかしもうその言葉には先ほどの勢いはない、そんなやりとりとしている間に、閉店時間の二時はまわってしまい、その話はそこで終わりを迎えた。
「ハイ、山崎さん」
その頃合を見定めていたかのように、真が山崎の前にケーキと紅茶を差し出した。
「あぁ、今日のケーキもなんておいしそうなんだ」
大の大人、それも普通よりいかつい男が顔の前で手を組み、まるで乙女がやるようにくねくねと体をねじりながら喜ぶ姿ははっきりいって気色悪い。
でも、恋する男になにをいっても意味はないのだろう。体が勝手に動いてしまっているに違いないのだ。
圭介はあえて見てみぬ振りをした。
「山崎キモイ」
しかしアリスは容赦しない。たぶん先ほどの小言の恨みもこもっているのだろう、冷たい眼差しで山崎を見詰めながらはっきりとそう言い切った。
「今日もおいしいよ、マコちゃん最高」
しかし、慣れているのか、本当に聞こえてないのか。当の山崎はガン無視で一口食べては、真に向かって誉め言葉を投げている。
「ありがとうございます」
真もそんな山崎を邪険に扱うことなく、うれしそうに微笑んでいる。
大人なのか、本当に大丈夫なのか。
「さあ真のケーキも食べ終えたことだし、さっそくクーちゃんをハルのところに返しに行く計画を立てよう」
アリスは見てられないというようにそういうと、支度してくるといって自分の部屋に入っていった。
さっきまでの自分もあんなふうに周りに見えていたら嫌だなと思いつつ、圭介は少し冷めた紅茶を飲みながら、ちらりと山崎を一瞥した。
「ケーキはやらんぞ」
圭介の視線をどう解釈したのか、山崎はケーキを隠すような仕草をみせる。
「取りませんよ」
圭介は軽くため息をつき即答した。
一回でもこの山崎を田舎の両親と重ね合わせ、頼もしいと思ってしまったのが今は汚点のように圭介の心に広がっていた。
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