第一回 究極の異能力バトル(ケンコシvsサッシー)

 マップ東の中央辺りに配置されたのはケンドーコシナカだった。

「何やこれ、鬼みたいやけど」

 他のアバターより二回り程も大きな肉体を持ち、筋骨隆々、武器はどうやら素手という事らしかった。フィジカル最強の職業、見た目そのままの『オーガ』である。

「よし。この体にはッ!『メキシコに吹く熱風』という意味で『サンタナ』と名付けよう!」

 ブンブンッと素手によるパンチを繰り出し、自らの戦闘力を確かめる。この肉体であれば武器が無くとも戦える。ケンドーはそう確信する。

「能力は……い、糸!」

 伸ばした手の先から糸を出すと目標の位置へとスルスルッと鞭の様に伸びて蠢いている。

「来ったぁぁ! 六部の主人公、ジョリーンのスタンドじゃないですか」

 何度も糸を出したり戻したり、木に縛り付けたりボールの様に固めて飛ばしたりなどを繰り返す。

「ラッシュはオラオラで決まりですね」

 笑いながらそう言い、周囲を警戒する事なく大きな足音を響かせながら獲物を探して中央の林エリアへと走り出した。


 その正反対、マップ西側に配置されたのは沢井だった。彼の職業は現代人(知能派)。特に何かに秀でている訳では無く、寧ろ体の反応は鈍い。すぐに周囲を警戒し、林の方へと進む途中で遠目に侍の格好をしたアバターを発見した。

「ん?」

 突如そのアバターが視界から消え去った。と同時にその位置と林の直線上に無作為に降り注ぐ巨大な氷の攻撃。それは恐ろしい程の破壊力だった。能力は例外を除き一人につき一つである。なら、

「あれは多分……もう一人との戦闘が既に始まっているな」

 そう結論付け、その付近を迂回して林へと突入した。


 林エリアのほぼ中心。そこにいたのは有本架純。白いローブを纏い、手に杖を持っている。

「え、どうしよ。こんな格好余計目立っちゃう……」

 取り敢えず周囲に敵はいない。彼女は一旦その場に潜む事にした。


 同じく林エリア、東側の端。

 薙刀を背負い、胸元が大きく開き、膝から下の美しく長い足が眩しく覗く妖艶なアバター。顔には派手な化粧を施し、それに劣らない真紫に輝く着物に身を包むその女性アバターは指川莉央だった。

「うっわ。これって『舞姫』って奴ですよね。私にピッタリじゃん」

 その場で一回転、ヒラヒラとスカートの様に着物を舞わせ悦にいる。

「着物がめっちゃくちゃ可愛いんですけど……ちょっと派手過ぎない? なんか隠れる能力だったら良かったんだけどな……あっ!」

 平原の方から鬼の様な巨躯を持ったアバターがやって来るのが見えた。無論それは指川には誰かは分からない。かなり遠くから地響きの様な足音をたててやってくる。

「こっわ! でもこんなとこ隠れたってすぐバレるよね。どうしよ……」

 とはいえ真っ向勝負だと分が悪い。隠れきれないのは承知の上で指川は一旦林の中に身を潜めた。


 一方のケンドー。

「今、何かおったな」

 林の手前で感付いた。チラリと見えた濃い紫色の何か。

「林にあんな色がある訳ないやろ。敵ですね」

 そう断定する。だが歩みを止めずそのまま林に無造作に突っ込む。

「サンタナの体にストーンフリーのスタンド能力ですよ。絶対に負けませんわ」

 太い声でそう言い、紫色の何かが見えた所へ向かって走り出す。

「見えた!」

 木の影から紫の着物がはみ出ている。ゆっくりと下へと動いている。自分に気付いて木の影に隠れ、絶望してへたり込む所か。

「無駄ぁぁっっ!」

 隠れている木の裏側から、その幹よりも太いと思われる剛腕を真っ直ぐに振るい、真っ二つに折った!

 バキィィィッ!

 乾いた音が鳴り響き、ゆっくりと地面に倒れ行く。

「しもた。つい無駄ァうてもうた。ハッハ」

 腰を下ろして倒れた木の下を覗き込み、紫の着物の切れ端を見つける。

「ん? あれ?」

 木を退け、着物を引っ張り出す。だがそこにあったのはその着物だけだった。中にある筈の体がそこには無い。

「あ、これヤバい奴や」

 その瞬間、風を切る音がして斜め後ろを見上げる。

「動かないで!」

 着物を脱ぎ下着姿となった指川が薙刀を振り下ろしながらケンコシの頭部目掛けて飛び降りて来たのだ。

「いや動くやろ!」

 だがアバターは動かない。

「んあ?」

 いや、動いてはいるが途轍も無く動作が鈍い。ケンドーが奇妙な呻き声を発した次の瞬間。

 バシュッ!

「うあああああっ!」

 頭から縦に真っ二つに斬られたのはケンドーコシナカのアバターだった。

「ストーーーンフリーィィ!」

 実際の能力名はそんな名前では無いのだが勝手に自分で決めたその名前を大声で叫び、リタイヤとなるまでの二秒の間に指川に向かって糸を伸ばした。だがその糸は指川に巻き付いた瞬間に消え去ってしまう。ケンドーのアバターがリタイヤとなった為だ。爆発や炎などであれば一矢報いる事が出来るが糸や鈍足などの能力は本体のリタイヤと同時にその作用が消えてしまうのだ。

「うわぁ。薙刀、強い! 動きを遅くする能力スローと相性、良くない?」

 指川が可愛く飛び跳ねて喜ぶ。ケンドーが見た、木の影でゆっくりと落ちる着物は指川が脱いだ着物を木に投げ、動きを遅くする能力スローをかけていたのだった。ケンドーの巨躯を見て木ごと破壊される可能性を考え、その隙に真横の木に登りケンドーが着物を確認する瞬間を待ち構えていたのだった。

「あ、この格好恥ずかし……」

 不意に自分が下着姿である事を思い出し、いそいそと着物を羽織り始めた。



 沢井、0ポイント。

 アンガーライズ田上、二百ポイント。

 祖品、三百ポイント。

 有本架純、0ポイント。

 指川莉央、百ポイント。


 開始十分程で早くも三人がリタイヤとなった。

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