第190話 火竜

 ミドたちから竜の巣と呼ばれる地に足をつけた。


 ここがどれほどの広さがあるかわからんが、ビシバシと強い気配が伝わってくる。Sランクのモンスターがいるようだ。


 なるべく早くとは言ったが、どんなところか知らなければ狩るものも狩れない。まずは手頃なのを狩って腹を満たすとしよう。


 森に入るとすぐにモンスターなハンターが狩りそうな竜と獣を足したよいなものが現れた。


「Aランク、ってところか?」


 見た目は凶悪だが、そこまで強さを感じない。雑魚だな。


「とりあえず、角が三本あるからライガーと命名しておくか」


 なにからインスパイアされたかはそれぞれに任せるとして、襲ってきたのであっさり返り討ち。美味しくいただきました。


「ティラノサンダーとはまた違った味だな」


 種が違うんだろうか? 昔食った火竜に似た味だ。


 適当に歩き、襲いかかってきたのは狩って腹に満たし、逃げていくのは追わず、周囲にオレの存在を示した。


 やがて辺りは暗くなり、夜行性の竜が現れた。


 暗闇の中で赤い目が輝いているが、強者たるオレには丸見えも同じ。軽く雷を食らわせて追い払ってやった。


「Sランクだったかな?」


 まあまあの強さだったな。ミディアでも苦戦したもしれんな。


 五日ほど竜の巣をさ迷うと、オレの存在を認識したようで、赤目(姿がわからんかった)もオレの臭いがしたらすたこらさっさと逃げ出したよ。


「確かに竜ばかりが住んでる地だな」


 小型の獣もいたにはいたが、食いたいとは思えないくらいの小さな存在。おそらくここで生きるために小さくなっていったんだろうよ。


「ん? 火竜か?」


 さあ、今日も狩りますかと起きてエサを探しに出たら赤い鱗を持った、西洋の竜って感じの竜が現れた。


「SSランクかな?」


 赤目よりは強い感じはするが、SSランクの壁から出ている感じはしない。ここら辺の中ボス、ってところだろうよ。


 自分の強さに自信があるのだろう。オレの余裕に訝ることもない。強いってのも生きる妨げとなるんだな。オレも気をつけよう。


 相手は強いと気持ちを引き締め、戦闘体勢を取る。


 先に動いたのは火竜。口を開けて炎を吐いてきた。


 並みのモンスターなら一瞬にして炭化させられそうだが、風の渦を巻いて空へ流してやった。


 怯んだ様子の火竜。きっと避けられたことないんだろう。次に動けないでいるよ。


 待ってやる必要もないので雷を一発噛ましてやった。


「おー。さすがSSランクの火竜。今のを堪えるか」


 とは言え、Aランクを黒焦げにさせてやるだけの威力だ。カウンター一発受けたくらいの衝撃だろう。


 倒れることはなかったが、膝落ちはした──そこへ頭突きを食らわせてやった。


 吹き飛ぶ火竜。意外と硬い。ちょっと痛かったぜ。


「昔出会った火竜より強いな」


 まあ、まだオレがAかSランクくらいのときに出会ったんだから準モンスターくらいだったのだろう。こいつと比べたら失礼ってもんか。


 体勢を整えて火竜首に噛みつき、全力で噛み──切れん! 鱗、硬すぎ!


 噛み切るのを止めて雷を食らわす。さらに食らわす。さらにさらにでなんとか火竜の息の根を止めてやった。


「ゼーゼー。意外と強敵だったぜ」


 ほんと、舐めててごめんなさい。お前はティラノサンダーより強かったよ。


 全力で雷を放ったから霊力が底につきそうだ。早く食って体力と霊力を回復せねばならんな。


 鱗をガリガリと剥がしていき、火竜へと噛みついた。


「ウメー! なんだこれ? こんな美味い肉、初めてだ!」


 ティラノサンダーを食ったときも美味くて昇天しそうになったが、これは違ったベクトルの美味さだ。幸せすぎておしっこ漏らしそうだぜ。


「心臓も美味い。血が濃厚だ」


 我を忘れて火竜を食い尽くし、これまでしたことなかったのに、余韻で骨をしゃぶってしまった。


「こんなの食ったら他が食えなくなるな」


 贅沢は敵だとよく言ったものだ。こんな贅沢な味を覚えてしまったら他が食えなくなるぜ。いやまあ、腹が減ったら食うんだけどね!


「ちょっと眠るか」


 胃袋の限界を突破して、少し休まないと口から戻しそうだ。そんなもったいないことできん。特異な竜を探すのはそのあとだ。


 ちょうどよくオレが入れる洞穴があったので、そこで眠るとする。


 ……特異な竜も美味いといいな……。


 そう願って眠りについた。ZZZ……。

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