第214話 絵師殿
メインイベントが終われば使節団の接待は大体終わりだ。
使節団には雪が降るまでは巫女温泉でゆっくりしてもらい、雪が降ってきたらマイノカへ戻った。
今年の雪はそれほど積もらないみたいなので、春まではマイノカに滞在してもらうことにした。
その間に、
「レオガルド様。絵師殿が絵を見て欲しいとのことです」
絵師殿? あぁ、モゼスのことか。あいつ、絵師殿とか呼ばれるようになってたんかい。
「ああ、通してくれ」
今は巫女たちにレーキで毛を梳いてもらっているが、掲げてもらえば見れるだろうよ。
「お休みのところ申し訳ありません」
「構わないよ。いい絵は描けたか?」
「はい! もう紙が足りないくらいです!」
水を得た魚のように生き生きしてるな。
今の時代の技術では画用紙の品質は出せないが、そこに描かれた絵は一級品だってのはオレにもわかる。
まあ、抽象的な芸術画ではなく、あるがままを移した絵ではあるが、よく写し描けている。木炭かなんかで描いたんだろうが、ほんと、よく描けているものだ。
「色がついたものも見てみたいな」
人間の世界に絵具はあるらしいが、さすがに使うと思って持ってきてない。この地で作るとしても作れる者がいない。レオノール国がどれだけ技術文化が遅れているかよくわかるよ。
「またこの国にきて、色のついた絵を見せてくれ」
「はい。国に帰ったら色のついたものを描いてお送りします」
「それは嬉しいな。まあ、お前ならいつでも歓迎する。きたくなったら領事館に言うといい」
使節団が帰るとき、こちらからも使節団を送り、諸島連合体に領事館を置く約束を交わした。
まあ、仮ではあるが、それはミロウド・セバス伯爵のがんばり次第。ダメなときはこちらもダメにするだけだ。
やはり今年の冬は雪が少ない。降っても地面を染めるていど。ただ、寒さはいつも以上とのこと。オレにはその差がわからんけど。
冬の間は使節団とのおしゃべりや内政の手伝い。たまに各町に様子見に出かける。ほんと、今年は穏やかな冬である。
やがて冬が終わり、暖かい日を待って使節団をコルモアに送り届ける。
使節団の帰国準備はできており、レオノール国からの使節団も準備完了だった。
レオノール国の代表は、ロイド。元マイアナ人で、四番艦シャーロット号の艦長だ。
コルモアとミドットリー島を往復させてたが、経験を積ませるためにも諸島連合体に向かわせることにしたのだ。
もちろん、補佐としてレニーラの部下もつけ、ゼルム族、ゴゴール族も見聞を広めさせるためにも同行させる。
準備は完了しても使節団の体調や話し合いもあるので、コルモアで二十日くらい過ごさせ、天気のいい日に出港となった。
その日はゼルたちも呼び、国を上げての見送りとした。
これと言った式典はしなかったが、海岸に人を並ばせて諸島連合体の使節団とレオノール国の使節団を見送った。
「よき旅路であれ!」
オレもミドットリー島まで付き添い、本格的な旅路に祝福を送った。
「ロド、ラダーレン。いるか?」
まだこの海にいるだろうミドの眷族たるサメと白い龍に呪言を送った。
仲間たちを追うのかと思ったら、もう離れすぎて追いつけないからここで待つんだとさ。この世界、どんだけ広いんだよ?
──どうした?
すぐにロドの呪言が返ってきた。
「すまないが、レオノール国の船を守護してもらえないだろうか? ロドのできる範囲で構わないので」
──よいだろう。少し、飽きていたところだ。レオノール国の船を守護しよう。
サメも飽きるということあるんだ。
「感謝する。ラダーレンはどうするのだ?」
──ラダーレンもいきたいと言うので連れていく。
龍も飽きていたのか?
「そうか。無理しないでいい。ロドとラダーレンになにかあればミドに申し訳ないからな」
──気にする必要はない。強い者が生き、弱い者は食われる。それだけだ。では、船を追う。
呪言が切れ、ラダーレンが海面から飛び上がって挨拶を送ってきた。
船団の姿が消えるまで見送り、消えたらコルモアへ戻った。
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