第183話 ロズル

 さすがに方角だけを聞いてバルバドラの勇士を捜すのは無謀すぎた。


 オレはあまり嗅覚に優れてはいないので、よほど強い臭いでなければ嗅ぎ取ることはできないのだ。


 とは言ってもこの弱肉強食な大森林で生きてきた獣であり、嗅覚だけじゃなく視覚や直感でも獲物を認識してる。しかも脚の速さはSSS級。脚で捜せば見つけられないってことはない。四日でバルバドラの民だろうゴゴールの臭いと足跡を発見できた。


 第五要塞にきてるならオレのことも聞いているだろうが、ここでは見つからないように動くのが基本。なにか察したら隠れてしまうものだ。


「バルバドラの勇士はいるか!」


 臭いが濃いので叫んでみる。


「オレはレオガルド! お前たちを迎えにきた!」


 しゃべれるからかオレの声帯は獣のように叫べない。そのせいか大声が出せないんだよな。


 何度か叫ぶと、ゴゴールにしては大柄な男が出てきた。


「バルバドラの者か?」


 相手を安心させるために地面へと伏せてバルバドラの男の目線に合わせた。


「……はい。バルバドラのロズルです」


 オレの姿を見たことがないようでかなり警戒していた。まあ、無理もない。しゃべるモンスターなんて怪しすぎる存在だしな。


「仲間はいるのか?」


「はい。皆、出てこい」


 ロズルの言葉に草むらの間から数十人のゴゴールが出てきた。


「結構いるな」


「これでも半分が獣に食われてしまいました」


 まあ、ゴゴール族も大森林では弱者。補食される立場だ。これだけ残ったことがロズルの働き大、ってことだろう。


「ここからはオレがつく。しばらく休め」


 おそらく碌に眠ってもいまい。まずはゆっくり休ませることにする。


 女子供をオレの胸の中で眠らせ、野郎どもは尻尾を枕にして眠らせてやった。


「ロズル。お前も眠れ。まだレオノール国まではあるぞ」


 オレが一日駆けたのだからゴゴールには七日くらい余裕でかかるだろうよ。


「……はい……」


 同胞が心配なのか、樹にもたれかかりながら大森林の奥を見ていた。


「妹も逃げてきてるのか?」


「……はい……」


 生きている確率は低いだろうが、それでも一縲の望みを抱いて捜しているのだろうな。


 可哀想だとは思うが、大森林では死は身近なもの。弱者の思いなど簡単に踏みにじられるのだ。


「諦められないのならいっていいぞ。あとはオレが引き継ぐから」


 こいつは優しい上に責任感が強いのだろう。どちらも捨てられないでいる。まあ、優柔不断なだけかもしれんがな。


「……すみません……」


 そう言うと樹々の間に消えていってしまった。やれやれだ。


 引き継いだ以上、こいつらを生きて届ける責任がオレにはある。なんとか六日かけて第五要塞まで届けることができた。


「すまないが、オレがしばらく帰れないとブランボルに伝えてくれ」


 レニーラには申し訳ないが、どうもああ言う男を見捨てておけないんだよな、オレって。ハァー。帰ってきたら謝らないとな。


 返事を待たずロズルの元へと戻った。


 ロズルと別れて六日以上は過ぎてるが、ゴゴールの行動範囲などオレの一時間圏内。臭いを見つけるなどそう難しくない。数分で見つけられた。


「モンスターの気配?」


 うっすらとした気配だからそう強いモンスターではない。臭いもそう濃くはない。おそらく猿系のモンスターだろう。


 オレは猿系は好みではないのでスルーするが、猿系はどこにでもいて、肉食なのが多く、ゴゴール族やゼルム族は手頃なサイズなせいでよく狙われたりするそうだ。


 しかも猿は群れる。体長も四メートルくらいあるからゴゴールでも集団にならなければ食われるだけだろう。が、ロズルは違った。猿系モンスターを五匹も倒していた。


 かろうじて準に入ってるとは言え、一人で五匹を倒すとか凄い。しかも素手とか格闘センス、どんだけだよ? 肉体性能はヤトアを超えてるぞ。


 なんて驚いている場合じゃないな。助けないと。


 ロズルと猿どもの間に入り、突風で猿どもを吹き飛ばしてやり、雷で止めを刺してやった。


「少し休んでいろ」


 謎触手でロズルを絡め、樹の根のところに移し、狩った猿どもをいただいた。うーん。いまいち。


 この猿は初めて食ったが、やはり猿の味だった。だがまあ、腹は満ちるだけの量はある。今日の分と明日の分にはなるだろう。


 一匹だけ残し、ロズルの前に置く。


 鞘からナイフを抜き、猿を適当に切り裂いて血を抜く。ゴゴール族も人間と同じく血抜きしないと肉を美味しいと感じないのだ。


 枝を集め、雷で着火。枝に猿の肉をぶっ刺して焼いてやった。オレ、器用だろう?


「まずくても食え。塩はここに入ってあるから多少なりは食えるはずだ」


 万が一のときのために鞘のポケットに塩を入れてるが、さすがに謎触手で出せないのでロズルに出させた。


「……すみません……」


 なんと言うか、無口なヤツである。


「気にするな。ほら、妹が生きていると信じているなら食って力にしろ。妹が追い込まれていたとき、動けないでは助けることもできんぞ」


 なにがあろうと食え。食わなきゃ生きられないし、妹も助けられないのだからな。


「オレも妹捜しを手伝ってやる」


 ロズルが納得するまで付き合ってやるさ。

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