収録(二)
トップバッターはお笑いコンビ『霜降り花嫁』祖品。
彼が椅子に座ると暫くして照明が暗転、彼へのスポットライトだけが唯一の光源となる。カウントダウンがなされ、キューの掛け声と共に撮影が始まった。前に座る聞き役は女か。カメラからは死角になっている様だが。ん……あれ、末永じゃないか。あいつ凄いな。
―
「さて祖品さん、この番組は年末特番『究極の異能力バトル』です」
祖品は両手を膝に置き、姿勢良く座り、
「ま正直、何なんこれ。って感じですよね。今までのテレビには無い、ですよね。そもそも異能力って何なんですか?」
特に声を荒げるわけでもなく静かに言った。それに末永が答える。
「異能力というのは手から火を出したり、早く動いたりとかする能力ですね」
「ですよね。それどうやって表現するんですか?」
「ゲームです」
「ゲーム! ゲーム?」
祖品は半笑い且つ驚いた表情で言う。
「いや僕ゲーム好きですけど、そんなん出来るゲームなんかあったかな……」
「この為に作りました」
「マジで! マジっすか。……やっぱテレビって凄いっすね」
「意気込みをお願いします」
「そうですね。やってみないと分からないですけど、まあやるからには先輩後輩関係無く行かして貰いますよ」
「最後にカメラに向かって一言お願いします」
祖品は右手をカメラの方に突き出し、何かを掴む様な形の手のひらを上に向けて、
「俺が勝ち残る!」
顔をくしゃくしゃにしてそう言った。数秒後、カットが入って撮影が止まる。
―
「うわぁ。何か息出来ひんかったわ。緊張したぁ」
高梨が顔を上げて小声で言った。
「何でお前が緊張するんだ」
「分からへん、けどこの雰囲気やろな。皆、笑ってるけど張り詰めてる
確かにこいつの言う通りだ。年末特番ならスタッフ達の気合も入ろうというものだ。
「あ、二人目や。あ、啓太郎!」
「沢井だ」
思わずポケットから手を出した。何となく手を入れたまま聞くのはバチが当たりそうだったからだ。
―
「沢井さん、クイズ王としての抱負をお願いします」
「はい。まずは呼んでいただいて有難う御座います。対決の内容が能力バトルって今までに無いですよね。一般的に能力バトルと言えば頭脳戦ですから私が呼ばれたんだと思ってます。御期待に添えれる様に頑張ります」
柔らかい口調だが早口で捲し立てる様に言う。能力バトルに対する思いが俺と同じ様でとても嬉しい。沢井のコメントを聞いて手に汗をかいているのを感じる。
「自信の方は如何ですか」
「有りますよ。ゲームは実はあまり得意では無いんですけど知恵を絞って戦える舞台だと聞いているのでそこはやっぱり私の土俵だと思うので、勝てると思います」
そうだ。俺はそれが見たい。それを見る為にこの半年頑張って来たのだ。頑張れ、頑張ってくれ!
「ではカメラに向かって一言お願いします」
「恐らくはテレビ史上初の能力バトル番組。最初に勝ち残るのは私です。頑張ります!」
―
沢井が俺が考えた企画で戦う、それだけで胸が熱くなる。インタビューの撮影が終わった後も暫くその余韻に浸っていると、
「い、痛い痛い、啓太郎」
高梨が泣きそうな顔をして俺の顔を見ている。
「手、手ぇ離して……」
言われて手を見ると……高梨の小さな手を握り潰さんばかりに握っていた。一体いつの間に。慌てて手を離し謝る。
「すまない、高梨。大丈夫か?」
「大丈夫ちゃうわぁ……突然恋人繋ぎしてきて何や思たらめっちゃ力入れて握ってくるし……撮影中やったから我慢したんやで!」
「悪い高梨。全く気付かなかった」
手を口に当ててフーフーと息を当て、痛そうにしている。悪い事をしてしまった。それにしても全く無意識の事で記憶が無い。どうして手なんか繋いだのか、さっぱりだ。
「ん。ええよ。啓太郎にとって憧れの人やもんな。今までの苦労が報われたんやから、気持ちわかるわ」
「すまない、高梨」
「ええよ、その代わりもう一回握っといて」
「何?」
「あ、もう力は入れんといてや? 潰れてまうで、あたし」
言い終わる前に腕を絡ませ、ヒヒッと笑いながら優しく手を握ってきた。
「ああ」
三人目はお笑い芸人、ケンドーコシナカの様だ。
―
「異能力バトルという事なんですけど、ご存知ですか?」
末永の振り方が面白い。ケンコシはその方面は滅法詳しい。それを知っていての質問だ。一、二秒の間を置き、少し笑った様な顔で話し始めた。
「ほう。異能力バトルを。ご存知ですか。……ちょっと待って下さいよ。誰に言ってるんですか。異能力バトルって言うのはね……俺なんですよ」
どんどん声が大きくなり、最後の方は意味がよくわからない。高梨はケタケタと笑っているが。
「異能力バトルはケンドーコシナカさんですか」
「はい」
「どの辺りでしょうか」
「そうですね。やっぱりね、能力バトルの金字塔ってね、ジョジョの奇妙な冒険なんですよ。俺は話の舞台となった場所、聖地を巡る旅とかしてますからね」
「このゲームでは自分で能力を選ぶ事は出来ませんが、どんな能力が欲しいですか?」
「勿論時止めですよ。最強でしょあれ。自分以外の時間は止まってるんですよ? まさに俺だけの時間だぜ、っちゅうやつですよね」
「このゲームでは決め台詞を言わなければならないというルールがあります。ケンコシさんはどんなセリフを言われますか?」
「それねぇ、悩んでるんですよ。ちょっと自分の中で名言が有り過ぎてね、ひとつに絞れないというか。ただ最低限、ラッシュの時はオラオラなのか無駄無駄なのかは決めておきたいと思ってますけど」
「ではカメラに向かって一言お願いします」
ケンドーコシナカはカメラ目線になり、右手の人差し指をたて、
「チュミミーン」
と言った。
―
「あっはっは。ケンコシおもろーい!」
流石ケンドーコシナカだ。かなり活躍が期待出来そうだ。今回のキャスティングには俺の意見も反映されている。初回放送として俺がどうしても入れて欲しかったのが沢井、ケンコシの二人だ。この二人はきっといい活躍をしてくれる筈だ。
それから松阪、有本、小久保、指川、最後に田上と順次撮影が終わり、タレント達は一旦楽屋に引き返す。
やがてスタジオ内の照明が明るくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます