第一回 究極の異能力バトル 終幕

 その様をジッと離れた木の陰に隠れて見ていたのは祖品だった。

「今、姿消えたな……時間停止? 治癒能力じゃなくてあっちが本命か」

 武器が即死級の殺傷力を持つ刀や槍では無く杖だという事を考えると既にで打撃を加えていたかも知れない。

「困ったな、有本さんめっちゃ強いやん」

 数秒考えるがええいとばかりに弓を取り出し、矢を番えた。

「けど俺の武器は弓や。数秒止めた所でこの距離、反撃喰らう事はないやろ」


 そして実はこの時、祖品とはまた違う角度から田上と有本の戦いを見、勝者の有本を狙おうとする祖品をも視界に入れていた人物がいた。最後の一人、指川だった。

「架純ちゃんのあれは時間停止、じゃないな。瞬間移動だね。時間停止なら私達にも止まった映像が見える筈だしね」

 指川の言う通りだった。実際に時を止める能力であれば能力の範囲内は発動した本人以外は全て止まって見える。そこに気付いたのは逆に指川が小説や漫画に毒されていないからでもあった。

「うーん。どっちにしても厄介だね。私と相性悪いな」

 有本が瞬間移動という能力の他に治癒という職業固有の能力を持っていたのと同じく、指川にも動きを遅くする能力ともう一つ、舞姫という特殊な職業の特殊能力があった。だがそれを以ってしても瞬間移動は相性が悪いと思われるものだった。

「祖品さん、行け!」

 小声で無責任に祖品を応援した。


 一方、有本はそんな事など露知らず、

「さてここから離れなきゃ……」

 ピュンッ!

 田上が持っていた弓を取ろうと屈んだ瞬間、今の今まで頭があった所を通り過ぎ、近くの木に矢が刺さる。

「ひえっ」

 瞬間移動が使える様になるまでまだ数秒かかる。更に攻撃して来たのが誰か、場所は何処なのか、有本は把握出来ていなかった。


「しもた! 外したぁ!」

 祖品が歯噛みする。が、直ぐに次の矢を構える。

「あかん。時間置いたらヤバい。早よいかな」

 パシュッ! パシュッ!

 だがチョロチョロと逃げ回る有本に当たらない。有本が矢の方向から祖品の位置を掴む。そのまま杖を振りかぶり、そして―――

「うわ! 消えた! ヤバい!」

 祖品の視界から有本が、消えた。

 と同時に祖品の視界一杯に現れたのは杖! 逃げ様も無く、その杖は祖品の顔面にクリーンヒットした。

 バッキィ!

「うっわ! いった!」

 怪我、流血状態となり、更に著しく呼吸が上がり、体力が削られた。頭から後ろに倒れ込み更にダメージを受けた。

「あ~怖かった……」

 有本はそう呟き、止めの一撃を振り上げた、そこで自分の体が動かなくなっているのに気付く。いやそうではない。動きが極端に鈍くなっている。

「え? これは……動きを遅くする能力スロー?」

 目の前の現代人の格好をした男の能力か? だがそうであればさして問題は無い。目の前のアバターは先程の一撃で最早動けない。能力が時間切れになるのを待って再び攻撃を加えれば勝つ。だが、

「ひょっとして……」

 背後から足音が聞こえてくる。ゆっくりと緩慢な動作で有本は振り向いた。

 派手な化粧と美しい着物、妖艶なビジュアルを持った女性アバターが直ぐそこまで近付いて来ていた。

「有本さん、指川です」

「指川さん」

「時間が経つとまた瞬間移動されます。すみませんがらせて貰いますね」

 言い様、薙刀を斜めに振るう!

 ズバババッ!

 鮮血が飛び散り、有本がその場に倒れる。有本の手が光った気がしたが何も起こらなかった。

「ふぅ。一番厄介な有本さんを倒せた。あーこわ。後は」

 指川は倒れている祖品に視線を移した。油断せず再び薙刀を構えて、だ。だが祖品は打撃によるダメージで動けない様だ。

「誰か分からないけど、このままらせて貰いますね」

 躊躇無く薙刀を振り下ろした。

「フン!」

 祖品が動いた! しかも致死ダメージを受けている状態の動きでは無い。俊敏に回転し、有本が持っていた杖を手に取り、起き上がり様、指川を突いた。

 ドフッ!

「うわっ!」

 後方へと吹き飛ぶ、が何とか堪え、指川は体勢を保ち立ち上がる。

「何で⁉︎」


 その数秒前。

 死ぬ寸前だった祖品は有本へ小声で話し掛けた。

「有本さん、俺を治癒してくれ」

 返事は無かったが即死状態となった有本は死ぬまでの二秒間を利用して祖品に治癒を掛けた。

 祖品は回復した。元々見た目に派手な傷も無かった祖品が回復している事に指川は気付かなかったのだ。


「架純ちゃんが回復してくれたんや。まだ動きを遅くする能力スローは使われへんやろ。漁夫の利はさせへんで!」

 言いながら指川の懐に飛び込む祖品だったが突然指川が踊り出す。

「何や?」

 それと連動する様に祖品の動きが止まった。

「あれ? あれ? 動かへん。あれ? ちょ、どこ行くねん!」

 祖品のアバターはくるりと違う方向を向き、杖を放って歩き出した。

「あ、おい!」

「ふんふふん、ふーんふんふんふん」

 かつて指川が所属していたアイドルグループでセンターを取った曲のサビ部分を鼻歌混じりで歌いながら祖品の背後に近寄った。

「危なかったぁ……祖品さんですね? らせて貰います!」

 それは舞姫の特殊能力、魅惑。舞を見た者は敵意を向ける事が出来ない。

「うっわ、それは汚い、ズルいわ!」

 それが祖品の最後の言葉だった。数瞬後、彼の頭部は銅から離れ、木の根元へと転がった。


 そして遂に指川の耳に直接その声が聞こえた。


(指川さんを除き、全員リタイヤとなりました。勝者は指川さんです)



 指川莉央、千百ポイント。


 ◆◇◆◇



 画面はスタジオに戻った。

 参加者達は雛壇の構成で座っていた。

『いっやぁ……白熱しました。すっごかったなぁ!』

 MCのお笑い芸人、今口いまぐち公司こうしが興奮冷めやらぬ口調で出場者に語り掛ける。

『どうやったサッシー、やってみて』

 指川が口に手を当て、身を乗り出して笑顔を見せる。

『いやもうほんと、めっちゃくちゃリアルで。最後祖品さんに杖で突かれた時、私お腹押さえましたもん』

 今口は感心した顔付きで、

『お腹押さえた、いっやでもほんまリアルやったなあ、これ俺もやりたいわあ、MCやなくて。祖品、どうやった』

 祖品へと話を振った。祖品は背筋を少し伸ばし、

『いやほんまめっちゃくちゃリアルですよ。あれテレビでは映ってなかったですけど、視界変えれるんですよ。今ずっとこう、うたら後頭部越しに映ってたじゃないですか。あれ、ほんまにこう自分で見てる感じに変えれるんですよ』

『そうなん!』

『そうなんすよ。その視点であのゲームの世界見たらもう、めっちゃリアルっすよ。ただやっぱりちょっと情報量少なくて怖いんと、あと若干酔うんすよね。ほんでやめたんですけど』

 感心する事しきりの今口がそれを聞いてまた仰反る。

『やりたいわぁ……俺も酔いたい!』


 そんなスタジオのやり取りを黙って見ていた。

 高梨と船場は時々笑っていたが俺はまだ対決バトルの興奮が続いていた。

 かなり良い出来だった。番組として見ると初回の放送としては満点と言って良い出来だ。皆、知恵を絞って戦った。特に最後は二転三転し、見応えのある、納得のいくバトルだった。


『有本さんがね、めっちゃ怖いんですよ。やった事あるんちゃう、思たんですけど』

 言ったのは祖品だ。確かに今回のMVPと言えるだろう。特に最後の祖品への治癒はクライマックスを大いに盛り上げた。

『いや瞬間移動と治癒があったので、簡単に負けられないなと思って頑張ったんですけどね』

 微笑みながら有本が言った。今口がその有本を見て、

『架純ちゃん、最後、何で祖品治癒したん? 自分治したらええのに。何で祖品なん。何であんな奴』

『いや今口さん言い過ぎ、言い過ぎですわ』

 そのやり取りに有本は笑いながら返した。

『一瞬そう思ったんですけど、私あの時指川さんのスローで動けなくて』

『ああ、ほんであんな奴治したんや』

『あんな奴て』

 そこに黙っていたケンドーコシナカが口を挟んだ。

『いやでもあのせいで最後、滅茶苦茶盛り上がりましたよね。まさにジョジョの世界ですよ』

『コシ、お前……すぐ負けとったな』

 今口が堪え切れないと言った表情で笑いながら言った。

『いやだって肉体がサンタナですよ。能力がストーンフリーですよ。負けへんでしょ』

『アッハッハ。お前が勝手にうとるだけやんけ』

『何が悔しいってね、オラァ言わなあかんところで無駄ァ言うてもうた事ですよね』

『アッハッハ……言うとった言うとった』


 そうして番組は盛況の内に終わりを迎えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る