収録(四)

 これは驚いた。しかも職業は『現代人(知能派)』だ。強くは無いがステータスが著しく低い時に逆転の目が出易い職業だ。運が良い、という意味では無く全ての攻撃の当たり判定が大きくなり、回避においてもターゲットから外れやすくなる。これは色んな能力バトルを題材にした作品がすべからくそういった補正が入っている事を元にしている。


 思わず拳を握りしめる。これは期待出来る。沢井なら勝ち抜く事が出来る筈だ。


 だが ―――



 ―

 それから二か月が経ち、十二月となった。

 特番枠では有るものの、待ちに待った『究極の異能力バトル』放送の日がやって来た。録画しつつ一人でじっくり、番組としてどうだったかを再検証しようと思ったのだが何故か船場と高梨が俺の家に来ている。高梨の「一緒に見ようや!」の鶴の一声だった。そう言えば五味は年末だと言うのに社員と一緒に会社に集まって皆で見ると言っていたな。


「後五分! 始まるで、始まるで!」

 そうだ。始まる。船場が買って来てくれた酒を片手に高梨が興奮する。俺と高梨はテレビの前のコタツに座り、船場は俺のベッドで寝転びながら見ている。

「しかし本当に実現してしまったな。やっぱり凄い奴だ、お前は」

「俺は自分の欲望のままに動いただけだ。五味達や末永達には感謝してもしきれない。だがそれも一回テレビで見ない事には成功したかどうかのジャッジは出来ないがな」

「まあそう堅苦しい事言いなや。放送されたって事はしっかり番組として成立したって事やろ?」

 あの日、収録現場にいた俺達は当然誰が勝ち抜けたかを知っている。俺が期待していた沢井がどうなったかも知っている。だが末永からきつく箝口令を敷かれていて、展開がどうなったかは船場にさえ言っていない。

「まあ見守るか。二人とも後で感想を教えてくれ」


 そして遂に始まった。

 プレイ中のタレント達、アバターのアクションの映像が画面のあらゆる角度から現れては奥へと消えていく。そして壮大な音楽と共に浮かぶタイトル。

「ひゃー! 来たで!」

 高梨が嬉しそうに俺の顔を覗き込む。俺も番組が放送された事自体は嬉しい。だが俺の目的は沢井が頭脳バトルで勝ち抜く所を見たい、なのだ。


 MCとゲームに参加したタレント達がスタジオに並び、最初のトークをしている。芸人が混じっている為笑いが散りばめられているが、皆一様に「これは凄かった」「是非展開を見守っていて下さい」と言っている。これには結果を知っている俺も期待せざるを得ない。副調整室で画面は見えていたが声が聞こえなかった為、実際には俺が知らないドラマがあったのかも知れない。


 CMが明け、やっと始まるかと思いきや、今度は真っ暗な中、椅子に座ったプレイヤー達が末永の質問に対して答えるシーンが始まった。

「船場さん、これケンコシおもろいで! ちゃんと見ときや!」

「分かった分かった。見てるってば」

 高梨にパシパシと叩かれ、面倒臭そうに、だが笑いながら答えている。放送されたのは実際に撮影した順番とは異っていた。スタジオで聞いていた内容も一部カットされていたがケンコシの部分は少し長めに放送されている。


『……ただ最低限、ラッシュの時はオラオラなのか無駄無駄なのかは決めておきたいと思ってますけど』


 そこで船場がアッハッハと笑い出した。高梨も一度見たというのにケタケタと笑っている。


『ではカメラに向かって一言お願いします』

『チュミミーン』


女帝エンプレス! さすがケンコシだな」

 全国の視聴者にも掴みはOKだろう。あまり若い人達は知らないかもしれないが。


 タレント達のシーンが終わり、ゲームの世界観やルール説明が行われる。

 この特番では勝者は一人。最終的に生き残った者のみとした。ルールはポイント制となっており一人リタイヤに追い込む毎に百ポイント、フィールド上においてファーストキルは三百ポイント、セカンドキルは二百ポイント、勝者になると千ポイントだ。勝ち残った一人だけが所持ポイント掛ける千円の賞金を手にする事が出来る。八人の参加者がいる為最大二千ポイントとなり、一人で倒し切れば二百万円を手にする事が出来る。勝ち残りポイントが千ポイントなので相討ち待ちで何もせず生き残った場合の最低額でも百万円は保証されている。


「ポイント制か。なるほどな」

 船場が感心した様に言った。ルールをどう番組向けに落とし込むかで悩んだが、まずはこれが分かり易いだろうという事で企画会議で決まったのだ。勝者のみが賞金を受け取るシステムは『逃げ切りまSHOW』と同じだ。


 テレビでは各自が個室に入り、ヘッドセットをつける所が映し出される。一人付いているアナウンサーと話している所や「頑張りますよ」とカメラに向かって言っている所などが映し出される。十秒からのカウントダウンが始まり、全員の顔が映し出されて後三秒、というところで再びCMが入り、特番らしさを感じてくる。

「またかいな。でももう始まるな」

「ああ。次だな」

 能力バレは異能力バトルに於いては御法度だ。対戦相手に知られれば不利になり、読者や視聴者が知ればワクワク感は半減する。そこをどう抑えているか? 編集の腕の見せ所だ。


 漸くCMが明け、遂に対決バトルが始まった。

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