未来視で手にした万馬券を手に求婚を迫ってくるオレの幼馴染にどうしても競馬を教えたい〜妹のように可愛がっていたクールな幼馴染と幸せな家庭を築くまで〜
Race11. 銀白色の怪物はなぜ幼馴染の少年に恋をしたのか
Race11. 銀白色の怪物はなぜ幼馴染の少年に恋をしたのか
「ユーリ、これでいいの?」
「まーこれでいいでしょ。どうせすぐにここまで来るだろうけどね」
ユーリはそう言って笑った。私はその様子をどうしても不思議に思う。私たちは一芝居打って現在首都高を走っている。そのまま東京競馬場まで走り抜け、颯馬を競馬場へと誘導するのだ。
「……颯馬、来るの?」
「ああ、あいつの執念は舐めない方がいいよ。だから二人きりで話せるのもほんの少しだと思った方がいい」
私が颯馬を異性として意識し始めたのはいつからだろうか。……ひょっとしたら小学生の頃から? うん、いつからだっていい。颯馬が思っている以上に私は颯馬に恋していた。
颯馬はかわいい。私に対してお兄さんぶろうとして頑張っているところとか、かわいいってからかわれたときの反応とか、ふとしたときに見せる仕草とか……。とにかく全身がかわいい。
それでいてカッコいいところもある。大事なところでは頼りになるし、私がからかわれている時はすぐに飛んでくるし、いつも私のことを考えてくれている。そんな颯馬のことを好きにならないことのほうがおかしい。
「でも颯馬、変わった」
「颯馬ちゃんにしてみたら悲願だったからねぇ、馬券を買えるのってさ」
颯馬が20歳になってから颯馬は変わってしまった。私との付き合いも減ったし、話もよくわからないことが多い。
颯馬は昔から競馬が好きだった。颯馬のお父さんも競馬が好きだって話はよく聞かされてたし、小さい頃はテレビで見ていたような気もする。颯馬のお父さんは颯馬みたいに優しくて、とてもいい人だ。だから私は競馬そのものに嫌悪感があるわけではない。
でも、大人なことを知っていく颯馬を見ていると私が置いて行かれるようで。その原因である競馬に対してなんとも言えない感情が蓄積されるのは当然で。
「悔しかった、颯馬にとって私は一番じゃないのかな」
「一番じゃなかったら競馬やめるなんて言わないと思うけどね」
「……うん」
「そろそろ着くよ、準備して」
水曜日、突然ユーリからLINEが来た。
『颯馬ちゃんが競馬やめるって言いだしたんだけど心当たりある?』
まるで私の心を狙撃するかのようだった。あの時にLINE交換しなければ良かったかなと思いながらも私は返信を送る。
『私がやめてほしいって言ったからかも』
その時の私に罪悪感はなかった。競馬をやめてくれたことで私に向けられる愛情は最大値になるだろうと。だが、その後にきたユーリの返信は予想を裏切るものだった。
『颯馬ちゃんのことだしきっと無理してでも来望ちゃんのこと大事にしてくれるよ?』
無理をさせる? 私が? その言葉の意味が理解できずに素っ頓狂な返信を送ったと記憶している。その翌日にユーリと会うと、開口一番に私たちの関係を祝福してくれた。その上で、
「『颯馬の好きだったもの』を奪った代償は大きいよ」
「……代償」
「その代償に気付いて、それでも『颯馬の好きだったもの』取り返したいって思うなら、アタシに連絡して」
その代償の意味をすぐに理解した。颯馬は意図的に競馬そのものを避けている。部屋からは競馬っ気のあるものが消え、コンビニに行ってもスポーツ紙には目もくれず、ゲームセンターに行くことすら躊躇うくらいだ。
それは颯馬の覚悟だった。私が競馬から離れてって言ったから、私を一番にしてって言ったから。まるで私のことを必死に首輪に繋ぎ止めるような、そんな執念。颯馬はあの日以来変わってしまった。まるで死に物狂いで私への最適解を答え続けるプログラムのようで。
「よーし着いた。んで、昨日のデートは楽しかった?」
「……うん。颯馬、頑張ってた。ユーリの言ってたお誘いにも乗ってきたし」
「やることはやったのね」
昨日のデートだって、颯馬は笑っていたけどとても辛そうだった。一生懸命エスコートしてくれた。少しでも彼氏らしくしようと頑張っていた。私たちの関係を一歩先に進めるという覚悟を見せてくれた。私の彼女になろうとして必死に食らいついていた。
でも私はそんな颯馬を好きになったんじゃない! あの時、ユーリの話をした。ユーリが颯馬のお父さんに似ているっていう話。その話をしたときの颯馬の顔は、私が好きな颯馬の顔だった。その時に私は完全に理解したんだ。
私が大好きだった颯馬を壊したのは他でもない自分自身だと。
「私、ありのままの颯馬が好きだったんだ。好きなものを好きだって言って、私の前で話はしてくれないけど……でも、そういう楽しさを持っている颯馬のことが好き……! 今の颯馬は、颯馬じゃないもん……!」
「ならその気持ちをちゃんと本人に伝えてやらないとね」
ユーリが視線で誘導すると、そこには必死な顔をした颯馬が私のことを探してあたりを見回していた。
「ったく、あんな表情ここでも見たことないわ」
ユーリが笑っている。その様はとても余裕があってカッコいいと思う。でも、私は余裕なんてない逼迫したような顔をしている颯馬のほうがもっとカッコいいと思うんだ。
「行ってこい」
「……はい!」
銀白色の怪物は駆け上がる。自らが『怪物』と成り果ててもなお愛を注ぎ続けた少年のもとへ。
◆
「ったく、世話の焼けるカップルですこと」
少女が駆け上がる様を横目に、悠里は新聞を手にしつつペンを遊ばせていた。
来望から連絡が来たのは昨日のお昼のことだった。代償に気付いたと。今の颯馬になったことを後悔していると。気付くのが遅いんだよと悪態をつきたくもなるが、悠里はひとつの作戦を来望に伝えていた。それは悠里自身が悪役になってでも2人の仲を取り持とうというまさに『乾坤一擲』の作戦である。それが今朝のカーチェイスになるのだが……
「まぁ絶縁されてもしゃーないですわ」
カカッと笑ってみせたその表情は、冬空の深緑に映える青空のように晴れ渡っていた。だが、その表情が一瞬にして曇る。その目は1人の少女を捉えていた。それは颯馬にとって、そして悠里自身にとっても因縁の相手だったからだ。
少女は悠里を見ていたが、しばらくして視線は正面に戻った。その目に宿る感情を悠里が理解したとき、悠里の身体に身震いが走る。
「(まさかこんなところで出会うなんてねぇ……)」
今日という日は颯馬と来望にとって決して忘れられない一日になるだろう。それを演出してみせた悠里自身もそう自負している。だが、それは自分自身をも巻き込む騒乱の始まりにもなると悠里は確信していた。
「(……颯馬の
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