職場にて(二)
会社帰りに飲みに行く事は久しく無かったがたまには晩飯でもって事で今日は近くにあるファミレスのジョニィに行く事になった。
「ここのカニのスパゲティ、めっちゃ好きやねんなぁ。腹減った!」
子供かこいつは……まああれは美味いがな。そこは認める。
「去年からゆっくり晩飯も食えなかったな。高梨の歓迎会もやってなかったし、今日は……」
「え、奢り? やった!」
船場の切り出しに被せる様に高梨が言った。こういうのは声のでかい奴が勝つ。
「あ、いや、今日は……」
「有難う! 身を粉にして働きますわ!」
それだけ言ってわざとらしくメニューで顔を隠す。船場も観念した様に呆れ顔だ。
「はぁ……ハイハイ、可愛い後輩だしな。いいよ、それで」
「あん……先輩、大好き」顔を出さずに言う。
「だってよ。よかったな、啓太郎先輩」
急に俺にフって来た。
「何で俺なんだ。お前が負けたんだからお前が払え。俺は死んでも払わん」
ピシャリと言い切った。高梨なんかの為に出す金は一円も持ってはいない。
―――
一時間後。
必然的に話題は再び、
「ほんで啓太郎の言う能力バトルってどんなんなん?」
何だこいつ。そんな事も知らないのか? 義務教育受けてんだろうな。
「人智を超えた異能の力、例えば触れた物を瞬時に凍らせるとか、電気を操るとか、物質に潜り込めるとか、そういう能力を駆使して戦うやつだ」
「ふーん。ジョジョ的なやつ?」
「知ってんのかよ。しかも
「でもあれをテレビで再現って無理じゃないか?」
船場の言っている事はわかる。だが俺は実際に見てみたい。能力の強弱は使い手による、という所を。それには小説や漫画じゃダメだ。結局あれらは創作だ。著者が勝たせたい方に都合良く転がる。如何にそれがキャラクター達の考えた末の結果であってもだ。
「テレビ番組を作る上で最も重要なのは視聴率を如何に稼ぐかだがそれは一旦、置く。何故ならば俺の描いているものが本当に表現できれば数字は絶対に取れるからだ」
「何かテレビの人みたいな事
「名言ぽく聞こえるが、今のところ戯言だな」
「最高の能力バトルが実現出来る空間、フィールド、ルールでなくてはならない。更に重要なのは今現在の技術で安価に出来るものであり、テレビで表現できるものでなければならん」
そこまで言って暫く待つ。二人がグラスを持ってドリンクバーの所に行ってしまったからだ。その間、俺は静かになったこのテーブルで腕を組み、実現性を考え抜く。
「すまんすまん。で、何だったっけ?」
「はいよ啓太郎。持って来たったで、アイスコーヒー」
ようやく二人が帰ってきた。高梨のくせに俺のドリンクを入れてくるとは、少しは成長したか。
「テレビで対戦形式といえば大掛かりなセットが思い浮かぶ。想像だがあれはコスパが悪いだろうな」
「何で?」
「まず二次利用が出来ない、意外に費用がかかる、置く場所に困る、大掛かりになればなる程安全性の評価が大変、などだ」
「ホンマ、テレビの人みたいやな」
無論、そんな業界には携わってはいない。ただの想像だ。
「特に安全性は重要だ。事故が起きると番組の存続にも関わるし、スポンサーへの影響も有るだろうしな」
それを考えると疑似的に能力を付与し、リアルに戦うのはNG臭い。それはそれでかなり大変だし、どこまでいっても所詮は
「で、お前はどうしようとしてるんだ?」
「現実的に実現可能である所まで落とし込み、テレビ局に企画を持って行く」
「……マジで言ってんの?」
船場がホットコーヒーに口を付け、怪訝過ぎる顔を作る。
「大マジだ」
「啓太郎、おもろ」
ふと船場が何かを思い付いたように俺の顔を見た。
「カードゲームっぽくしたらどうだ?」
カード、カードか。成る程。
「例えばあなたは今から何ターン重力三倍の状態で行動に影響が出るとか、何ターン時が止まってて行動がスキップされます、とか」
なかなか考えているじゃないか。だが、
「残念ながらカードではダメだ」
「何でなん?」
「確かに
高梨が目をパチクリとさせている。まあやった事無いだろうし、男は何となくで分かるが女には分からんだろうな。
「ドローやなくてババ抜きみたいに最初から手札だけのデッキにしたらええんちゃうん」
「話分かるのかよ。お前友達いないだろ」
「失礼やな啓太郎。ちょっとはおるで!」
「手札のみはアリだが何よりさっき言った通り……」
「無視すんな」
「行動できるアクションが限られる。能力バトルは能力だけではなく戦っている地形、人、物を最大限に有効活用し、死ぬ直前のピンチから逆転勝利を掴む所に醍醐味があるのだ」
膨れっ面する高梨を無視して説明する。そう、カードでは表現力が足らない。テレビでやるなら映し方によっては多少映えるかもしれないが、種類を増やせばマニアックに過ぎるし、少なければ出来る事が限られてくる。
「VRとか
今の今まで俺に突っ掛かっていたのを忘れたように口を窄めてストローを吸いながら高梨がそんな事を言った。高梨のくせにアイデアを出してくるとは思わなかった。だが、
「それ、俺も思った」
船場がそれに乗っかる。
「VRはダメだ」
「何でなん?」
「客観的に絵面がバカみたいだからだ」
「あーそれはそうかも」
何故かニコニコと笑いながら高梨が言う。
「VRの中の画像を映してる時はええけど装着者映したらゲンナリやもんな」
「そうだ。高梨の分際で理解が早いな」
「ホンマしばいたろかな」
「今の発言はしばかれても仕方ないな」
「そこで俺が出した答えは……」
腕を組み、テーブルに視線を落とし、そして目を瞑って最後に考えを整理する。
「なんや啓太郎、
まとまった。
カッッと目を開け、口を開いた。
「ゲームだ」
「……」
「……」
再び二人はドリンクバーに向かった。
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