第182話 バルバドラの民

「ここがゴゴール族の町か」


 一通り挨拶を済ませ、今日はゆっくりするために神殿に向かっていると、レニーラが背の上に立ってキョロキョロしていた。


「珍しいか?」


 人間の技術が入って泥煉瓦の家や木造の家が増えたせいで、以前の掘っ立て小屋は少なくなった。人間の住む町とそう変わらないと思うんだがな?


「珍しいさ! ここまできた人間はそうはいないだろう!」


 そうはいないが、職人やその家族は何組かはいる。そう人類初でもないぞ。


 まあ、レニーラの喜びに水を差すのもなんだし、その感動に付き合ってやった。


「レオガルド様、ようこそお出でくださいました」


 神殿長のシャルタ以下、巫女と守人ガーディが迎えてくれた。


「ああ。世話になる」


 皆元気そうでなによりだ。


「レニーラだ。しばらく神殿で面倒見てくれ。サイラ。ブランボルでの暮らしをよく見てコルモアに帰ったら活かせ」


 サイラとはコルモアから連れてきた人間の巫女で、諸島連合体から奴隷として買ってきた娘でもある。


「はい。わかりました」


 水の呪霊を宿している娘でもあり、多少なら水を作り出したりもできるそうだ。


 まあ、だからと言ってなにかをさせる予定はない。ただ、ゴゴールの暮らしを学ばさせるために連れてきたらまでだ。コルモアにはゴゴールが増えてきたからな。その繋ぎ手となってもらいたいのだ。


「シャルタ。サイラのことも頼むぞ」


「はい。お任せください。サイラ。よろしくお願いしますね」


「は。はい。よろしくお願いします!」


 あとはシャルタにお任せ。レニーラが旅の疲れを癒している間にヤトア、銃士隊、電撃隊ライカーズ猟兵イェーガーの一隊を連れて平原へと向かった。


 道ができてるお陰で半日くらいで到着できた。


「ここも発展してきたな」


「はい。バルバがいなくなって田畑を広げられました」


「モンスターは現れてないのか?」


「A級と思われるモンスターの足跡はありましたが、姿を見せてはいません」


 へ~。姿を現さないA級モンスターとかいるんだ。肉食系ではないのか?


「ヤトア。電撃隊ライカーズ猟兵イェーガーを揉んでやれ。オレが帰ってくるまでお前がへばっていればオレが揉んでやるからな」


「どちらにしろおれが揉まれるよな、それ?」


「オレに勝つんだろ? そのくらいできないようではSSランクのモンスターにも勝てんぞ」


「ハァー。厳しい師匠だ」


「優しくして欲しいなら優しくしてやるぞ」


 それだと一生オレには勝てんだろうがな。


「わかったよ。やってやるさ」


 それでこそオレの弟子だ。その不撓不屈の精神をゴゴールたちに教えてやってくれ。


電撃兵ライカー猟兵イェーガー、ヤトアを殺すつもりで挑め。その男はお前らの遥か先にいる。追い越せ。銃士隊、いくぞ!」


 そう煽って平原へと駆け出し、第一要塞まで駆け抜けた。


 半日毎に築いた拠点兼避難所──第一要塞は十人くらいが滞在しており、森と平原の境の村から近いだけあって食料も水も充実しており、外で寝ても安全な場所になっていた。


「最近では肉食獣も見なくなりました」


「そうか。なら、ここまでは畑を広げられるな」


 大きい川はないが、小川くらいのはいくつもある。ゴノの木でも移して栽培するのもいいかもな。


 朝になったら出発し、第三要塞まで駆け抜けた。


「お前らも長いこと走れるようになったな」


 ゴゴールの脚なら一日の距離もゼルム族なら半日で第三要塞まで駆け抜けてしまったよ。


「走ることだけはヤトア様に負けるわけにはいきませんから」


 数キロならヤトアが勝つが、長距離となるとゼルム族が勝る。そこは下半身が馬なだけに種族差だろう。


「そうだな。ゼルム族の最大の武器はその機動力だ。ヤトアを勝るなら他のどの種族にも勝てないだろうよ」


 なにもないところなら七十キロは出せる。森の中でも五十キロは出せてる感じだ。脚だけではなく動体視力もいいんだろうな。


 ゆっくり休んだら次の日は第五要塞まで駆け抜ける。


「レオガルド様!」


 第五要塞を守るバルバドラ族が迎えてくれた。


「なにか増えてないか?」


 前にきたときは五十人くらいだったのに、いっきに倍になってるぞ感じだぞ。


「はい。逃げて者です」


「バルバドラの民なのか?」


「はい。散り散りになった同胞です。なんとか逃げてきました」


 なんでもバルバドラ族の勇士が散り散りになった同胞を探し出して連れてきたそうだ。


「そうか。今も探しているのか?」


「はい。もう止めろと言っているのですがまったく聞かなくて……」


「そこまでする理由はなんなんだ?」


「妹を探しているそうです」


「一人でか?」


「……はい……」


 さすがに強者とは言え、一人は危険だろう。


「わかった。オレが見てこよう。銃士隊は休んだら周辺の警戒、地形の把握、狩りをしろ」


 そう指示を出し、バルバドラの勇士が探しているだろう方向へと駆け出した。


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