第36話 フリードライバーの、怒り。「労働者を、何だと思っているんだ!労働者の命よりも、客に荷物を届けるほうが、大事だというのか!」

 物流は、簡単じゃないんだな。

 労働者の身分も、大問題。

 今や、コスト削減の目的もあってか、企業形態に縛られないフリーの労働者が増加。

 そんな、フリーの姿なんだけれど…?

 フリーなんて、格好の良いものじゃない。それどころか、危険。

 プルルルル…。

 配達元へ、電話。タカクラは、パーキングエリア内にいた。

 「はい」

 「ドライバーの、タカクラです」

 「何です?」

 「非常に、気分が悪い状況です」

 「はい?」

 「発熱もあると、思います」

 「それで?」

 「もう、運転ができません。明日は、休暇をとらせてください…」

 「ダメです」

 「え?」

 「認めません」

 「え、え?」

 「休みたいのなら、交代要員を探してください。できなければ、罰金です」

 「はあ?」

 「すぐに、交代要員を探してください」

 誰と話していたのかすら、フリーのドライバーには、わからず。

 エッチだな。

 「労働者を、何だと思っているんだ!労働者の命よりも、客に荷物を届けるほうが、大事なのか!」

 学習塾の講師仲間だったオカムラの顔が、浮かんだ。

 「あいつに、交代を頼むか…。塾の講師時代、ヤマシタと気が合わなくて、まわりが苦労したもんだ。懐かしいよな。…そんなあいつは、この仕事でも、仲間。交代要員になってくれることを、願う」

 その、矢先。

 プルルルル…。

 また、電話。

 運転中には、電話に出られない。

 イヤホン通話に、切り替えた。

 電話の相手は、メガネの似合う同僚、イケダだった。

「おお、イケダか」

 「タカクラさんさあ…」

 「どうした」

 「俺…死んじまったんだよ」

 「何?」

 「俺…」

 「オラは、死んじまっただ?」

 「…」

 「酔っぱらい運転で、か?」

 「何すか?」

 「そういう歌を、知らんのか?」

 「…歌?」

 「いや、何でもない」

 「とにかく、俺、死んじまいました」

 「おい!」

 「オカムラも、死んじまったらしい」

 「イケダ?何を、言っているんだ!」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る