第222話 初めての狩り
とりあえず、オールダーたちに大丈夫であることを教えに戻った。
「守護聖獣に、ですか?」
「ああ。知能は高く、言葉を理解し、理性的だったからな。レオノール国の守護聖獣にと誘ったのだ」
異人なのは内緒。理解の範疇外だからな。無理に話す必要はない。
「まずはお前たちに会わせる。あちらも人間と話すのは初めてだ。怖がらせないようにな」
「怖いのは我々のほうですよ」
そんな冗談が言えるほど、オールダーたちは守護聖獣を受け入れているってことだろうよ。
翡翠を連れてきてオールダーたちと対面させた。
「あ、あの、翡翠です。よろしくお願いします」
なぜか正座をしてオールダーたちに頭を下げたが、やられたほうは戸惑うばかり。それが飛竜の習性と思われたら困るからあとで守護聖獣に相応しい態度を教えんといかんな。
「まだ人との接し方がわかってないんだ。ちょっと不可思議な行動をしても許してやってくれ」
「え? わたし、なにか変なことした?」
まったく、育児放棄しやがって。会うことがあったら説教してやるからな。
「たんに相互理解ができてないだけだ。そのうちわかってくるから慌てなくていい」
まだ人間としての意識が強く、飛竜──マゴダとしての本能はまだ出てきてない。やがてくる理性と本能の鬩ぎ合いでまだ戸惑う。そのときのためにも徐々に慣れさす必要がある。下手に拗れると厄介なことになるからな。
「翡翠。海の守護聖獣を紹介する。空は飛べるか?」
「え、うん。飛べるよ」
「オールダー。オレらはコルモアに戻る。またミドットリー島を頼むぞ。コルディアたちもすぐに戻す」
「わかりました。ありがとうございます」
気にするなと言い残して海に向かった。
オレが四本の脚で当たり前のように走れるように、翡翠もそ空を飛ぶことが当たり前なようで、自然に羽を広げて空に舞った。
ふわっと舞ったところから呪法を持っていて、羽自体で飛んでいるわけではないっぽい。やはり、竜と言う生き物は上位の存在なんだな~って思うよ。
「ロド。そちらにいく」
──わかった。
海面を走っていくと、目印になってくれてるのか、ラダーレンが浮かんでてくれた。
「翡翠。あれが海の守護聖獣でオレの友達だ。ホバリングできるか?」
「う、うん。大丈夫。お、襲ってこないんだよね? 食べられたりしないよね?」
「あちらの主食は魚だ。お前は食わないよ」
いや、ロドたちがなにを食うか知らないが、無差別に食ったりはしないだけの知性と理性がある。オレの家族を食ったりはしないよ。オレだってミドの家族は食わないし。
オレはホバリングできないのでラダーレンの背に乗せてもらった。
「ロド。翡翠だ。オレと同じ異人だ」
──ミドの子、ロドだ。よろしく頼む。
「え? 頭の中に声がしたよ!?」
「呪言、所謂テレパシーだ。呪法と言う力を持っていれば使えるそうだ。おそらく翡翠も使えるだろう。そのうち試してみよう。まずは挨拶だ。ロドたちとは長い付き合いになるんだからな」
「えっと、翡翠です。産まれたばかりで右も左もわかりませんが、よろしくお願いします」
──ああ。こちらこそよろしく頼む。
「なんだか人っぽいんですね」
──我らが親も異人だ。思考が人のようになる。
「へー。ファンタジーな世界なんですね」
お前が一番、ファンタジーな存在だけどな。
「ロド。すまないが、お前たちが食わないものを教えてくれ。そちらの獲物を奪ったら申し訳ないからな」
この際だからオレも知っておこう。住み分けは大切だからな。
──問題ない。我らは海面に近くで生きているものはあまり狩らない。血が薄いからな。我らを狩らないでくれるのなら好きに狩るといい。
「だ、そうだ。ロドとラダーレンは狩るなよ」
「狩れと言われてもお断りよ。絶対、わたしが食べられたゃうもの」
まあ、ラダーレンは百メートルくらいある龍だ。絡められたら翡翠には勝てんわな。
「翡翠。腹は満ちているか?」
「うん。ちょっと空いてる。あれだけ食べたのにな~」
「さっきのでは成長に必要なエネルギーが足りてないのだろう。オレらのような獣はトン単位で食うからな」
「食料不足にならない?」
「なるかも知れないから乱獲はするなよ。陸地でも奥に入らないと大型のと出会えないからな」
「わかった。他に食べられるのも嫌だけど、餓死も嫌だからね」
「ああ、それでいい。翡翠。あそこにマッコウクジラが潮を吹いているのが見えるか?」
オレ、嗅覚は並みだが、視力はいいのです。
「うん、見える。群れっぽいよ」
もしかしてオレより目がいいのか?
「じゃあ、今度は自分で狩ってみろ。自分の食い扶持は自分で狩るもんだからな」
「わ、わかった。頑張ってみるよ。美味しかったし」
ホバリングから大きく羽を広げ、マッコウクジラに向かって飛んでいった。
初めての狩り。かんばれよ~!
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