第206話 ハノガ一族

 まずは旅の疲れを落としてもらうために、神殿の横に建てた迎賓館(的なもの)で三日くらい休んでもらうことにした。


「ミロウド伯爵。まずはマイノカの気候に慣れろ。オレにはわからんが、人間にはコルモアとマイノカの空気が違うそうだからな。レニーラ。よく見ててやれ」


「わかった。湖に連れていっても問題ないか? 諸島連合体では暑い日はよく水遊びをするそうだからな」


「今の時期は暑いのか?」


 まだ夏にはなってないだろう。


「慣れれば気になりませんが、初めてきたときは暑く感じました」


 ギギに尋ねたらそんな答えが返ってきた。


「そう言えば、よくゼルム族が水風呂に入ってたな」


 と言うか、あいつら暑さに弱いのか暑さが好きなのかわからん種族だよな? 水風呂に入ったかと思ったら蒸したサウナにも入っているんだからよ。


「湖にいくときはオレに言え。虫払いするから」


 放電して蚊のような小さな虫を追い払っている。変な病気を発生させられたら困るからな。


「人間には辛い地だ。部屋にいるからって肌を晒すなよ。毒を持つ虫もいるからな」


 日頃はなんかの植物を燃やして虫払いしているようだが、オレも放電して虫を殺しておくか。


 使節団のことはレニーラに任せ、オレは狩りへ出かけた。


 最近は草食系の獣やモンスターだったので肉食系のモンスターにしゃぶりつきたい。いないのなら熊でもいいや。


 運よく赤熊の親子を発見。母親だけ食って子は逃がした。元気に育っていいエサに育だてよ。


「子育て中のメスはいまいちだな」


 オスはいないかな~と探していたらゴア(ゴリラ)の群れと出くわした。


「おー。久しぶりに見たな。こいつらでいいや」


 熊には劣るが、肉食系の獣だ。草食系のよりはマシってものだ。


 四匹だけ食って残りは逃す。お前らも元気に育てよ~。


 腹が満ちたらマイノカに戻り、虫払いを行った。


「師匠」


 マイノカを適当に歩いていると、ヤトアがやってきた。


「スパイを捕まえた」


 スパイ? あ、ああ、あれな。すっかり忘れてたわ。


「生きて辿り着いたんだ。なかなか優秀なスパイなんだな」


「ああ。人間にしては優秀だったぞ」


 うん。お前も人間な。いや、能力はバケモノになっているけど。


「ほー。そんなに優秀か。どれ、ちょっと見てみるか」


 押し込んでいると言う小屋に向かった。


 驚いたことにスパイは女であり、まだ少女と言える見た目だった。 


「こいつなのか?」


 どうにも信じられず、ヤトアに問い質してしまった。


「ああ。信じられないのも無理ないさ。おれも最初は小柄の男だと思っていたしな。おそらくギギ様と同じハノガの一族だと思う」


 ハノガの一族? なんだっけ? と、ギギを連れてきて説明してもらった。


「異能の力を持った一族です。帝国では魔女とも言われてました」


 あ、あー。そう言えばそんかこと言ってたな。ギギも身体能力が高くて、空飛ぶ鳥を石で打ち落としていたっけ。もうそんなことする必要ないから記憶から転げ落ちてたよ。


「こいつもギギ様と同じ身体能力が高いな。おそらく訓練されているんだろう」


「諸島連合体のスパイか?」


「いや、おそらく帝国だろう。こんなエゲつないことをするのはな」


 帝国か。ほんと、碌なことしない国だよ。


「どうする?」


「なにかしゃべったか?」


「いや、なにもしゃべらない。拷問慣れしているようだ」


 それはまた酷いことを。帝国は潰したほうがいいな。


「じゃあ、よく食わせてよく遊んでやれ。まともになるまでな」


 どんなに優秀でも弟子三人からすれば幼子みたいなもの。いい感じに遊んでやれは人の心を取り戻すことだろうよ。変な方向にいくかもしれんけどな……。


「ギギ。生活は面倒みてやれ」


 ヤトアに鍛えられているのでこいつに負けることはないだろう。弱い獣くらいなら素手で倒していたしな。


「はい。では、お風呂に入れさせますね」


 暴れるスパイを締め上げて弱らせたら小屋から連れ出した。


「関節技なんて誰が教えたんだ? 肩、外したぞ」


「昔、戦奴だったヤツから教わった。おれは好みじゃなかったが、ギギ様なら使えるんじゃないかと思って教えた」


 戦奴なんてもんまでいたんかい。知らんかったわ。


「巫女にも教えてくれ。護身術とするから」


 守人ガーディはいるが、巫女にも護身術として教えておこう。不届き者はどこにでもいるからな。


 スパイのことはギギとヤトアたちに任せ、虫払いに戻った。

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