第191話 サエギリの樹

 思いの外、深く眠っていたようで、限界以上食ったのに空腹になっていた。


「……やけに喉が乾くな……?」


 洞窟から出て水場を探した。


「おー! 綺麗な湖だ」


 そう大きくはない湖だが、湖の色と空の色が一緒だ。モンスターがいなければ世界的有名な名所になることだろうよ。


 喉を潤し、なんかいないかな~? と湖の周りを散歩してたらなにかを咥えた小型の竜獣が現れた。


 オレの気配がわからなかったんだろう。オレを見るなり咥えたものを落として逃げていってしまった。


 エサとしては不充分なので見送り、落としたものに目を向けたら翼を生やした……ハーピー? いや、翼は背中から生えて腕がある。まあ、人の手ではなく三本の鉤爪だけど。下半身も鳥の脚をしており、やはり鋭い鉤爪を持っていた。


「……こんな種族までいるのか……」


 この星の進化、確実に間違ってるよな? 誰かが意図的にたくさんの生命を生み出した感じだわ。


 サイズから人間より小さい。おそらく一・五メートルあるかないかくらいだろう。小さい種族なのか?


 気絶しているハーピー(仮)を謎触手で絡め、湖の中に放り込んでやる──と、目覚めたようであっぷあっぷと騒いでいた。


「なに!? なんなのっ?!」


 お。しゃべった。そして、言語が理解できた。この世界、言語共通なんだろうか?


「落ち着け」


 謎触手で湖から出してやる。


「しゃ、しゃべった!?」


「オレはレオガルド。別の地からやってきた。ここではしゃべる獣はいないのか?」


 地面に置いたら速攻逃げ出すハーピー(仮)。わからないではないが、訊きたいことがあるので逃がしませんで。


「お前を食ったりはしないから安心しろ。オレは大きいのしか食わんから」


 謎触手に絡まれながら暴れるハーピーが落ち着くまで待ってやる。ってまあ、ただ待つのもなんなので散歩を続けた。


「落ち着いたか?」


 湖を一周したらハーピーも落ち着いたようで、暴れるのを止め、オレを見詰めていた。


「……な、なんなの、あんた……?」


「別の土地からきた。なんでもここに住む竜が知り合いを襲うと言うから狩りにきた。お前、名前はあるか?」


「ビズ。サエギリの樹のビズよ」


 サエギリの樹? 名字か? 一族名か? 棲み家か?


「そうか。ビズか。ここには仲間がたくさんいるのか?」


「……昔はたくさんいたようだけど、もうサエギリの樹だけよ……」


 滅ぶまであと五秒、って感じか。ここも生きるには過酷なようだ。


「なら、オレの国にくるか? たくさんの種族が暮らすところだ。ビズのような空を飛べる種族がきてくれるとありがたいんだがな」


 いずれ人間たちが攻めてきたとき、空を飛べる種族がいるってのは心強い。伝令としても役に立ちそうだからな。


「まあ、無理にとは言わない。住み慣れた地を離れるのは勇気がいるからな」


 きてくれるならありがたいが、住み慣れた地を簡単に離れ──。


「──いく! そこなら安全なんでしょう?」


 そ、そうでもなかったみたいです……。


「さすがな安全とは言えんが、ここよりは住みやすいとは思うぞ。オレの家族があのくらいの大きいのは狩るからな」


 タイミングよくティラノ型の竜が現れ、風の刃で首ちょんぱ。朝食とした。


「ここはいいな。エサが豊富で。最近ではエサを探すのも一苦労になっている」


 保護区に草食モンスターはいるが、草ばかり食ってるから味が薄いんだよな。肉食モンスターの血生臭い肉、あれが食欲をそそるのだ。


「じゃあ、ここに暮らしたら?」


「それはできない。オレが守るべき地は他にあるからな」


 オレの居場所はギギのいるところ。エサが豊富なくらいで移り住んだりはしない。


 ビズを解放し、仲間のところへ案内してもらう。


 一時間くらい歩くと、森が集まったような樹があり、その下には竜獣が群れていた。


「また増えてる!」


「任せろ」


 風の刃を乱舞して竜獣を一掃。十時のオヤツとした。まずまずだな。


「皆、無事!?」


 ビズがサエギリの樹に飛んでいき、隠れていた仲間たちが出てきた。


 仲間も同じサイズなところを見ると、小柄な種族のようだ。よく竜ばかりの地で生きてきたものだ。


 ハーピーたちを驚かせないよう伏せのままで待っていると、ビズが老いた感じの男ハーピーを連れてきた。


「レオガルド。サエギリの樹の長老よ」


「ファオと申します。別の地からきたそうで」


「ああ。海の知り合いから頼まれてな。もし、特異な竜を知っていたら教えてくれるか? そいつを倒さないと帰れないんでな。もちろん、そのときお前らを連れて帰るぞ」


「もしかすると、キケーラのことだと思います。そいつが現れてからここは竜が狂暴になりましたから」


 特異なモンスターによくある現象か。配下なり仲間なりが変に進化するの。


「そのキケーラを倒す。場所を教えてくれ」


 さっさと終わらせてギギのところに帰るぞ。


「ビズ。モレーテゲの岩があるところは知っているな? レオガルド様を案内してやりなさい」


 わたし!? って顔になるが、長老からの命令に逆らえないようで、案内役に決定した。


 逃げられる前に謎触手で確保。長老が指差す方向へ駆け出した。


「イャアァァァァッ!!」

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