第3話 衝突

部屋の机の上に担任からもらったパンフレット並べた。

一通り目を通したが、どれも同じに見え、

行きたいと思えるところはなかった。


パンフレットを机の端によせ、

漫画を読もうとした時、

突然部屋のドアが開いた。


「帰ったんなら、帰ったって言いなさいよね」

「昨日の話なんだけどさ、本当に大丈夫なの」

「何このパンフレット。あんたの学力でこんなとこ行けんの!」

「いっつもマンガばっか読んで、何考えてんの!」

「隣の家の息子さん、まだ1年生だけど、予備校行ってるんだって。

 アンタはどうすんの!」


「ノックしろよ!」


「ノック?したでしょ」


「してねぇよ!」


「そんなことはどうでもいいでしょ!」

「今はアンタの話をしてんの!」

「予備校行くんなら、手続きするけどさ」


「部屋から出ろよ!!」


「何怒ってんのさ!」

「3者面談までに進路希望、出さないといけないんでしょ!」

「どうなってんのよ!」


「うるせぇんだよ!!」


「ちょっと、押さないでよ!」


「早く出ろって!!」


母さんを部屋から追い出し、

力いっぱいドアを閉めた。


1人になり、布団を頭にかぶった。

恥ずかしさで頭の中は、いっぱいになった。


「思春期かよ」

自分に突っ込んだ。


「はい」とうなづいて、いつも通り流せばよかった。

でも、我慢できなかった。

我慢できなかったのは、母さんが言ってることが

間違ってないと思うからだ。


分かってるんだよ、そんなことは。


母さんと顔を合わせるのが気まずくて、

夕ご飯は食べずに、部屋で過ごした。


ベットの上で、仰向けになり、

何もない天井を見つめていた。


ふと、あの女子の事を思い出した。

朝はなんで俺に対して、あんなに怒っていたのか

分からなかったが、

今なら少し分かるような気がする。


見下されたとか、言ってたけど、

一番の理由はそんなことじゃなく、

ただの八つ当たり、なんだと思う。

どうにもならなくて、

情けない自分を守るためのバリアなんだ。



今日も早く目が覚めた。

家にいたくなかったので

すぐに家を出るため、玄関に向かうと、


「朝ごはん食べないの?」

母さんに見つかった。


無視して行こうとすると、

「私は思ったことは言うから」

「でも、最後に決めるのは、あんたなんだからさ、

 人のせいにしないで、ちゃんと悩みなさいよ」


何か言ったら、バリアが解けそうな気がして、

俺は母さんを無視して家を出た。


コンビニで時間をつぶそうと思ったが

先客がいたため、そのまま学校に向かった。



学校に着くと、

グラウンドの方から何かを振る音がする。

音のする方に近づくと、昨日の女子が練習をしていた。


毎日朝練をしてるのか。

才能のないことを努力したって、

意味はない、無駄なんだ・・


しばらく女子の練習を見ていたが、

昨日みたいに見つかったら面倒なことになる。

静かに立ち去ろうとした時、


「田辺、何やってんだ」


振り向くと担任が立っていた。

「別に何でもないです」


「まだ早いだろ、親とケンカでもしたか」


「・・そんなことしないですよ」


「そうか・・・なぁ田辺、昨日のパンフレットは見たか」

「今から頑張れば、合格できると思うんだがな」


「そうですかね」


もらったパンフレットの大学は

今の俺の学力だと、合格するのは難しい。


「お前はやれば、なんだってできるんだからな」

担任はそう言って、笑顔で去って行った。


悪い人じゃないけど、

やればできるって、無責任だよな。

何の根拠があるんだよ。


そんなことを考えていると

背後から、あの女子が話しかけてきた

「また、見下しに来たんですか」

「ヒマなんですね」


何も言ってねぇだろ。

この女、自意識過剰かよ。

お前の事なんか見てねぇよ。


無視して立ち去ろうとした時に、

女子はぼそっと言った。


「何もやってないくせに」


カチンときた。

俺は女子に近づいて、にらみつけた。


「な、なんですか」

女子は驚いた表情をしている。


「この前から何なんだよ」

「俺の事にらんだり、一方的に文句ばっか言いやがって」

「俺、あんたに何も言ってないよな」

「自分の劣等感で、八つ当たりするんじゃねぇよ!」


怒りが収まらない


「そこまで言うなら、教えてやるよ」

「あんたの言う通り、見下したよ」

「あんた、ソフトの才能全然ないって」

「早く気づけよ!分かんないのかよ!」

「下手過ぎて、チームで浮いてんだよ!」

「いくら練習しても無駄なんだよ!!」


言ってしまった。


何か反論されると思ったが、

女子は下を向いたまま、何も言わない。


さすがに言い過ぎた。

これは女子への怒りだけじゃない。

俺も八つ当たりをしてしまった。


まだ、女子からの返事はない。


顔を覗き込むと

目に涙をためていた。


なみだを腕でぬぐって

走り去っていった。


女子が振っていたバットには

血が付いていた。


女子の努力を俺は、

無駄だと言ったんだ。


俺と女子は考え方が違う。

でも、否定していい理由にはならない。


言うんじゃなかった。

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