第2話

「おまえら、みてえな奴らが、でえっきれいなんだよ!」

「学校に豚の心臓を持ってきたのは誰ですか。家の前で、さかなクンと並んだ写真を売ったらいいのでは。彼のズボンを壊したり、プロレスの技をかけて苦しめたり、あなたは一体、何をしているのですか。その心臓も、元の場所へ戻したほうがいいのでは。」

「ユウマー。机を戻す。水筒も閉まって、服も着替えなさい。日誌も、ちゃんと書く。皆んな静かにー。」

「あなたは何を見ていたのです。委員長の母のお通夜に、どうして子供たちを向かわすのですか。」

「お前らも丸刈りにするよな?大会勝てないぞ。お仕置き。」

「あなたは僕の顎を破壊した。僕の眼鏡を破壊した。子供に暴力を見せつけた。親の居ないあの子を洗脳した。あなたが排水溝に転んで、左足首を捻挫したのは残念だ。工事現場なら大好きなミカサを落としてあげる。」

「5月俳句大賞はユウマさんです。僕のプラモデルを贈呈します。」

「あなたくらいだ。まともなのは。話が通じるのは担任のあなただけ。土曜日の朝から三時間だけ書道部を開くのも、今なら理由は知れてる。そこに集まるのは居場所の無い彼らだ。あの男の子だって、あなたに習字を褒めてもらいたかった。あなたは書くのに集中してたから怒鳴ってしまったけど、彼はいつでも家ではそうされてる。話せないはずだから、何処かで会ったら許してあげて欲しい。僕らと同じで、どこにも居場所が無い。あの女の子もそうだ。あなたの娘のような子だが、必ずまた男たちに酷い目に遭う。その時はもう死ぬしか無い。生徒会長は賢いから、誰とも関わらない。あの子もクラスで唯一、話が通じるだけだ。チャット好きな彼らもPSPばかり見て習字をしないが、書道部の目的は習字では無い。この空き部屋に居場所を保持するためだ。だからあなたは、誰も習字に集中しないからと言って、何も気にしない。雑談をして昼に帰るだけなのも当然だ。ただの学校だ。土曜日だ。本当なら、何処でも好きな場所で遊べる。だけど僕らに街は危険だ。スキー教室の準備をしに、横浜駅の東急ハンズに初めて向かったが、あの二人は不思議がっていた。僕がずっと後ろをついて来るだけだから。街は危ない。彼らはアニメの話に夢中だ。お店にはガラクタしか見つからない。けれど彼らは、それを見て燥ぐ。一体何の価値がある?それはただのハロウィングッズだ。コスプレすることに、一体何の意味がある?紙でお化けになった方が楽しいぞ?臨海学校でもそうだった。夜のキャンドルファイヤーで、1組の人たちが演劇をこなした。その前には星野道夫の映像記録を投影した。その前には暗闇の中で蛍を探した。その前は海洋生物を観察した。誰も、ナマコやヒトデには興味を示さない。磯で拾ったバフンウニの殻や、タツノオトシゴの幼体、コウイカの軟骨や、その他の生物を探すだけ。一体何をしている?戦場ヶ原の木の道を渡るのは何故か?華厳の滝が自殺スポット?白壁のトンネルが涼しいだけの快適な空間だ。温水の流れるあの滝だって、本当は皆んな、その先まで渡りたいはず。だけど旅館へ急がなければならない。少しでも留まれば、全員が行方不明になる。高校のキャンプで、滝壺に溺れたバスケ部の男の子が亡くなったそう。三人は救われ、友人たちには心理士が体育館でお話をした。此処が何処だか分かるのか?新任の数学教師が子供たちと土曜日に街で過ごすような場所だぞ?学生に制服も与えられず、アメリカ映画がどうとかで注目されている。何を言っている?柏木由紀や剛力彩芽がどうかしたか?ただのドラマの撮影をしに来た子供だぞ?相対性理論とは?池袋の亡霊?鎌職人の方が楽しいぞ?メルトがどうかしたか?ちくわちゃん?お昼に持ち込むのか?羽川翼が気色悪い?軽音部が人気なのは、昔から変わらない。此処には、裕福でも生活に絶望したものが時々見つかる。何故なら学年単位で受ける授業が無いからだ。大学の同じシステムだから何だというのだ?自己表現活動?面接で聞かれた質問にどう答えたかを教えようか?

「あなたがこの学校に入学した際には、いったい何を学びたいと思っていますか?」

「それを今から紙芝居で説明します。ネットの自由研究ブログを読んで、そのまま解り易く纏めたものです。白熊が涙を流していますが、地球環境破壊がテーマです。何故、お風呂のお湯の使用量についての変動実験をしたのかは明かしません。それは検索すれば読めるからです。全ては人の作った演劇です。この試験にも価値はない。ただのお遊び。校舎に住みつく鯖猫に、まともな家を。誰もが笑いかけて触ろうとしますが、彼女は小屋に戻るしかない。仲間は一人も居ないからです。だから全員の見える朝の階段の隅で、彼女を慰めていました。誰も、その子のことは見つめません。何故なら、僕へのレビューに夢中だから。これから授業が始まります。家庭科の教室が何処なのかは覚えました。毎時間、教室を移動して知らない人たちとすれ違うのにも嫌気が差します。何故なら、彼らは此方を見つめるから。それでも僕を殺す事は無かった。何故なら、常にマスクを付けて、新型インフルエンザ“H5N1“関連情報をブログで冷やかすからです。“2012年“や文化祭のお揃いジャージも渇かします。何故なら、誰もこの場所が何なのかを口にしないから。放課後は自由に歩けます。知らない道が幾らでも見つかります。校舎に向かわずに、ルートを変更するのです。その日は近所を探索です。誰も居ない路地を歩けば、そこが僕の黒澤怜や天倉繭、雛咲深紅の暮らす日常へと繋がるからです。現実感を消すための感覚も身につけました。ソファに横になり、Eluvium や Hemi-Sync を聴きます。目を閉じて、flicker で見つけた、静謐な水の世界を眺めます。岩場を歩く感触を味わいながら、その空気の冷たさ、音の無い宇宙、人の不在する、この世の果て。その先には霧と光しか捉えることができません。何故なら、明晰夢の材料でしか無いから。カラパイアで見かけた“スティルトン“や“remee“は不要です。それはただの、人のための浮き輪。お遊びです。必要なのは「ムービープラス」と「ザ・シネマ」、vimeo や、SoundCloud もお利口です。何も必要有りません。目を閉じて、耳を澄ませて、その日々を無価値な悪夢として見つめる。幼稚園から先が無い。その先に在るのは“虫探し“。それだけ。臨海学校でも烏賊と蛸の観察。その夜には、2組の皆んなで踊るだけ。佑樹くんは梶田と二人で蛸になりきっていました。僕はいつもの紙人形。前日に切って重ねたクリオネの仮装。初めて身につけるので、部品も破けた。全員同じです。統制が取れている。この夜に価値など無い。演劇の練習なら大変でしたよね。卒業式や運動会と同じ事。映画撮影や、お年寄りの方を慰める会もそう。粘土細工と、お化け屋敷と、生物観察なら楽しめました。コップもお皿も、仲良く捨て去りましたが。あの窯の中には、子供が四人は入ります。重いコップを落としたら怒られます。価値は無いのに。花壇の柚子や、蜜柑の木を放置するのはどうしてですか?体育では野球ごっこをしましたね。ベースの裏には何がいるのかと、気にしてはならないのは何故ですか?このお遊びを真剣にこなすことに、一体どのような価値があるので?お化け屋敷なら最高でした。子供たちは怪談の朗読で、「くっ、くっ、くっ、くっ、くっ。」を、無味乾燥に言えて楽しそうです。ゴミ袋を纏った中には、あの子がいます。穴から骸骨の揺らぐ様を見せつけて、図書室の迷子たちを楽しませます。僕の描いた蠍人間のイラストは、気持ちが悪くて没にされました。絵本に描かれたお化けの数々を集約させたキメラです。まるでエレクトリカルパレードの団員のよう。サラリーマンのお父さんの頭部と、囚われた主婦の頭から飛び出た毒牙。その間に続く蠍の体は、図鑑の模写です。蠍もお化けも見たことが無いから。同じ存在です。それから生物観察。僕よりも詳しく図鑑を知るものが一人もいない。そのせいで“蒸し蒸し博士“と呼ばれる始末。虫が好きだと話したことが一度でも有りましたか?子供たちには気づかれています。あなたたちが此方を大切にしないから、死骸や瀕死体に枯れ葉をかけるのです。そして撮影する。フォルダに集めて、新学期に公開。プラナリアの切断実験。再生することなどは無いからです。蒸し焼きにしたので。冷蔵庫に保管することが許されなかったから。小田原の川から連れ去り、それから先は、ただの同胞。終わる日まで切り続けました。実験に価値は無い。それよりも鼠屋敷のアニメーションから抽出した、呪いの俳句などは如何ですか?赤い明朝体で印刷しました。僕にとっての親友たちです。採血好きの蜥蜴や、煙草の嫌いな料理長、天秤小僧と、監獄住まいの猫の死体。番外編には深夜学校なんかもあって、それらの友人たちは uni のシャーペングッズにストラップとして付属します。ほんとに可愛い。カイオーガを知らなくても、オギーは大好き。そのゲームに一体何の価値が?寿司を舐めとるお餅や、ハードルを駆け抜ける鼠の方が楽しいですよ。催眠術師は自ら眠る。ポケモンは育てるものじゃ無い。指につけるものだ。あの男の子だって、階段から可愛いモンスターを召喚した。巨大な緑の蛾のレアカードは偽造です。鎌倉で正月に買った、唯一の可愛さ。それでもそれは、無価値な紙切れ。動物模型も百円で買えます。それを大人たちが1万円で買ってくれる。井守と蛙の餌代となるわけです。それでもミミには玩具は与えられない。僕が土曜日に内緒で買ったところで、ミミには二百円の玩具は高いのだそう。それではタマにあげた、あの毛糸の百円のやつは?部屋が散らかるから駄目なのだそうです。台所で怒鳴り続けるのも、四人に増えて満足ですか。その子に罪は無い。あなたの自殺に巻き込むな。キャンプに行く理由を答えましょう。森です。海岸へ向かう理由は?鯨です。ならば舞浜で過ごすのは何故?僕を捨てたいから。チュロスを片手に迷子になったときに見たのかもしれない。僕のことなど見てなかった。鼠の着ぐるみに夢中になって。玩具の収容所に泊まり込んで。偽物の食堂で肉を頬張る。綺麗な魔法の天井ね。まるで魔法のようだ!バジリスクを起こそうか。あの城で台詞を変えない、あの悪魔。いつのまにか消え去りましたね。気づけばそこから誰も居なくなった。エレベーターが楽しかったのに。お姉さんが楽しそう。メダルを貰った子供も何も言わずに微笑む。河馬を射殺できなくてお兄さんも叫んでる。インディアンの観光客も囚われたまま。それでも夜になれば人が消え去る。巨大な蛇や、大岩の落ちる夢を独り占めできるからだ。他には何も無い。夢の操縦には免許がいらない。何故なら、初めから走り続けるからだ。記念撮影の瞬間を逃すな。全員、目を瞑っているぞ。「夢でも見たか、Walter ? 」別の現実から来たシェイプシフターなら交代してくれそうね。誰も夢から逃げられない。人形劇では無いはず。ただの監獄。夢想建築。でも、植木に埋まったパイナップルが踊るのを見たものが一人もいない。後で確認したら動ける筈も無かった。石だから。草じゃない。でも、これは夢よ?逝かれ蟻さん。眠って。」

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