第11話 依頼

 圭介はそこまで話すと、再び注がれた昆布茶を飲んでため息をついた。


「ここなら、安いし前に供養してもらった人の評判もいいと聞いたから」


 だが、こんな子供が供養したとは聞かされていなかった。と心の中でぼやく。


「そうか、話はわかった、じゃあ明日にでも家に行こう」

「明日ですか……」

「また、友達の家にでも泊まればいいだろう」


 落胆した圭介に、ちょっと後ろめたげにアリスが言う。


「今日は……」


 彼女が泊まりに来るとかで、入れてもらえないのだ。


 いいかけたが、そんなことをアリスにいってもしょうがないし、それ以上に小学生にそんなことをいってはいけない気がしたので口を噤む。


 あの家に帰って寝たらまた悪夢にうなされるだろうし、命に別状はないとはいえ、あの夢のあとの疲労感と喪失感はあまり味わいたいものではない、今晩は寝ないか漫画喫茶にでもいって一晩過ごすしかないか。

 短く嘆息しながら、そんなことを考える。

 そんな圭介の姿に同情したのか、山崎がアリスに尋ねた。


「なんだ今日じゃ駄目なのかアリス?」

「今日は夕方から、アニメ祭りが放送されるのだ」


 アリスが口を尖らして即答する。


「アニメ祭り……」


 圭介が唖然とした表情でアリスを見た。お払いするにも、それなりの準備があるからとかではなかったらしい。


「ビデオに録画しとけばいいじゃないか、圭介がかわいそうだろ」


 いつのまにか呼び捨てにされているのはさておき、アリスをたしなめるようにそう言った山崎に大きく頷く。


「うーん」


 アリスは山崎を睨みつけた後、圭介を見て。


「明日じゃ、嫌か」

「できれば早く……」

「一応仕事なのだし、アニメ祭りより優先すべきなんじゃないのか、それともやはり小学生だから仕事よりアニメの方が大切なのかな」


 圭介も本当はそう言いたかったが、機嫌を損ねたくなかったので言葉にはださなかったことをズカズカと山崎が言ってくれる。

 アリスもそれには、「ムムム」となにか反論したげに口をパクパクさせたが、よい言葉が見つけられなかったようで、ガックシと肩を落とした。


「わかった、じゃあ山崎しっかりタイマー録画セットしておくのだぞ、私はやり方がわからないからな」

「へいへい」


 山崎が返事をしながら圭介にウインクを飛ばす。

 圭介は感謝の気持ちをもって頭を下げた。そしてちょうど話がまとまったとき部屋の襖が開いた。

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