Final. Loves only you

Race1. 交換デート!?(颯馬の場合

 暦の上では3月に入ろうという頃。時間はもうすぐお昼時というのもあるが、やはり平日なので人の姿は混雑時と比較すればまだまばらだ。そんな中、オレは新宿駅で待ち合わせをしていた。待ち合わせをしているんだが……


「来望もここで待てって?」

「うん、絵愛さんがここにしろって。颯馬も?」

「あぁ……なんか悠里さんがそうしろって」


 今日オレ達はデートをするという訳ではない。前言っていた悠里さんとのお出かけだとオレは認識しているのだが。来望もその認識のようだ。しばらくすると、仲睦まじい感じで絵愛と悠里さんが現れた。


「お疲れ様です」

「おひさー颯馬ちゃん。んじゃ行きましょうかね」


 すると、なぜか悠里さんがオレの手を取った。おいおい、来望が今すぐにでも飛びかからんとしているぞ。


「まぁまぁ来望さん。ここはアイツに任せておけばいいですわ」

「……きしゃ?」

「せめて人の言葉を話してくださいな」


 猫が怒るときの声みたいになってるぞ。来望も不安そうにしているし、ここは彼氏であるオレがしっかりと支えておかないとな。


「取って食われるようなことじゃないから安心して」

「……オムライス、デミグラスの」

「分かったよ、今日は奮発する」

「……うれしい」


 帰るときにスーパー寄ってかないといけないなと思いつつ、オレ達はそれぞれで分かれてデートを始めることになってしまった。……というかこれデートなのか? オレはともかくとして、来望のほうはただの友達同士の遊びじゃないの?


「さてと……どうしますか悠里さん」

「とりま飯だなー、食いながら話せばいいっしょ」

「どっかいいとこ知ってます?」

「調査済みだよー」


 オレが連れてこられたのはとあるインドカレー店だ。オフィス街に近いということもあってか、店内はそこそこ混雑していた。ランチのカレーを注文してから到着までに時間がかかりそうなのでオレは悠里さんに話を振る。


「そういえば話って何なんですか?」

「あぁ、サークルの件なんだけどね。元の鞘に収まることになったよ」

「よく話つけられましたね……」

「まぁもう一つ話すことと関わるんだけどね。その話をしたらみんな首肯せざるを得なかったって感じかな」


 もう一つの話? サークルが統合されたのはおめでたいことではあるが、もう一つの方もおめでたい話なのだろうか。……しかし悠里さんが言うのを躊躇っているな。あまりおおっぴらにできないことなのか?


「……あんま大きな声で言いたくないんだけどさ」

「はい」

「アタシ、絵愛と付き合うことになった」

「えっ」


 いや……いやマジで? 確かに絵愛と悠里さんは仲がよさそうなところもあったがそういう関係だったのか!? 


「お、おめでとうございます?」

「そんな簡単に祝福されるとは思わなかった」

「だって溝呂木さんと付き合ってるんですよね? それっておめでたいことじゃないですか?」

「あーうん、そうだわいつもの颯馬ちゃんだわ」


 悠里さんは何か頷くような素振りを見せる。オレなんかやっちゃったのか? そんな定型文が頭に浮かぶが、悠里さんはニコニコと笑いながら続けた。


「颯馬ちゃんのそういうニュートラルなとこが相棒として良かったんだなぁってね」

「ニュートラルですか」

「まぁアタシの見た目が男っぽいってのもあると思うけどさ。でもやっぱ女の子同士で付き合うってのは色眼鏡で見られる訳じゃん? だから颯馬ちゃんみたいな見方ができる人ってアタシは尊敬するね」


 それもそうか。昨今LGBTなどと持て囃されてはいるものの、それそのものが色眼鏡として扱われると考える人もいるだろう。当人にしてみればそれが『常識』なのだから。


「ありがとうございます。でも今のオレがあるのは来望のおかげでもありますから」

「幼馴染だもんねぇ……。たしか設楽さんの髪の毛って地毛なんだよね?」

「はい。青色の目もそうなんですけど、やっぱり来望って他の人と違ってることが多いですから」


 見た目もそうだが、口数の少ないしゃべり方に表情の使い方など、来望はそういうところがあるからな。


「ほんと設楽さんのことが好きなんだね」

「当たり前です」

「じゃあもしもだよ、もしも設楽さんにアタック仕掛けてくるイケメンが来たらどうする? 颯馬ちゃんと比べて何もかもが上だと思って」

「んー……来望がそれでいいって言うならいいんじゃないですか?」

「あら意外。無理やり止めたりとかしないんだ」


 仮にオレ以上のハイスペイケメン男子が現れたとする。だとしてもおそらく来望はオレを取ると思う。それだけオレは来望のことを信頼しているし、来望もまたオレのことを信頼してくれていると。もしもオレが選ばれないということがあるとするなら、それはオレの落ち度だ。


「結局オレと来望は幼馴染でしかないんです。それが今こうやってたまたま付き合って、結婚って考えられている。仮にそこが切れたとしてもオレと来望の関係は変わらないと思いますから」

「オマタセシマシター」


 ちょうどいいタイミングでカレープレートがやってきた。金属製のプレートに盛られたカレーとナンはいかにもインドカレーという見た目で食欲をそそる。


「それじゃいただきましょうか」

「はい、いただきます」


 そこからもオレと悠里さんはお互いの恋人の話で盛り上がっていった。悠里さんもまた絵愛さんのことを考えているんだなと考えるとサークルがまとまった理由も当然と言えるだろう。こうしてオレ達のランチタイムはゆったりと流れていくのだった。


 インドカレー店を後にすると、オレは悠里さんに行きたい場所を伝えた。悠里さんもまた関係のある店だというので一緒に向かうことに。


 そこはちょっと高級めなアクセサリーショップだった。オレ達が買いに来たのは婚約指輪だ。ちょうどお金もたくさんあるし、そういう時に買ってしまった方がいい。


「指のサイズは測ったんだよね?」

「もちろん」


 来望が寝ている間にこっそりと指の太さを測る器具を使った。プロポーズこそ来望から受けているものの、なんというか形式的にはしっかりとしたプロポーズをしておきたい。そうしないときっと未来のオレは後悔してしまうから。


「こういう指輪ってどういうのがいいんですかね?」

「そういうのは専門家に任せちゃった方がいいと思うわ。店員さーん」

 

 悠里さんは軽々と店員さんを召喚した。悠里さんってわりかしコミュニケーション強者みたいなとこあるよな……。


「どれくらいの予算でお考えですか?」

「あんま高くないほうがいいですけど……正直相場が分からないので」


 すると店員さんがいくらか指輪を提示してきた。安いものでも15万円とちょっとお金に余裕のある今でも割と目が飛び出そうな金額だ。ここに0が1個ついてる指輪もあるのでさすがに驚く。ピンキリとは言えこれはすごいな……


「……? この青いのはなんですか?」

「サファイアですね。『一途な愛』という意味が込められている宝石です。サムシングブルーといって、青色のアイテムは人気がありますよ」

「へぇ……ダイヤモンドだけじゃないんだ」


 悠里さんも感心している。しかしこのサファイア、見ているとどこか来望の瞳を思い出すな……値段は、25万円!? 安いな。来望のモチーフに近い指輪を25万で買えるというのならそれはもう無料みたいなものだ。


「買います」

「じゃあアタシも同じので」


 二人とも現生で即払いである。というか店員さんちょっと困惑してないか? まぁ端から見ればカップルっぽく見られる気持ちは分かるが。


「さて……次はどうしますか?」


 指輪を買って店を出る。指輪の入った高級そうな袋はオレの鞄の中に大事にしまっておこう。こういうのはサプライズ性が大事だ。ちゃんとしたプロポーズの場を作って、そこで渡したい。


「あー……ちょっと用事できたわ」

「用事ですか?」

「そうそう。颯馬ちゃんは先帰ってて」

「分かりました。今日はありがとうございました」

「こっちこそ助かったよ!」


 そう言って悠里さんはどこかへ走って行ってしまった。そして新宿の街にオレただ一人。……今から来望のとこに合流できないだろうか?


「まぁダメ元だな」


 オレはスマホを取り出して来望にメッセージを送るのだった。

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