第24話 抽選会
「いよいよ抽選会ですねっ」
「どうかどうか、良い組合せであってくれええぇっ!」
「こればかりは、お祈りするしかないですよね……」
「……」
まただ。また泉たちの姿が二重に見える。頭もぼんやりしてるし、まずいな、こりゃ……。
「――師匠?」
「あっ……!? ど、どうした……!?」
「えっ……師匠、なんでそんなに驚いちゃってるんですか……?」
「……あ、え、えっとだな……」
舌が縺れてるわけでもないのに、言葉も上手く回らない。
「泉ちゃん、こいつどうせ緊張しまくってんだよ! 前田ー、俺たちの師匠なんだからよ、ドンと構えてろって!」
「……さ、鮫島はな、失うものがないから、ある意味気楽なだけだろ……」
「うっ……い、言ってくれるじゃねえかこいつ……! けど、そんな口聞けるならもう大丈夫だろ!」
「……」
確かに、鮫島の言う通りだ。言い返そうとしたのがよかったのか、なんとか持ち直すことができた。苦しいが、ここまで来たんだ。今更引き返すわけにもいかない。あと半日ほど我慢すればいいだけだ。
それでも、勿体ぶるかのようにやたらと時間の流れが長く、そして重く感じる。それから、永劫とも思える時の流れの中、ようやく自分たちがクジを引く場面がやってきた。
「どうかどうか、予選で師匠と戦うようなことがありませんように……」
「……」
一番弟子がそんなことを言うようじゃダメだと言おうとしたが、声が出ないので心の中で突っ込む。
「とにかく、漆原さんとだけは当たりませんようにいぃぃっ!」
おいおい、お前が意識してるのはそこだけなのか? 鮫島……。
「相手が誰でも、精一杯勝ちに行きますね……」
うんうん、漆原さんはよくわかってる。それでこそ俺の弟子だ。
「――あ……」
俺が最初に引いたわけだが、M組だった。A組からP組まで16組がアルファベット順に演奏する予定だから、よりによって最後のほうか……。
「俺はMだった。お前たちは……?」
「師匠、私はBですっ!」
「俺はD!」
「わたくしはFでした……」
「「「「おぉっ!」」」」
ちょうど分かれた形だ。どの組も一位しか突破できないみたいだし、トーナメントの予選の段階で、仲間同士が潰し合う展開になるよりはよっぽどいいだろう。
「――おい、泉」
ん、この声は……あいつか。桧山楓が連れの女の子とともに、余裕の表情で俺たちのほうに歩み寄ってきた。
「お前と師匠はどの組だ?」
「わ、私はBで、師匠はMですけどっ!?」
「まあそう警戒するな。よかったな、俺はDだった」
「げげっ!?」
桧山の発言によって、なんともダメージがでかそうな声を出したのは、もちろん同組の鮫島だ。よりによってこの男と最初に戦うなんて、こりゃ厳しくなったな……。
「って、あんたの師匠ってM組なわけ? やった、あたしと同じ組っ!」
「……」
連れの子に喜ばれてしまった。舐められちゃったもんだな。
「楓の手を煩わせることもなく、あたしがやっつけてやるよ。おいオッサン、聞いてんの!?」
「あ、あぁ……」
「こいつ、見てよ。緊張しまくってるみたいじゃん? もう棄権しちゃったほうがよくない? あははっ!」
小馬鹿にしたような笑い声が遠くに感じる。今の俺は挑発されても悔しそうな反応ができるほど余裕はないから、逆に申し訳なくなってくる……。
「これ以上師匠をバカにしないでください!」
「悪く思うな。泉……お前と師匠が勝ち上がってくるのを楽しみにしている……」
桧山がそう言い残し、連れの少女とともに立ち去っていく。もう勝ち上がるのは確定したみたいな言い方だったな。憎たらしいくらいの余裕を感じた。さすが、超エリートのクラシックギタリストだ。
「うぅ……師匠、絶対に勝ちあがってやりましょうっ!」
「……」
「師匠?」
「あ、あぁ、そうだな」
「師匠ったら、元気ないですよ? 大丈夫ですか……?」
「前田さん?」
「……」
まずいな。泉だけじゃなく、漆原さんにまで疑いの目を向けられてるっぽい。これから弟子たちが輝かしい表舞台に立とうってときに、師匠が心配されてしまうようではいけない。かといって、こういうときに笑顔になると不自然さが際立ちそうだってことで、とにかく眠そうな表情を浮かべてみせた。
「ふわあ……大丈夫大丈夫。ちょっと眠気が来ちゃってな……っていうか、鮫島のほうが心配なんだが……」
「「あっ……」」
「……ち、畜生。なんで俺だけあんなすげーのと同じ組になるんだよおぉぉ……」
鮫島がやたらと落ち込んでくれてるおかげで、泉と漆原さんの注意を逸らすことができた。っていうか、いくらなんでもがっかりしすぎだろう。凄いギタリストと戦えるんだから、いい経験になるくらい思わないとな……。
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