第9話 正社員は、動かない。非正規の人が、謝りにいかされる。非正規がつぶされ、じいじとばあば、会社が助かる。ほら、野球の犠牲バントだ。

 「先輩?会社の偉い人たちは、内心、ホッとしたりいないんですか?」

 「さあ、どうだか」

 「この契約切りで、それほど文句も出ずに、人員が整理できたんですよ?」

 「言うなあ。お前は」

 「本社勤務の人たちは、弱者の涙を、どう思うんでしょうね?」

 「どうとも、思わないさ」

 「先輩。すみません…」

 「ははは…。謝らないでくれ」

 「すみません…」

 先輩は、呆れていた。

 「いつも謝ってばっかりで、クセになっちゃったのか?」

 「すみません」

 「ツバキ?」

 「はい」

 「終わったよな。何もかも…」

 「そうですね」

 「終わっていないのは、下宿先の部屋の掃除くらいだ」

 「タツミ先輩?…謝りにいって、疲れましたよねえ。あんな謝罪ばかりで、良かったんですかね?あれで、謝罪になるんですか?謝るべき人が謝りにいかないで、非正規組が謝って、意味があったんですかね?」

 「また、それか」

 「…」

 「ツバキは、犠牲バントの社会を、どうしても、認めたくないんだな」

 「…」

 「謝罪なんてものは、形だけ」

 「…形」

 「あの人たちは、謝罪した形を残してもらいたいだけだったのさ」

 「それは、知りませんでした」

 「勝ち組世代を、見てみろ」

 「…」

 「プライドの高い、爆弾たち。弱い身分の人に謝ってもらわないと、気が、済まないんだよ」

 「それもまた、エロいですね」

 「…ああ」

 「日本が、変態になる」

 「勝ち組世代たちには、早く、いなくなってもらいたいよな」

 「ですね」

 「正社員たちは、動かない。結局、非正規の俺らが、謝りにいかされる」

 「…」

 「ほら、犠牲バントだ」

 「打っても勝っても、ほめられない…。ああ、本当ですね」

 「そうだろう?」

 「…」

 「ツバキ?」

 「何ですか?」

 「ククルスドアンの店って、聞いたことがあるか?」

 塾講師の仲間たちは、それぞれ7つの罪の世界に堕ちていた。



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