絵日記

ohne Warum

第1話

「どうしてお母さんは、僕が収容所に閉じ込められて、集団暴行や強姦や自殺や自傷や誘拐や人形劇や殺人や、それから“家族“に巻き込まれても、笑っていられるの。」

「あなたがいれば、藁人形の代わりになるからよ。」

「じゃあ、これはきっと、あの夜に神社のお祭りに向かったお母さんが、僕に言ったことの、その先の世界って事?」

「なんて言ったのかしらね。昔のことなど何も覚えてないわ。」

『これって、夢でしょ。』

「確かにそう聞いた。手を繋いだままでは、僕もお祭りに参加しちゃうから。」

「んん、違うよ。」

「僕は笑わない。見つめるだけ。返さない。乞うだけ。何も言わない。息を吸うだけ。蛙は鳴く。蝸牛は鳴かない。蛞蝓は家が無い。チーちゃんは僕を見てくれる。翔くんだって。佑樹くんも、きっと本当は笑えない。萌ちゃんも、彩ちゃんも、亜美ちゃんも、皆んな本当は、お家に帰りたく無い。でも逃げたら、なっちゃんを虐めるから。泣いてるのに笑うのを見つめるだけ。床に倒れて動けなくても、ちゃんと見つめてる。目の前で、お母さんは笑ってる。」

「天井に穴が空いたら、二階の翔くんたちとも遊べるね。隣の部屋には佑樹くん。まよちゃんだって、向こうに住んでる。」

「萌ちゃん家で隠れんぼをしたよ。真っ暗な部屋の中で、皆んな見つからないように隠れてた。僕はベッドに立って、ホーンテッド・マンションのビデオに出てくる、黒い枯れ木の真似をして動かなかった。こんな風に手を広げて、バレないようにじっとしてた。扉が開いて、彩ちゃんがこっちを見つめた。きっとバレなかったと思う。何も気づかずに、部屋から出て行ったもの。皆んなには気付かれなかったと思う。ハロウィンの夜もそうだった。社宅で皆んなが騒ぐから、白い電気の部屋で、会社の人がくれたガラクタを整理してた。もう、どうすれば良いのか分からなかったから。だからお母さんが言ったから、紙を引き裂いて鼻に貼った。テープでね。」

「ユウマくんのそれは何?」

「象のお化け。鼻の紙は象の鼻。」

「僕はドラキュラ。お母さんが作ってくれた。かっこいいね。」

「違うよ。それは台所の袋。黒いから何でも隠せる。ちーちゃんのは水色だけど。」

「ちーちゃんはシンデレラだよ。カボチャだから。」

「シンデレラって、何でシンデレラっていうか知ってる?“しんで、レア“ 。お母さんに虐められてたから、名前もシンデレラ。」

「違うよ。シンデレラは、死んでるよ。リカちゃんと同じ。人形の見た目。」

「ユウマくんの作ってる、それはなあに?」

「これはチョコケーキ。雨の日だけ食べれる泥のお菓子。優しく撫でないと壊れちゃう。泥団子よりも簡単。食べれないけど。」

「そのケースで何をしてるの?」

「この中にミミズを入れた。砂を溶かしたから見えないけれど、この中に二匹いる。ミミズは水が好きだから。プールでも死なない。」

「お玉杓子だ!たくさん捕まえたよ!可愛いね。」

「指でつかんじゃ駄目だよ。また潰れちゃう。可哀想。葉っぱで優しく掬えば大丈夫。金魚と同じ。メロンとモモが食べちゃうから、うちでは飼えない。池に返そう。」

「このグルグルはニョロゾのお腹の。アーボのグルグルとは見分けがつかない。」

「そんなことより、またヒノアラシを描こうよ。眠った目が狐みたいで可愛い。チョンチーが一番。ゲームは要らないと思う。」

「ヒルだ!大きい!幼虫を食べる悪者!気持ち悪いね。」

「土をかけようよ。幼虫を探すのも終わり。」

「僕の!アゲハの幼虫は僕の!返して!」

「飼えないよ。逃してあげて。」

「ユウマくん、なんで、テレビの前でジャンプしてるの?」

「彩ちゃんが出てるから。応援してる。どこにいるか分からないけど、どこかに映ってる。部屋にいるのも彩ちゃん。この後にテレビに映る。」

「ポケモン指人形の続きしよ。新しいお家を作る。」

「シェルダーとパルシェンは一緒だから、これで繋がる。シェルシェンの方が強い。」

「タランスとブラックウィドウは何が違うのかな。」

「色がちょっと違うだけ。スコルポスの顔を開けたら、本当の顔があるのと同じ。蜂の鋏のとこだけ貰っていい?あとはどうでもいいから。」

「ほら!チータスとタイガトロンは兄弟!同じ形だから!」

「チーターとホワイトタイガーは別だよ。チーターは早いけど、トラは檻で暮らしてる。ラットルと一緒。野毛山にまた行こう。」

「山猫だー!山猫だー!あそこに白い山猫が座ってる!皆んな起きて!山猫がいる!」

「ユウマ!皆んな寝てるから、静かに!もう眠る時間だよ?ご飯にするから。」

「マシュマロを何で焼くの?そのままでいいじゃん。」

「これに刺して少し焼くと美味しい。燃えてたら炭に落とすんだよ。」

「座って食べていい?焼くのは魚だけ。さっき捕まえたやつ。何で食べるの?」

「口内炎痛いの?塩が滲みる?」

「マスは食べれない。」

「あの大きい虫は何だろうなあ。ユウマ、図鑑で見たことあるか?」

「オオミズアオ。一番大きい。夢で森に連れ去ろうとしたオオスカシバが一番大きいけど。明るい畑の向こうに連れてかれそうだった。こわい夢。」

「———毛の生えた蝸牛がいる。」

「知ってるよ!改メて———。」※

「———ザリガニに、鯖を食べさせると、青くなる。」

「クサガメに、海老を食べさせると、青ざめる————。」※

「翔くんのママ、運転上手いね。」

「皆んな静かにっ、すばらっ、しい.......。」

※これらは記憶違い。わざとじゃ無い。でも、僕と同じ名前の子が死んだときに、お通夜に行けなかったから。そこには彼らが集まるから、会いたくても家に居るしか無い。道で会ったら、また殺されるから。必ずBLEACHは最後まで見るから。美術のノートに描いた絵が上手かった。僕のコズミくんも上手く描けたけど、表紙を裏返しにしてた。宇宙人を見られたら焼かれるから。理科室でホルマリン漬けにされたのと同じ。豚の心臓でキャッチボールしたり、魚の体を解剖したり、いつもと同じ。でも髪は焼かないと思う。普通は。」

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