第203話 使節団

 朝早く、ギギたちを連れてコルモアへ向かった。


 橇を牽いての移動だから三時間くらいかかってしまったが、九時くらいにはコルモアの手前、陸軍の演習場まで到達できた。


「ミドロア。元気そうだな」


 こいつとの付き合いも長いものになるよな。


 マイノカになる前、ギギとその仲間たちと暮らしていたときにミドガリア帝国のアホを連れてやってきた。


 まだ道もない頃に兵隊を連れてくるんだから優秀な男だよ。


「はい。毎日美味いものが食えるので太ってしまいましたよ」


「もう四十は過ぎたのか?」


「はい。もう四十五ですよ」


 もうそんなになったのか。時が過ぎるのは早いものだな。確かにあの頃のスタイリッシュな体はなくなってしまったな。


「お前は、結婚しているのか?」


 付き合いは長いが、そんな話、まったくしなかったな。


「はい。もう孫までいますよ」


「孫までいたのか!? お前、そんなに早く結婚してたんだな……」


 初めて会った頃には結婚してて子供がいた計算になるだろう。


「祝ってやれず悪かったな。お前の働きは賞賛すべきことなのに」


「そう言ってもらえるだけで光栄ですよ」


 後ろ足で首の辺りを掻いて毛を抜いた。


「ギギ。落ちた毛を集めてミドロアにやってくれ。ミドロア。その毛を編んで孫にくれてやれ。お守りだ」


 オレの毛で産着を編むのはゼルム族の習わしだったが、それがいつの間に他の種族にも伝わり、オレの毛は一本残らず集められて糸にし、いろんなものに編まれているよ。


「ありがとうございます! 我が家の家宝とします!」


 いやまあ、好きにしたらいいさ。なんかオレの毛は価値があるみたいだしな。


「巫女たちが着替える場所を貸してくれ。あと、セオルにオレらがきたことを伝えてくれ」


 人間の足でも一時間くらいだし、この辺なら獣もいない。すぐに伝えてくれるだろうよ。


 小屋の一つを借り、巫女たちを着替えさせた。


 しばらくしてコルモアから伝令が走ってきた。


「迎える準備が遅れております! 昼前に時間を変更して欲しいとのことです!」


 ちょっと急がせすぎたかな?


「わかった。ゆっくり向かうから慌てるなと伝えてくれ」


「わかりました!」


 休みもせず戻っていく伝令。人間にも足の速いヤツがいるんだな。


 ミドロアに昼食を用意してもらい、オレはその間に狩りに出かけた。


 諸島連合体のヤツらと会うので、体を汚さないよう樹にぶさ下がっていたヘビを狩り、細切れにして口元を汚さないよう気をつけながら食った。


 戻る頃にはギギたちも食い終わっており、昼くらいになったらコルモアに向けて出発した。


 人間とゴゴールの巫女はオレの背に乗せ、ゼルム族の巫女には悪いが歩いてもらった。


 コルモア陸軍にも護衛を頼み、二時間くらいかけてコルモアに到着した。


 セオルも準備が間に合ったようで、垂れ幕みたいなものまで用意していた。そんなものよくあったな?


 ギギにはオレの背に乗ってもらい、ゼルム族の巫女を先頭にして人間とゴゴールの巫女は左右につかせた。


「ようこそお出でくださいました、レオガルド様。ギギ様」


 いつもは仰々しい出迎えなどするなと言ってあるが、今日は諸島連合体のヤツらに見せつけるもの。仰々しくしたほうが威厳があるっぽく見えるからな。


 謎触手でギギを下ろし、ギギに挨拶をさせる。


「またお世話になりますね、セオル様」


「はい。ごゆるりとお過ごしくださいませ」


 貴人であることを示すためにギギの前で片膝をつき、頭を下げた。


 セオルの嫁や子供とも挨拶を済ませると、諸島連合体の使節団の面々がオレたちの前に出てきた。


「諸島連合体使節団の代表、ミロウド・セバス伯爵です」


「お初にお目にかかります。ミロウド・セバスと申します。巫女神様、守護聖獣様に会えたことを嬉しく思います」


 使節団としてくるだけはある。オレを見ても動じず、礼儀正しくしているよ。


「守護聖獣レオガルド様の巫女神、ギギと申します。ミロウド・セバス様。ようこそお出でくださいました。レオノール国王、ゼル様に代わり歓迎します」


 スカートの裾をつかみ、軽くお辞儀して使節団を迎えた。


 さて。これからが本番だな。


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