四話 想像以上の実力と新たなクラス

【んむぅ……なんじゃサヤよ、ずっとワシの胸の中におったのか?】


 数刻後――


 シグレが目を覚ました。

 彼女の言った通り、サヤはずっとシグレに頭を抱かれたままになっていた。


「ダメだったか? よく寝ているから起こさぬようにしていたのだが……」

【ふはははははっ! そうか、ワシを思って動かずにいてくれたのか、本当に可愛いヤツじゃ……】


 サヤの言葉を聞くと、シグレは寝ぼけまなこのまま、サヤの頭をより深く抱き込む。


 白く柔らかな胸の中に埋もれるサヤ……。

 彼は無言で、それを受け入れるのだった。


【さて、可愛いお前とずっとこうしていたいのは山々だが、そろそろ行くとするのじゃ】

「ああ、外の世界を見る為に、何より強くなる為に敵を倒さないとな」

【うむ!】


 サヤの返事に、シグレは満足げに頷くと、そのまま妖刀形態へと変身し、彼の左手の中に収まる。

 サヤは妖刀へと変身した彼女の柄を右手で軽く撫でると、小さく頷いて安全地帯を後にする。


(サヤに撫でられるの……気持ち良かったのじゃ……)


 シグレはそっと、心の中でそんなことを呟いていた。



「む、ゴブリンか。だが今までと格好が違う……?」

【ほう……気づいたか、サヤ。その通り、アレの名は〝ゴブリン・メイジ〟と言って、通常のゴブリンとは違う戦い方をする個体じゃ】


 次の階層へと移動したサヤたちの前に、一体のゴブリンが現れた。


 サヤの言った通り、今までの個体とは格好が違う。

 これまでの個体はボロ布の貫頭衣を着ていたのに対し、この個体は革製と思われるローブを羽織り、手には木製の杖のようなものを持っている。

 ゴブリンが長い年月をかけて新たな戦闘スタイルを獲得した変異種だ。


【サヤよ、ヤツの動きをしっかりと見ろ。今のお前であれば対処できるはずじゃ!】

「わかった、敵の動きを見極めてみせる」


 シグレの言葉に、サヤは小さく頷いて返事をする。

 そして敵……ゴブリン・メイジを静かに見据えた次の瞬間――


『グギャッ! 《ファイアーボール》ッ!』


 そう叫んだ敵の杖、その先端から火の玉が飛び出した。

 その名も《ファイアーボール》、炎属性の下級魔法スキルだ。

 ゴブリン・メイジはいくつかの下級魔法スキルを使えるように進化した変異種なのだ。


「……ッ!」


 骨だけのはずのサヤの体が強張った。


 アンデッドモンスターにとって、炎属性は弱点となる。

 本能的に、サヤはそれを感じ取ったのだ。


 だが……サヤが強張ったのは一瞬だった。


 敵を動きしっかり見ていれば対処できるとシグレは言った。

 ならば自分はそれを実行するまでだ。


(ここだ……ッ!)


 飛来する火球を見据え、サヤがシグレを振り抜いた。

 そして……。


 ゴウ――――ッッ!


 凄まじい音が鳴り響く。

 その刹那……火球は真っ二つに割れ、サヤの後ろへと通り抜け小規模な爆発を起こした。


『グギャッ!?』


 ゴブリン・メイジが驚いた声を上げる。

 そしてサヤの手の中でシグレでさえも……。


【お、驚いたのじゃ……まさか魔法スキルを叩き斬ってしまうとは……】


 ……そんな呟きを漏らす。


 シグレはあくまで、敵の魔法攻撃の動きを見切って回避するように助言したつもりであった。

 だが、サヤは《ファイアーボール》を回避するどころか、魔法スキルそのものを叩き切ってしまったのだ。


 敵の魔法攻撃を見切るだけでなく、その動きに合わせて斬撃を放つとは……シグレは思いもよらなかった。


「《エンチャント・フレイム》……ッ!」


 ゴブリン・メイジ、そしてシグレが呆気にとられる中、サヤが静かにスキル名を口にする。

 次の瞬間、シグレの刀身に紅蓮の炎が纏わり付いた。


『グギャッ……!』


 サヤがスキルを発動したことで、ようやくゴブリン・メイジが我に返る。

 だが、時すでに遅し。


 ボウ――ッ!


 サヤはシグレによって強化された速さを駆使し、空気を焼き尽くす音とともに紅蓮の斬撃を放つ。

 ゴブリン・メイジは腹を焼き切られ、断末魔の叫びとともに崩れ落ちた。


 ビュンッ! とシグレを振るい、《エンチャント・フレイム》を解除するサヤ。


「どうだ? なかなかうまくいったと思うが」

【う、うむ。よくやったのじゃ……】


 シグレは歯切れ悪くそう応える。

 人間形態であったなら、引き攣った笑みを浮かべていたことだろう。


 そんな時であった……。


「む、また体が光だした……新たなクラスを得たのか?」

【ふむ、どうやらそのようじゃな。それ、ステータス展開なのじゃ!】


 サヤの体が青白い輝きを放ち始めた。

 彼らの言う通り、新たなクラスを得たようだ。


 さっそくどんなクラスを得たのかサヤの見せようと、シグレが彼の視界の中にステータスを展開する。

 

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名前:サヤ

種族:スケルトン

ランク:Eランク

所持クラス:【スケルトンセイバー】【スケルトンメイジ】

スキル:《エンチャント》《ファイアーバレット》《ウォーターバレット》《ウィンドバレット》《ロックバレット》

装備:妖刀・闇時雨

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「クラスの欄に【スケルトンメイジ】、それにスキルの欄に新たに四つのスキルか……まだ、全ての《エンチャント》スキルを試してしないのに、ずいぶんと増えたな」

【恐らく、ゴブリン・メイジのスキルを見切ったことでクラスに目覚めたのじゃろうな。喜べサヤ、新たに手に入れたのは魔法スキルのようじゃ。これでお前も近接攻撃以外の手段を得たのじゃ!】


 まだ既存のスキルを試し切れていないのに、新たのスキルを得たことに少々戸惑うサヤ。

 対し、シグレは嬉しそうな声で新たなスキルについて説明を為す。


 彼女の言う通り、サヤが新たに手にしたスキルは魔法スキルだ。

 その効力は……まぁ、名前から想像もできそうなものだし、実際に使うところを見てもらえればわかるだろう。


「魔法スキルか……攻撃手段が増えると選択に迷いそうだが……判断力も鍛えるとしよう」

【うむ。ワシがしっかりサポートしてやるから、安心して戦うのじゃ!】


 全力でサポートすると言うシグレの言葉に、サヤは彼女の柄部分を優しく撫でて応える。


 シグレは小さく【ひゃぅ……っ】と蕩けたような声を漏らすのだった。

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