第217話 成人の儀
ジュニアの妻は、バレイヤと言うらしい。
歳が同じ十歳とか。人間なら「なに言ってんだ?」となるが、ゼルム族の十歳は人間の二十歳くらい。家庭を持っても不思議ではないそうだ。
ちなみにゼルも二十歳くらいで結婚し、現在は四十歳。妻が三人いて、ジュニアの他に五人の子がいたりする。
まあ、ゼルム族の中でも体格がよく、若くして旧ミナレーの民を率いていた長。妻が三人いても不思議ではない。強い者なら二人はいるのが普通なんだとよ。
弱肉強食な世界じゃ強い男じゃないと生き残れないとは言え、弱い男には生き難い時代である。
……強くても永遠の童貞がここにいるがな……。
とりあえず結婚式はマイノカで行い、三日くらいお祝いをしたら新しく造った町に出発した。
諸島連合体と交流を持つようになり、ゼルム族も上半身や下半身も服を着るようになり、タンスとか持つようになった。
花嫁道具ではないが、ゼルの妻たちからタンスを二つ贈られ、衣装もたくさん持たされたそうだ。
新しく造った町には神殿も造るので、ギギや巫女たちもついてきてもらった。
「ジュニア。町の名前はお前が決めろ」
「はい。では、ロザンガの町はどうでしょうか?」
前から決めてたのか、すぐに返してきた。
「ロザンガか。なにか意味はあるのか?」
「昔、凶悪なモンスターと戦ったゴゴール族の勇者の名前だそうです」
へー。ゴゴールにそんかヤツがいたんだ。たまに出る特殊個体かな? てか、ゴゴールの名前をつけるとか、ジュニアもやるな。こいつ、意外と政治力があったりする?
まあ、とにかくロザンガの町と決め、全員に伝える。
「ここが新しい町ですか」
まだ村レベルでしかないロザンガに希望に胸躍らすジュニア。若いとは羨ましいものだ。
「今はなにもないが、マイノカくらいにはするぞ」
「はい。いい町にしてみせます!」
そのやる気やよし。さあ、始めるぞ! と、まずは自分たちの家を自分たちの手で作ることから始めた。
次期王だからと言ってふんぞり返っているほど人手は足りてない。ジュニアもバレイヤも自分たちの家を作った。
「ギギ。神殿はどうだ?」
巫女や
「はい。できました」
オレの毛で作ったミニレオガルドが祠に奉ってあった。
……いつ見てもふざけているとしか思えないよな……。
いや、こうしようと言ったのはオレだが、祠にヌイグルミが置いてあるってシュールでしかないよ。
町が徐々にできていき、オレはそれを見守る。それだけ? などと言わないで欲しい。これも重要なことなんだから。
レオノール国はオレの縄張りだが、一匹のモンスターが縄張りにするには広すぎる。
チェルシーやミディアが走り回って縄張りを主張はしているが、まるでゲームのようにモンスターは湧いて出てくる。
まあ、生存競争を生き抜いたモンスターは、そう簡単に出てこないが、人には抗えない獣はポコポコ出てくる。
熊なら大歓迎なんだが、獣も獣で生存競争は激しい。ここでは熊は食われる側にいるんだよな。ハァー。
「レオガルド様! 竜獣が出ました!」
またか。最近、よく出るよな。
ブレイブ族と初遭遇したときはよく見てたが、それからさっぱり見なくなった。なのに、今年になってやたら見るようになり、こうして襲ってくるのだ。
オレがいるのに襲ってくるのはそれだけ数が増えているってことだ。
「銃士隊、片付けろ」
諸島連合体と交流ができて銃の数も増え、弾も気にしないで撃てるようになった。
騎士ワルキューレたちに相手させてもいいのだが、銃士隊は王の兵であり、対人間部隊だ。訓練ばかりでなく実戦も積ませておかないとダメだろうと、竜獣がよく見るようになったので呼びつけたのだ。
「レオガルド様! わたしも出ていいですか!」
ジュニアも鎧を着て、銃を持って現れた。
「ああ、いってこい」
まだ強いリーダーが好まれる風潮があり、ジュニアも臆病な性格でもない。戦闘訓練は積んでおり、銃の扱いもできる。ベテランについていれば怪我することもないだろうよ。
しばらくして、自分の下半身の背に竜獣を乗せてジュニアが戻ってきた。
「レオガルド様、仕止めました!」
フフ。褒めてもらいたいか。大きく見えて中身はまだまだ子供だな。
つい親目線になって頭を撫でてやりたくなるが、本人は一人前の男として見られたいだろうから止めておく。
「おお、デカいのを仕止めたな。よくやったぞ」
「はい! レオガルド様、食べてください! 弾は取りましたので」
なんだ。オレのために持ってきてくれたのか。
「そうか。ありがたくいただくよ」
謎触手で竜獣を巻き取り、パクっといただいた。
竜獣は好みじゃないし、増えた獣ってのは栄養が足りてないから血が薄い。とても美味しいとは言えないが、せっかくジュニアが狩ってきてくれたもの。それだけで胸がいっぱいだよ。
「ジュニアが狩ってきてくれた獲物を食える日がくるとはな。いつかお前の子が狩った獲物も食べたいものだ」
あと十年なら生きていようが、その頃にはレオノール国も発展してよう。狩りができる立場じゃなくなっているかもしれないが、夢を持つくらい許されるはずだ。
「はい。我が子を鍛えてレオガルド様に獲物を出させます」
「ああ、楽しみにしているよ」
それが王族の成人の儀になることを、そのときのオレはまだ知らなかった。
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