五話 強敵と紡がれる言葉
「《ファイアーバレット》……ッ!」
スキル名を口にした瞬間、サヤの手のひらから火弾が放たれる。
狙いは三体のオークのうちの先頭の一体だ。
ゴウッ!
サヤの照準は完璧だった。
先頭の一体の土手っ腹に、見事に《ファイアーバレット》は直撃し、その体を燃え上がらせる。
『『ブヒッ!?』』
突如燃え上がった仲間を見て、オークどもが驚愕の声を漏らす。
自分よりも格下であるはずのスケルトンが魔法スキルを放ったことに恐怖し、二体とも後ずさる。
「逃さん、《エンチャント・ウィンド》……」
隙を見逃しはしないし、敵を見逃すつもりもない。
サヤは【スケルトンセイバー】で得たスキル、《エンチャント》を発動し、シグレの刀身に風を纏わせる。
タン――……ッ。
静かに、しかししっかりとした足取りでその場を飛び出した。
気流を操ることで、その速さは一瞬でトップスピードになる。
斬――ッッ!
動揺する一体のうちの腹目がけて、俊速の斬撃をお見舞いする。
突然の出来事、そしてあまりの激痛に、切られたオークが『ブギャァァァァァァ――ッ!?』と絶叫する。
【サヤ、避けるのじゃ!】
シグレの鋭い声が響く。
仲間をよくも! ……とでも言いたげな形相で、もう一体のオークが棍棒を振るってくる。
サヤは「わかっている」と応え、《エンチャント・ウィンド》の気流を生かし、軽やかにバックステップすることで難なく棍棒を避けてみせる。
「《ロックバレット》!」
着地とともに次なるスキルを発動する。
サヤが発動したのは【スケルトンメイジ】のクラスから得た《ロックバレット》だ。
サヤの目の前の空間に、拳大の礫が現れそのまま猛スピードで、前方に向かって放たれる。
パァンッ!
――と、乾いた音が鳴り響く。
《ロックバレット》がオークの棍棒にヒットし、それを砕いたのだ。
飛び散った木片がオークの眼球に突き刺さり、甲高い悲鳴が上がる。
「シ……ッ!」
鋭く息を吐きながら、サヤが刺突を繰り出した。
目を押さえ、暴れ回るオークが相手だというのに、その狙いは正確だった。
ひと突きでオークの左胸を捉え、そのまま心臓を貫いた。
【ふむ……サヤよ、お前は本当に飲み込みがいいヤツじゃ。まさかここまで早くワシとスキルを使いこなすようになるとは】
オークが崩れ落ちたのを確認しながら、刀身の血をビッ! と払うサヤに、シグレが称賛の言葉を送る。
新たなクラスとスキルを経て少し、サヤはいくつかの敵と対峙することで、それらを巧みに使いこなしつつあった。
体術、刀術、スキルの使用判断……この全てを驚くほどの速さで習得していくサヤに、シグレは感心しきりなのだ。
「そうかなのか? 我はまだまだだと思っているのだが……しかし、シグレに褒められると嬉しいな」
【ふふっ、嬉しいという感情と言葉も覚えたか。成長するお前を見ていると、本当に微笑ましいのじゃ……そのうち〝あんなことや、こんなこと〟を教えてやるから、楽しみにしておれ♡】
「あんなことや、こんなこと……?」
いつにも増して艶かしい声で言うシグレに、サヤはきょとんとした様子で返す。
あんなことや、こんなこととは果たして……。
それはさておき。
二人はさらに迷宮の奥へと進んでいく――
◆
「シグレ、あのモンスターは何だ?
「サヤよ、ヤツは〝ミノタウロス〟というモンスターじゃ。ランクはD〜Cの間でC−と言われておる」
岩陰でシグレとサヤがそんなやり取りを交わす。
その視線の先にいるのは、牛人型のモンスター、ミノタウロスだ。
オークよりも頑強な体、そして凄まじい膂力と、個体によっては魔法スキルを操ることができる。
「なるほど、ならば奇襲を仕掛ける」
【それがいい、決して油断するでないぞ?】
今までよりもワンランク上の相手だ。
スキルの練習などしている場合ではない。
サヤは最初から全力で挑むことにする。
シグレの忠告に小さく頷くと、岩陰から照準を合わせ――
「《ロックバレット》……ッ」
――小さな声で魔法スキルを発動する。
ロックバレットは真っ直ぐミノタウロスへと飛んでいき、その左肩に着弾、大きく肉を抉った。
恐らく骨まで達したのだろう。
『ブモォォォォォォォォォッッ!?』
と、絶叫するミノタウロスの左腕は、支えを失ったかのようにだらりと下がっている。
「奇襲成功だ、このまま強襲する……ッ!」
苦痛に悶えるミノタウロスの姿を見て、サヤが飛び出した。
ここでも《エンチャント・ウィンド》を発動し、超スピードで敵に接近する。
『ブモ……ッ!』
凄まじいスピードで接近してくるサヤに、ミノタウロスが反応する。
なんという胆力だろうか、肩の骨を肉ごと抉られたというのに、もう片方の手で戦斧を握り、構えたではないか。
「面白い……!」
そんなミノタウロスの姿を見て、サヤが愉快そうな声色で言葉を漏らす。
今まで魔法スキルを食らった敵は、ジタバタとのたうち回るばかりだった。
だがこの敵は、これほどの重傷を負っても戦う意思を見せた。
なぜかサヤはそれが嬉しく感じたのだ。
「ハ――ッ!」
サヤが横一文字の斬撃を放つ。
狙いはミノタウロスの腹だ。
だがしかし……。
ガキンッ!
そんな音とともに、サヤの斬撃はミノタウロスの手にした戦斧に阻まれた。
(片腕だというのに何という速さ、これがミノタウロスか……!)
サヤが驚いた表情――はできないが、内心で驚愕する。
刀術の練習を始めてから、自分の斬撃を見切られたのが初めてだったからだ。
『ブモォォォッ!』
ミノタウロスが雄叫びを上げる。
そのまま戦斧を振り払い、サヤに斬撃を与えようとする。
【バックステップじゃ!】
「わかっている!」
シグレから警告が飛んできたと同時に、サヤは大きくバックステップする。
目の前を通過していくミノタウロスの戦斧――
一歩遅れれば、サヤは無視できないダメージを負っていたことだろう。
「シグレで強化された我でもパワーで負けるか……ならばスピードで勝負するまでだッ」
そう言って、再びサヤは飛び出した。
そのままミノタウロスの懐に飛び込む――かと思いきや、《エンチャント・ウィンド》で纏った気流を操り、その場でサイドステップをする。
迎え討とうとしたミノタウロスの戦斧が空振る。
そしてその隙を突いて、サヤが片腕で斬撃を放つ。
だが、深くは切り込まない。
妖刀であるシグレの切れ味であれば、そのまま深くまで切り込むこともできるだろう。
だが、そうなればミノタウロスは痛みを耐えて、戦斧による強撃を放ってくるはずだ。
もしそれがサヤの首の骨に当たりでもしたら、ひとたまりもない。
なので、小さな傷をいくつも負わせて、戦闘不能に追い込む作戦に出たのだ。
サヤが仕掛ける、ミノタウロスの戦斧が空振る、そしてまたサヤが仕掛ける――
こんなやり取りを幾度も繰り返したその時だった。
『ブモ……ッ』
ミノタウロスが戦斧を地面に捨てた。
一体どういうつもりなのか……。
何か企んでいるのかもしれぬと、サヤはさらに距離を取る。
すると――なんと、ミノタウロスがその場に膝を折って跪いたではないか。
次の瞬間……カッッ! とサヤの体が青白い輝きに包まれた。
戦いの最中だというのに、どうやら新たなクラスに目覚めたようだ。
『強き者よ、完敗です……』
野太い声が聞こえた。
声はミノタウロスの方から聞こえてきた。
「まさか……」
そんな言葉を漏らしながら、サヤはミノタウロスに目をやる。
ミノタウロスは跪いたまま、まるで崇めるかのような瞳でサヤのことを見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます