第218話 竜が出た
「レオ!」
と、ビズがオレの鼻に飛びついてきた。
竜の巣からレオノール国に移り住んだサエギリの樹のハーピーだ。
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
ハーピーたちには伝令として働いてもらっており、主にコルモアに住んでもらっている。なにか問題があるのは外からの侵略だからな。
「ええ、元気よ。仲間がたくさん卵を産んだから暖めるのにわたしも駆り出されたわ」
ハーピーは卵を産むんだ。上半身は人なのにな。
「そうか。それはめでたいな。今日はその報告か? 急いでいる様子だったが?」
「そうよ! ミドットリー島に竜が住み着いて困っているってさ」
「竜? あの島に?」
ねぐらにするにはいいかもしれないが、住み処にするには厳しいだろう。その竜が魚を食うならわからないでもないが。
「そうみたい。人間は食われてないみたいだけど、夜中に鳴くからうるさくて眠れないってさ」
夜行性の竜なのか? いや、竜は夜行性なのか? 火竜は昼に動いていたが。
「わかった。オレはコルモアにいくからビズはゼル王に竜が出たこととオレが向かったことを伝えてくれ」
「任せて! あと、海の魚が食べたい。最近、捕れる魚がいないのよ」
「わかったよ。手頃なのを捕まえてきてやるよ」
海にはロドとラダーレンがいるからマグロくらいの魚が逃げ出しているのだ。
まあ、小魚は逆に集まってきているから漁には困ってない。ただ、ハーピーたちは赤身の魚が大好きだから滅多に食べられなくなったと怒っているけど。
「ジュニア。ミドットリー島に竜が出たと言うからいってくる。チェルシーかミディアがきたらオレが帰るまで滞在してもらえな」
「はい。お気をつけて」
レイギヌスのナイフはいらないだろうから町の真ん中に刺しておく。これで、モンスターはちかよってはこないだろう。
「ギギ。お前もたまにはミドットリー島にいってみるか。人も増えたし、巫女の存在を知らしめておこう」
「ゼルム族の巫女を一人、連れていっても構いませんか? 海を見せておきたいので」
そう言えば、最近巫女を連れて出かけてなかったな。竜のことが終わったら各町を回ってみるか。
ゼルム族の巫女は、マルレと言い、見た目は二十歳だが、十六歳だとか。もう結婚して子供がいても不思議じゃない年齢だ。
もっと時代が過ぎて、平均寿命が伸びたら十六歳でも子供を産むのは早い、とか言われるのかね?
まあ、そんな未来を考えるより今は竜だ。美味い竜だとやる気が出るんだがな。
簡単な用意をしたらギギとマルレを背に乗せてコルモアに向かった。
竜が出たことで、コルモアはちょっと騒ぎになっており、クレンタラ号とシャーロット号、あと、諸島連合体の船団も停泊していた。
「レオガルド様!」
港に小屋をいくつか立てて緊急避難所で指揮を取っていたセオルが駆け寄ってきた。
「状況は? 被害は出ているのか?」
「被害は出ておりません。全員避難して、今はプレアシア号が警戒しております」
ゴルティアが見張っているのか。責任感の強いヤツだ。
「そうか。いい判断だ。ギギ。マルレ。お前たちはコルモアにいろ。セオル。二人を頼むぞ」
「はい。すぐにクレンタラ号を出させます」
レニーラの姿がないのはそのせいか。
「ああ。警戒しながらこいと伝えておいてくれ」
港から海岸に向かって走り出し、風を纏って海に飛び出した。
久しぶりに駆ける海は気持ちいいものだ。
──レオガルド、どうした?
ロドから呪言が届き、海から飛び出してきた。ラダーレンも。仲良しか。
「ミドットリー島に竜が出た。それを見にいくところだ」
──ああ、マゴダの子か。
「マゴダ?」
──人間は飛竜と呼んでいた。おそらくマンダリーから流れてきたのだろう。
飛竜か。この世界にはいろんな竜がいるようだ。
「その、マゴダは強いのか?」
──飛ぶのは速いが、そうでもない。火竜に襲われて海に落ちるのを見たことがある。
なら、Aランク以上、Sランク以下、って感じか?
「そうか。なら、問題なく狩れるな。教えてくれて助かった」
SSSランクでも勝てるが、なにも知らず戦うのは愚策だ。少しでも情報があるならありがたいよ。
しばらく駆けると、ミドットリー島が見えてきた。プレアシア号は……いた。無事のようだ。
まずはオレがきたことをゴルティアに教えるか。
方向を変えてプレアシア号に向かった。
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