第5話 「私を、はじめました?」エッチな、予感だぞ。 温泉旅館のような、たたずまい。「いらっしゃい」のれんをくぐると、ドキドキしてくる女性が…。

 移住を決心するまでは、甘くなかった。

 ツバキは、子どものカワセがまだ小さかったころに、勤めていた学習塾をやめることになったのだから。

 生活、どうするよ?

 塾長に呼ばれた、ツバキ。

 「今日で、契約終了です」

 「…」

 「ツバキさん?」

 「はい」

 「わきまえてください」

 「…」

 それまで信頼していたはずの黒ひげ塾長が、モンスターにすら見えていた。

 「ツバキさん?」

 「はい…」

 「あなたは、契約社員」

 「はい」

 「我々のような正社員では、ないのです」

 「…」 

 書類にいくつかのサインをさせられただけで、塾を去ることとなった。

 「ツバキさん?今まで、ありがとうございました」

 「終わりなんですね」

 「それは、困りますね」

 「…え?」

 「うちの会社が終わっちゃうみたいな、言い方でしょう?」

 「すみません」

 「お疲れさまでした」

 「はい」

 「ツバキさん?どうされました?」

 「…」

 「もう、帰って良いのですよ?」

 「…」

 「あなたは、契約正社員の身分なんですよ?」

 「…」

 「お疲れ様でした」

 花は、散った。

エロい言い方。

 勤めていた学習塾を後にして、町を、ぶらぶら。

 と、突然、ツバキの下半身が、むずむずしてきた。

 ええ…?

 「私を、はじめました?」

 変わったキャッチコピーののろしが掲げられていた店が、目に入った。

 温泉旅館のような、たたずまい。

 のれんを、くぐった。のれんには、野球の絵が描かれていた。

 「いらっしゃい」

 余裕のある女性の、声。

 店の中では、巨大な換気扇が、ゴオン、ゴオンと、回っていた。

 「でかい、換気扇だ…。まるで、TV版のエヴァで、ミサトに殺される前のカジの背中で回っていたやつの、ようだ。あのゴオン、ゴオンは、カジの死を、暗示していたんだったな。これから、この男は、死にますよ。巨大な刃物で、首を、落とされるように…ってな意味で」

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