第192話 キケーラ
長老が指(いや爪か)を差した方向に走ることしばし。なにか奇形岩が現れた。
「……なにか竜が岩になった感じっぽいな……」
岩にするモンスターがいたら嫌だが、これはたまたまだろう。雄大な自然が作りしなんたらかんたらだろうよ。
「これがモレーテゲの岩か?」
ビズに尋ねたが、只今絶賛気絶中なので無理だった。
「キケーラはいなそうだな」
ここはかなり広い湖で、真ん中に島があった。こういうのなんて言ったっけ? カルデラ湖、だっけか? もう昔過ぎて思い出せんわ。
湖の周りを回っていると、湖から緑色の龍が顔を出した。
「ラダーレンより小さいな」
遠くて長さはわからないが、感じからして三十メートルもないんじゃなかろうか? 龍ってよりはヘビよりだな。
「いいとかろ準ランクだな」
見た目はアレだが、強さはそれほどない感じだ。
湖によると、緑龍が数匹湖から顔を出した。なんかキモいな。
オレの強さをわかるほどの知能もなければ生物としての勘も鈍い。いや、天敵がいないからの行動かもしれんな。ってことはキケーラの配下か?
「子って線もあるか」
雷を放つとびっくりはしたようだが、あまり効いた感じはしない。雷耐性があるようだ。
「だが、熱はどうだ?」
雷を放ち続けていると水が泡立てきた。
オレは百度くらいじゃなんともなく、間欠泉がいいシャワーに思えるくらい熱にも強い体をしている。
「お、暴れてる暴れてる」
雷耐性はあったようだが、熱はからっきしのようで、いい感じに茹で上がった。
「では、実食」
心の中で手を合わせて緑龍を食ったが、あまり美味しくなかった。やはりオレは生でないと美味しいと感じないようだ。残念。
とは言え、他に食うものもないので緑龍を食っていき、三匹で腹が満ちてしまった。ゲフ。
残った緑龍を陸へと上げ、森の中へと放り投げてやる。さあ、隠れている獣たちよ、お食べなさい。
オレが見ていては恥ずかしがって食えないだろうからその場から立ち去る。
湖を一周し、辺りが暗くなってきた。キケーラは遠征してんのか? 早く帰ってこいよ。
「……いったいなにが……?」
やっとビズが起き出した。
「キケーラがいるモレーテゲの岩まできた」
「はぁ!? キケーラは?!」
「いない。湖には緑色の龍はいたがな」
パニックになるビズに粗方のことを説明すると、気持ちが落ち着いたようで腹を鳴らせた。てか、ハーピーはなにを食うんだ?
「なんでも食べるけど、主食は魚ね。この湖にいた魚を捕ってたのにモケーが住み着いてからはいなくなったわ」
あの緑龍、モケーって呼ばれてんだ。なんかマヌケな名前だ。
「魚か。それは海の魚でも食うのか?」
「食べるわ。まあ、滅多に食べれないけどね」
なんでもハーピーを狙う竜魚がいるそうだ。本当に竜ばかりのところだな。なんか竜を育てる力に満ちてるのか、ここは?
「なら、オレが捕まえてやるよ」
食直しに竜魚とやらを食ってみよう。
海へ走り、とりあえず竜っぽい魚を捕まえてみた。ちょっと味見。まあまあかな。
「美味しいー!」
ハーピーの舌には合うようで、美味しいを連発しながら竜魚に食らいついていた。いやそれ、同胞を食った魚じゃん。抵抗はないのか? まあ、この弱肉強食な世界じゃ些細なことだな。
サイズ的にはシャチくらいなのでビズが食い切ることはできないので、サエギリの樹まで持ってってやった。
あまり食えてなかったのか、どいつもこいつも一心不乱に竜魚を貪っている。もうちょっと上品よく食べなさいよ。
「ありがとうございました。久しぶりに満足いくまで食べれました」
「それはなにより。ビズにも言ったが、お前らに別の地に移る意思があるならオレの住む国に連れてってやるぞ」
ここで死ぬと言うならそれもよし。無理矢理連れていっても不和の元だからな。
「若いものらを連れてってくだされ。歳よりは残ります」
「そうか。お前らの決めた意思を尊重しよう。キケーラを倒すまでに準備をしておけ。ちなみに何人くらいだ?」
「二十人ほどになります」
そのくらいなら背中に括りつけたら乗せられるな。あ、でも、安全のために籠でも作らせるか。見た目は拐うような形になるがな。
「レオガルド! キケーラだよ!」
ビズが指差す方向の空に双頭の緑龍がいた。
「……あれがキケーラか……」
まったく、いろんなもんがいる世界だよ。
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