800字SSS

久慈川栞

ジンジャエールとアイスコーヒー

 アイスコーヒーより断然ジンジャエールの方が夏ぽさあると思う。

 アイスコーヒーなんて、まず色が汚い。なにあのどす黒い液体? そもそも呑みたいと思わない。氷入れても中で死んだクラゲがひしめき合ってるみたいで最悪。味も苦くて色のせいか泥水啜ってるみたいな気分になるし、胃がムカムカしてオエッてなる。ちょっとはジンジャエールの爽やかさを見習って欲しい。あの、おひさまの光詰め込みました! って感じの色からしてもう夏じゃん? 夏の飲み物代表背負ってますって感じじゃない? 炭酸も暑い日には口の中さっぱりして爽快だしやっぱり夏はジンジャエールだわ。

「ーーで、なんでアイスコーヒー飲んでんの」

「だって先輩アイスコーヒーが好きって言うから」

 正面に座る男はハァ? と眉を顰めた。馬鹿じゃねぇの? という心の声がハッキリと聞こえる。

「アイツとデートの予定でもあるのかよ」

「……ないです」

「来ない未来のために、無理してコーヒー飲んでどうすんだ」

「く……来るかもしれないじゃん! てか先輩のクラスメイトなら仲取り持つとかしてよ!」

「嫌だよめんどくせえ」

 ムカつく。甲子園予選落ちして、ずっとダッサい坊主だったくせに髪が伸びてイケてる感出してきたところもムカつく。

 あたしは喫茶店の机上でほぼ手をつけられることもなく、汗をかくアイスコーヒーを見つめた。詰め込まれたクラゲが小さな悲鳴をあげている。クラゲ詰め合わせです。お中元にいかがですか。

「そもそもさ」

 手が伸びてきてあたしのクラゲ詰め合わせが宙に浮いた。代わりにジンジャエールが舞い降りる。

「無理に背伸びしなきゃいけない相手だと、万が一うまくいっても疲れるだけだろ」

「うっ……」

 痛いとこ突く。俺のと代えてやるからそれ飲め、の言葉に素直にジンジャエールを吸い込んだ。夏の味が口の中に広がる。て、あれ?

「あんたアイスコーヒー飲めたの?」

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