第204話 規定路線
使節団の主なメンバーは、ミロウド・セバスを代表に商人のライガル、船団長のモービル、書記官のミゼシム、ロズイ、シャリドの六人だ。
他にもいるが、オレの目から見てその六人が主要メンバーだろう。
歓迎会的なものはやっただろうが、今回はギギとオレを混ぜての歓迎会を開き、巫女たちの踊りを披露した。
まあ、巫女の踊りは守護聖獣への捧げみたいなものとして教え、外の者にレオノール国の文化を見てもらうためと称している。
「素晴らしい踊りですな。この踊りはなにか意味があるのですか?」
文化の違いと言うものを知っているのだろう。まず褒めてから踊りの意味を尋ねてきた。
「ありがとうございます。レオノール様に捧げる踊りで、豊穣を願うものです。この地にはモンスターが多く生息します。守護聖獣様方がおらねば人がこの地で生き抜くことは不可能。それはゼルム族もゴゴール族も同じです」
オレを見るミロウドだが、失礼と思ったのかすぐに目を逸らした。
「不躾なものでなければレオガルド様は気になさりませんよ。なんなら触れてみますか? よろいしいですか、レオガルド様?」
構わないと、謎触手をミロウドの前に出した。
「それはレオガルド様の手みたいなものです。握手を求めているようですよ」
「そ、そうなのですか?」
「はい。認めた方にはよく触りますから大丈夫ですよ」
恐る恐るオレの謎触手に触り、握手のようなものをした。
「……意外と柔らかいのですね……」
「ふふ。レオガルド様の手は意外と器用ななんですよ」
さすがに人間の手のようにはいかないが、そこそ細かい作業はできるくらいには器用だな。
「他の方も触ってみますか?」
オレに恐怖はあるものの、興味のほうが勝るようで謎触手に触ってきた。
そのうちの一人、書記官のロズイに霊力を感じた。
凄く小さいので流すところだったが、人間からしたらかなり高い霊力であろう。
「あ、あの、なにか失礼をしたでしょうか?」
謎触手から手が離れないことに恐怖するロズイ。本人に自覚なしか?
「……呪法管理人か……?」
「しゃべった!?」
いや、オレがしゃべれること聞かされてないのか? 別にしゃべれるのを秘密にしろとは言ってないぞ。
……まあ、諸島連合体の思惑が見えるまでら黙ってようとは思ってたけどさ……。
「教えてはいましたが、獣がしゃべるなど信じがたいことですよ」
余所行きの言葉でレニーラが教えてくれた。
「まあ、しゃべれる獣は少ないしな」
陸ではオレとミディアくらいだしな。今となっては母親がちゃんと言葉をしゃべっていたのかもわからないよ。
「人の世にあまり口を出すことはないが、諸島連合体とは対等に交流していきたい。五十年後、百年後の未来を考えて付き合っていこうではないか」
「は、はい。諸島連合体としてもレオノール国とは仲良くしていきたいと思います」
「そう言ってもらえると助かる。そちらからは蛮族に思えるだろうが、諸島連合体と付き合っていけば暮らしは変わり、考え方も変わっていくだろう。もちろん、そちらも変わっていくだろう。価値観が近づけば争うことも少なくなる。戦争などと言う浪費は避けたいのでな」
戦争が技術を進歩させる。それも事実。だが、戦争をしなくても技術は高められるはずだ。この世界はそうなって欲しいよ。
「……帝国やマイアナは厳しいですぞ……」
「ああ、それはわかっている。欲に溺れてここに攻め込んでくるだろう。だが、戦争とは金のかかるものだし、物資を食い潰す。負けたら国が傾くほどにな。そのときは諸島連合体が大きくなって人間の国を治めてもらえると助かるよ」
攻めてくるのは規定路線。なら、対抗する準備も規定路線。
「……レ、レオガルド様は未来が見えるので……?」
「未来など見えんよ。ただ、人間の歴史には詳しいぞ。こうしてお前たちがくるのもわかっていたから用意していたからな」
青くなる使節団の皆さま方。まあ、こんな獣に言われたらビビるのは当然だろうがな。未知の存在だし。
「諸島連合体が欲を持つのは構わない。ただ、欲に目を捕らわれて足下ばかり見ていては国は百年と続かない。諸島連合体は何年続いた? これから百年先も続いているか? レオノール国はオレが生きている限り続くぞ」
まあ、あと何年生きられかなんてわからんが、ギギが死ぬまでは絶対に死なん。そのときまでオレはギギとこの国を死んでも守ってみせる!
「諸島連合体はよく考えることだ。レオノール国は信頼には信頼で応え、力には力で対抗するとな」
この大陸は宝の山だ。想像ではあるが、かなりの資源が眠っていることだろう。今は掘り出せなくても百年先二百年先は掘り出せるかもしれない。
「国は長く続くことに価値がある。国の格となる。レオノール国は、諸島連合体がこの先何百年と続くことを望む」
この先、レオノール国が発展するためにも、な。
「どうするかはゼル王に語ってくれ。今を生きる者たちよ」
オレには子は残せない。ならば、未来を残してやろう。これから生まれてくるレオノール国の民のために、な。
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