やっほー。海や山が呼んでる。
戻ってきたテスト用紙を眺める。輝くほどに白い。赤ペンすら入っていないのは数学教師の諦めの気持ちか、それともーー
「俺の将来は何色にでも染まる!」
隣の馬鹿が声を張り上げて、耳にキンとした衝撃が走った。うるさい。本来の持ち主にテスト用紙を返却すると、馬鹿は即座にそれを丸めて防波堤の向こうに放り投げた。
「おい、こら。環境破壊」
「うるせー。いつかこれが外国のどっかで拾われて芸術だって褒めそやされて、で、一躍有名になった俺に取材陣がどーん!」
「溶けるわ馬鹿。拾ってこい」
えええ俺のアートが、とかなんとか文句を垂れながら防波堤の向こうに後ろ姿が消えて、しばらくして手だけが現れて完全にホラーだ。
「ごめん、上がれない」
「ったく」
腕を掴んで引きあげる。悪戯っぽい顔で口の端をあげた馬鹿みたいな顔の後ろに、空と海の青が混じり合っている。
「おい、夏休みどこ行く」
「お前ほとんど補講で埋まってただろ」
「ばっか俺が行くと思ってんのか」
「馬鹿はお前だ。ちゃんと行け」
ちりちりと首筋が太陽に灼かれて痛い。日焼け止め塗ったのに、SPF50なんて絶対嘘だ。俺と正反対で何も頓着せず梅雨明けから過ごした結果、すっかり日焼けした隣の男は本来の肌色がどんなだったか既に思い出せないほどで、でも服の下は変わってないんだよなと考えて俺は思考を無理やりシャットダウンした。疚しいことは考えてない。決してだ。
「お前は山と海どっちが良い?」
「だからちゃんと補講行けって。進学しないのはいいけど、その前に卒業できなかったらどうすんだ」
「その時は、ほら。あれ。後輩とあと一年過ごすわ」
「俺いないからな」
「あっそっか。それはまずいな」
「でもさ、俺と高校生活最後の夏休み過ごせないけど、お前いいの」
「うっ」
それを言われると弱い。馬鹿の口元がだらしなく緩む。くそ。馬鹿だ。こいつも、ほかでもない俺も。
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