第221話 新たな家族

 とりあえず、見た目から肉を食うんだろうと、マッコウクジラのような生き物を狩ってきた。


「……これを、食べるの……?」


「精神は人間かもしれんが、体は人間じゃない。味覚もその体にあったものになっている。オレも最初は抵抗があったが、味を覚えたら人間のものは食べられなくなったからな」


 芋や豆を食ってみたが、味を感じなかった。なんかボソボソして飲み込めなかったっけ。


「一口噛って、ダメそうなら吐き出せ」


 マッコウクジラみたいなのは初めて狩ったが、噛ったらイケると感じた。翡翠が食わないならオレが食うよ。


「……うぅ、なんでこんなことに……」


 それがわかることは一生ない。死にたくないのなら食え、だ。


 泣きながらもマッコウクジラに爪を立て、口が裂けるように広がり、ガブリといった。その口どうなってんの!?


「……どうだ……」


 口に入れたまま固まってしまった翡翠。不味いのか?


「──美味しい! なにこれ!? 美味しいんですけど!!」


 種としてのスイッチが入ったのか、マッコウクジラに噛みつき、骨ごと噛み砕いている。スゲーな。オレでも骨は食わないのに……。


 五メートルはあるマッコウクジラをあっと言う間に食らい尽くし、満足とばかりにゲップをした。汚いなー。


「血が濃いと感じたか?」


「ううん。濃いとは感じなかったけど、いい脂身だったよ」


 脂身か。肉食獣はどちらかと言うと淡白な肉だが血は濃く、逆に草食獣は脂肪を溜め込み血は薄い。


「翡翠は草食系の獣を好むみたいだな」


「そうなの?」


「同じ守護聖獣に草食獣を好むのがいる。そいつと同じっぽいからそう思ったまでさ。これから狩りをして、いろんなものを食えばわかるさ」


 マッコウクジラを食えるようになったら他のも食えるようになったはずだ。精神は人間でも体は獣だ。獣の本能には勝てないのだ。


「腹が満ちたら頭が回るようになったか?」


 満腹だから寝ます、とか許される世界じゃない。しっかりと縄張りを主張してからじゃないと、明日の太陽は見られないだろうよ。


「う、うん。わたし、どうしたら……」


「選択その一。空が飛べるならいきたいところにいけばいい。ただ、この世界は弱肉強食だ。オレらより強い存在はいる。別の大陸に人間はいるが、その体では受け入れられることはないだろう。自分の居場所を得るために厳しい生存競争を勝ち抜くことだ」


「そんなの無理です! わたし、産まれたばかりですよ!」 


 そのサイズならどこかの島を得ることくらいできると思うがな。やる気さえあれば、だが。


「じゃあ、選択その二。守護聖獣となってレオノール国を守る。それならば居場所は与えられるし、受け入れられもする。ただ、人間と戦うことを求められる」


「……に、人間は、敵なんですか……?」


「いや、人間と言う種は敵ではない。レオノール国にも人間はいるし、この島は人間に管理を任せているからな。ただ、相手が国となれば別だ。レオノール国の民を奴隷などにはさせない。敵は討つ」


 それだけは譲れない。オレは人間の敵ではないが、レオノール国の敵なら人間でも殺す。容赦はしない。


「選択その三。生きるのが嫌なら死ぬことだ」


 人間の精神を持っていたらこの世界は地獄だ。辛い思いをするなら早々にこの世界から退場することだ。


「まあ、すぐに答えを出すこともない。しばらくここで考えたらいい。だが、レオノール国の民を傷つけたり食い殺したら容赦はしない。その瞬間からお前は敵だ」


 同じ転生者でも敵なら殺す。その体を食らう。オレはこの世界で生きているんだからな。


「しゅ、守護聖獣になります! わたしをレオノール国に置いてください! 民を守ります!」


 オレの気迫に萎縮はしたが、竜の生存本能が生きることを選んだようだ。


「わかった。翡翠。今日この時より守護聖獣だ。レオガルドが認める」


 よし。これで空を守るヤツが仲間に、いや、家族になった。レオノール国はより強固になる。

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