Race5. 来望の颯馬カワイイ計画
甘ロリとゴスロリ。どちらか着ないと殺されるという状況に陥ったとき人はどちらを選ぶのか? 目の前で起きている思考実験に気が狂いそうになるが、それでも正気を保たなければならない。来望はオレのクソみたいな女装写真に相当お怒りのようで、可愛いところを見せないと永遠に女の子にさせられるだろう。
「らっ、来望はどっちが似合うと思うかな……? こういうのよく分からないから……」
「ウィッグによる」
苦し紛れに言い放った一言は一瞬で返されたがその意味を理解できない。ウィッグによる? ウィッグってなんぞや?
「そのままなら白いの、ロングヘアなら黒いの」
要はカツラのことか。ロングヘアでゴスロリとなると雰囲気としては絵愛に似ていることになるのか。それはそれで面白そうだな……
「じゃあ黒いので」
「分かった。脱いで」
「脱ぐってここで!?」
「脱がないと着替えられない」
それはそうだが……まぁ来望とは一緒にお風呂に入ったこともあるからなぁ。今更脱ぐことに対して恥ずかしがることはないだろう。どんどんと服を脱いでいき、下着姿になるがそれでも来望は満足していない。
「パンツも」
「嘘だろ!?」
「脱がないと黒タイツが履けない」
「あーそういうね……」
今分かった、このプロデュースはガチである。故に下手に逆らわない方がいいだろう。なので来望に背を向けてパンツを脱ぐと、脱ぎ終わった瞬間にオレの手に何かが握られた。
「履いて」
「……」
握られたものを確認すると、それは黒色の女性用下着。しかもこれは……『勝負下着』に分類されるやつじゃないか? というかタイツを履くならわざわざこれつける意味なくないか!?
「颯馬には女の子の素質がある」
「それとこの下着に何の関係があるんだ……」
「より女の子っぽくなる」
そう言われると仕方がない。いそいそと女性用下着を履く男子大学生の爆誕である。変態じゃねぇか。この上からタイツを履いたことで心理的に楽にはなるものの、災難はまだ続く。
「颯馬、ブラジャー付けられる?」
「それこそ必要ないやつ!」
「必要」
手には肌色のパッド。おそらく胸を盛る用のアレだ。ほんとここまでやる必要ある? なくない? てか前回の悠里さんもここまでやらなかったぞ? ……まさか触発された?
「この前の颯馬、すごく可愛かった」
「お、おう……」
「でも、私ならもっと可愛くできる」
「……」
「だから、付けて」
期待の眼差し。その無垢な表情でおねだりされるのにオレは昔からめっぽう弱い。おやつの最後の一個だったり、テスト勉強だったりといろいろなお願いに使われてきたこの戦法だが、流石にブラジャー付けろってのは無理!
「……分かったよ」
はぁ? お前今何つった? そこ理解するところじゃないだろ? という自問自答をしながらもやはりオレに来望のおねだりを断る選択肢は存在しないのだ。故にそれが自尊心をズッタズタにするものであっても従わざるを得ない。
「ふふ、可愛くなろうね」
「もうどうにでもなれ……」
いつになく満面な笑みを浮かべながら来望はオレを可愛く改造し始めた。肌がモデルの人みたく白くなり、なんか目元がどえらいことになり、よく分からない粉をはたかれ、更にはなんかの歌くらいでしか聞いたことのないつけまつげまで付けられる始末。
「……できた」
こうして鏡を見せられたオレの姿は、キリッとした目つきのまさにクール系ゴスロリ少女。そのクオリティの高さは来望のメイクアップ技術に依存するものであるが、来望の目的を果たすには十分だろう。というか人間はここまで変われるのか。自分の身体で人類の神秘を体感した気分だ。
「行こう」
来望のような銀髪の美少女にエスコートされるゴスロリ女子。見た目だけならばメルヘンな童話の世界かと勘違いするが現実は
真っ黒のヒールブーツに足を突っ込んでみると、まさにジャストフィット。小さすぎて入らないということにはならずに安堵する。が、
「おわっ! バランスが取りにくっ……!」
「気をつけて颯馬」
このブーツ、ヒールが細いせいかバランスが取りにくい! 玄関から出るだけでも来望の補助なしでは出られないので、来望の手を取って歩き出す。そもそも絵愛を追放して1時間半も経っている。もうとっくに帰ってるんじゃないか?
「遅いですわ! 一体なにを、し、て……」
絵愛は律儀に外で待っていた。そしてオレの姿が見えるや否や抗議の声を上げるものの、その声は次第に小さくなっていく。
「えっ、このお方が颯馬さん?」
「……ああ」
絵愛から目線を逸らしながらオレはただそう言うしかなかった。オレの声を確認すると、絵愛は表情に混乱を隠せなくなり、
「信じられませんわ……あんなクソみたいな格好からここまで進化されるなんて……」
「その格好をさせたのはどこのどいつだ」
「わたくしですわね!」
そもそもが酔っ払った絵愛がゲラゲラ笑いながらオレに色々着せようとしてきたのが件の代物のはしりである。つまり絵愛の自業自得。
「これ初見では見抜けないですわ」
「これが颯馬のポテンシャル」
「くっ……今日はこれで勘弁して差し上げますわ!」
「ダメ」
あまりにも冷たい静止の声。その声にオレも絵愛も動きが止まる。
「まだやりたいことあるから」
絵愛にとって、そしてオレにとっての死刑宣告を告げる来望。これ以上何をする気なんだ……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます