第207話 思惑
使節団がマイノカの環境に慣れたと言うのでゼルと会わせることにした。
文化の違いはレニーラを通して使節団に伝えてもらい、ゼルたちにも人間を通して伝えてある。
まあ、それは以前からゼルたちには教えているので、そう反発はしないだろう。
「レオガルド様はこの日がくることを知っていたのか?」
いつ会うかを決めるためにゼルたちと話し合っていると、ラゼ(ジュニアの補佐)が口を開いた。
「知っていたと言うより予想していただけだ。外との接触は必ず起こるとな。人間は欲のためなら死を恐れず海を越えてくると。そして、この大陸を制服しようとすると、な」
元の人間と同じかはわからんが、開拓団を懲りもせず送り込んでくるのだからそう違いはないはずだ。
「人間をナメるな。油断するな。弱い種族だからこそ知恵を武器にする。数で攻めてくる。何度と失敗しようが自ら滅ぶまでやってくるんだ」
それが人間と言う生き物なのだ。
「レオガルド様は人間を憎んでいるので?」
「嫌いならギギと暮らしてないし、お前らと一緒にはいない」
ここにはギギもいる。重要な位置についてる人間やゴゴール族もいる。
「オレが言っているのは人間の特性、習性、考えを理解しろと言っている。ゼルム族にだって同族と戦ったりしていただろう。種を存続させようとするなら必ずぶつかるんだ」
それに負けたら先はない。ただ、滅ぼされるか搾取されるか、どちらにしろ種としては終わりだ。
「いいことは学べ。受け入れられないのなら取るな。守りたいなら戦え。お前たちが一人で歩き出せるまでオレがいてやるから」
オレがいる間に人間に負けぬ知恵と強さを身につけて、世界に飲み込まれないようになれ。
「我らはレオガルド様に守られているばかりの子供ではない。各自、己の役目を果たせ」
セルのシメに全員が頷き、使節団との対面に備えた。
それから二日。予行練習をしてから使節団を城に招いた。
格式張ったことはしないが、ゼルム族にはモンスターの毛や革で作ったものを着させ、護衛の
「諸島連合体の友よ、よくお出でくださった。我はレオノール国王、ゼルである」
「はっ。諸島連合体使節団団長、ミロウド・セバス伯爵と申します。温かい歓迎、ありがとうございます」
お互い、問題を起こさないよう注意しながら言葉を交わし、使節団が持ってきた手土産をゼルに献上した。
「これはありがたい。ミロウド伯爵たちが帰るときは我が国の特産をお送りしよう」
まずはお互いに利益が出る関係を築くのが早道だろう。パラゲア大陸のものならあちらの大陸では大金に化けるだろうからな。
まずは親交を深めるために食事を振る舞う。
「人間が食べられるものを用意はしたが、舌に合わぬものもあろう。少しずつ食べ確かめてくれ。気に入ったものがあれば追加しよう」
種族による味覚の違いはあるもの。人間には食えてゼルム族に食えないものはある。これは、人間がなにを好むのかを調べるためのものでもあったりするのだ。
「この肉はモンスターのもので?」
「ああ。ただ、我々は肉食系と草食系、雑食系と分けている。それは草食系モンスターの肉であるな。人間の舌には草食系が合うそうだ」
この日のためにミゴル(マンモス)の子を捕まえてきて果物ばかり食わせ、ストレスを与えないよう育てた。
人間に味見させたところ大変美味しいとのこと。食い慣れてない使節団の舌にはどうだろうな?
「これは美味い!」
どうやら満足する味のようだ。他の者も我先に食べているよ。
「船を一隻もらえるなら捕まえてくるぞ。船一隻使えば四匹くらいなら乗せられるだろう」
番を二組やれば繁殖はできるはずだ。まあ、失敗したらまた船と交換してやるさ。
「はい、是非!」
「わかった。なら、誰か世話をする者を選べ。こちらの飼育員が世話の仕方を教えよう」
さすがに三十日くらいの航海になるんだからあるていど知識がないとダメだろうからな。
「ありがとうございます。パラゲア大陸の生き物を持ち帰ることができるなら船の一隻や二隻、まったく惜しくはありません」
「さすがに肉食系モンスターは止めておけ。とてもじゃないが人間に倒せるものではないからな」
「アハハ! わたしたちも命が惜しいので肉食系はごめんですぞ」
オレの冗談が通じたんだろう。笑って返してくれたよ。
「まあ、骨でいいのならくれてやるぞ。組み立てて諸島連合体の者たちに見せてやるといい。金を取れば儲けられるぞ」
それとなくオレが商売のことも知っていることを教えておいた。商売がわかると言うことは損得勘定ができるってことだからな。
「レオガルド様とはよい商売ができそうです」
「商売は人同士でやってくれ。ただ、お互い儲けられる商売にしてくれよ。これからも仲良くやっていくためにな」
利益を逃したくないのならレオノール国と仲良くしろ、だ。
「さすがはレオノール国の守護聖獣様です。諸島連合体としても末長く仲良くやっていきたいと思っております」
「まあ、お互い知らぬことも多い。ゆっくりと親交をしていこうではないか」
ちょっとオレが前に出すぎてしまったが、最初が肝心。こちらの思惑を見せておかないとな。
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