お人形遊び
ワレながら怖いなぁ、と思うことがある(うん、良くあるゾ!)。
実はワタシこと、立花ミズキには他人言えぬ趣味があったりする(あるある)。そう、それはお人形遊びである(マジかー)。20歳も間近と言ううら若き乙女(と言うにはそろそろ角が立とうとしている気もする)が何をやっているんだと言うツッコミもあるとは思うが、こればかりは好きなんだから仕方がない(そ、そうか?)。
お人形遊びと言っても、最近流行りのアニメキャラクターのフィギュアとかで遊ぶ(純な女子のワタシには、どういう風にアソブのかはワカリマセンがー)のではなく、リエカちゃん人形のような、あんな生活感のある人形とお喋りをするのが好きなのだ(うん、健全なワタシ!)。
小さい頃から、学校であった出来事、それこそ今日の給食はなんだったとか、先生に怒られたとか、誰それが誰々を好きだとか、そんな取り留めもない話を人形にするのだ。
人形はワタシの話に相槌を入れてくれたり(実際に相槌を入れるのはモチロン、ワタシ)、時には相談に乗ってもらったりもするが、その答えはワタシに都合の良い答えなのは言うまでもない(そりゃそーだ)。
こんな陰キャなワタシなのだから、さぞ社交性が低いと思ったら大間違い。小さい頃から挨拶もキチンとし、会話だってソツなくこなす。だからワタシの事を人形だけが友達の根暗な子、なんて思う人はいない(……たぶん)。
どうも他人にもう一歩踏み込む勇気がないのだ。他人よりおそらく賢い子(こう見えて某有名私大の医学生なのである、フッフッフ)のワタシは、つい色々考えてしまうのだ。
この人はワタシと話していて、今何を思っているのだろう? ワタシの言ったことに対してどう思うのだろう? ワタシと別れた後に、ワタシの事をどう思ったのだろう? そんな事ばかり考えてしまい、結局当たり障りのない言葉だけを選んで会話をこなす。
そんなワタシの態度を相手も薄々気づくのか、ワタシにあまり踏み込んでくることは無い。そして、波風は立たないけど、希薄な人間関係の、はい、出来上がりー、となるのだ(……誰だ、いま、『お前やっぱり社交性無いだろ?』って思ったヤツは?)。
でも、いーの! そう言う関係はとても気楽だし、話したいことがあればワタシの人形たちが話し相手となってくれる。年齢イコール彼氏いない歴だとしても、ワタシにとっては何の問題もないのだ!
そう思っていた。つい最近までは……(困ったもんだね)。
「ねー、リエカぁ……、どう思うぅ?」
ワタシは一番の話し相手であり、理解者でもある、リエカちゃん人形(Copy Right チカラトミー、ね)のリエカに悩みを打ち明ける。
「それはもちろん、恋ね!」
私の悩みに、リエカは鼻にかかった高い声で即答する。リエカがもし手足を自由に動かせたなら、腰に手を当てながら上から目線でワタシを指さししているに違いない(それにしても、即答だな、オイ)。……って、実際応えているのはワタシだが。
「……恋かぁ、やっぱりそうかなぁ……」
「うん、そうそう! 恋よ、恋! やっと、ミズキにも春がやって来たわね! このまま男っ気が無かったら、死ぬまでミズキの相手をしないといけないかと思ってヒヤヒヤしていたけど、本当によかったわ!」
……オイ、言いすぎだろ……。って、くどいようだが言っているのはワタシなんだが……釈然としない(大丈夫か、ワタシ?)。
しかし、リエカはいいよな、ほっといても玩具メーカーが次から次へと彼氏を作ってくれるんだから。リア充め、ペッペッ!
ワタシはジト目でリエカを見返した。
「……でもなぁ、ワタシ、単なるお客としてしか見られてないのでは……」
「大丈夫よ! 5回も通ってるんだから、ミズキの顔も覚えてくれたわよ! ただでさえインパクトある顔しているんだから!」
……もう、ツッコまんぞ……(怒)。
しかし、そうなのだ(いや、顔の話でナイ、断じてナイ)。ワタシはここ数日、お目当てのバイト君がいるコンビニに通っているのだ(奥ゆかしい!)。
ワタシの良く行く近所のコンビニに新しい男性バイトが入った。風貌からすると、おそらく高校生だろう(よっ! 年下好き!)。
たまたまコンビニに行ったワタシは、そのバイト君の若さゆえのひた向きさと、何があっても翳ることない爽やかな笑顔に完全にヤラれてしまったのだ(……なんかヒワイ)。男性免疫のない女子ならではのエピソードと言えなくもないが、そんなこたぁー、この際、重要じゃない!(タモさん?)
それから足繁く(と言ってもまだ5回だけど)コンビニに通ったワタシは、そのバイト君の名前が川島君と言う事まで突き止めた(ストーカー、ストーカー!)。が、そこからの進展はもちろん皆無。どうやってここから先に進めばよいのか全く良い案が浮かばなかった(経験値不足やね)。
そもそも、奇跡が起こって、その先に進めたとして、この人形ヲタのワタシを、どうやってさらけ出せと言うんじゃ……(ごもっとも)。
私は頭を抱えてへたり込んだ。
そんなワタシにリエカは言った。
「こればかりは、地道に通って、少しずつ話をして、ゆっくりと関係を進展させてゆくしかないわねぇ」
訳知り顔でリエカは言う。
「そんな長期戦、人付き合いが下手なワタシにはとてもムリ……DEATH……」
自分はそんな悠長な手続き踏んでないクセにぃ、とか思ったりもするが、大人なワタシはそんな事は言わないのである(エヘン)。
「……リエカはこんな悩み無くていいよなぁ……」
ワタシはリエカの歴代彼氏たちに目をやる。リエカに最近相手にもされていないにもかかわらず彼らは満面の笑みを浮かべている。うーん、出来た彼氏達だ。
お人形か……(ダメだよ)。
そこで賢いワタシは、はたと閃いた。
「そうだ、そうしよう!(そっちはダメだよ)」
すっくと立ちあがって叫ぶワタシに、リエカは怪訝そうな顔を向けた……様な気がした。
数日後、ワタシは自分の部屋でいそいそと準備をしていた(もう、止めておきなって)。
「あぁ、楽しみだなぁ♪」
今にも歌いだしそうなワタシ。まさに気分はウキウキウォッチング♪ って、ワタシの世代じゃわからんか。
そんなオチャメな冗談を言っている間に準備完了!(今ならまだ間に合うよ)
「……本当にやるの?」
珍しくリエカが心配そうな声色で、ワタシに問いかけてくる(そうだよ、止めておきなよ)。
「もち!」
「……そう」
そう言ったきりリエカは押し黙った。
「……変な奴……」
ワタシはリエカを放っておいて、くるりと後ろに振り返る。
「ウゥー! ウゥー!!」
麻酔薬を使って、拉致って来た川島君がそこにいた。
麻酔はもう切れたけど、がんじがらめに縛って、猿ぐつわをしているので、まぁ、声も出せなければ、身動きは取れないでしょーなぁ、くっくっく(早く、放してあげて)。
……あぁ、何の抵抗も出来ずに芋虫の様に這いつくばっているあなたもス・テ・キ♪(悪ふざけが過ぎるよ)
「これから毎日、オネーサンとお人形遊びしましょうねぇ」
手にした注射器を宙に向かって少し押し込む。中の液体が噴き出るさまを、川島君に見せつける(もう、やめなさい!)。
ふふ、これさえ打てば、いつまでも腐ることなくそのままの姿でいられるわ♪
「……ゴメンね、ミズキ。もう私じゃ、あなたを止められない……」
(……ゴメンね、ミズキ。もう私じゃ、あなたを止められない……)
その声が、リエカが発したものなのか、ワタシの内から聞こえてきた声だったのか……。なんだか、もう良くわからない。
でも、そんな事はもうどうでもいいやっ! ははは!(笑)
ワタシは勢いよく注射針を振り上げると、狙いを定めてブスリと突き刺した。鋭利な針が、若干の抵抗感を以って、身体深く差し込まれてゆく。
そして、注射針が見えなくなるくらいまで身体の中に差し込まれたことを確認すると、ワタシは注射器の中の液体を勢いよく注入していった。
そう、私の身体の中へと……。
はは、コミュ障で、頭ン中がポンコツの、私が出来ることと言えばこれくらいだ。川島君、せめてオネーサン人形で毎日遊んでおくれ(早く、注射器を抜いて!)。
視界がぼやけ、川島君が今どういう表情をしているか、もはや分からない。
ただ朦朧とした意識の中で、川島君が、お人形となったワタシと遊んでいる光景を見た気がして、ワタシはとても幸せだった。
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