第181話 ブランボルへ

181 白虎

 マイノカでも収穫の時期がきて忙しくなった。


 まあ、オレは収穫の手伝いもできない。できるとしたら収穫物を運ぶことくらいなのでコルベトラから塩を運んできてまずはミナレアへと向かった。


 護衛兼荷物持ちとして銃士隊を二十人とヤトア、そして、人間の巫女を一人連れていく。もちろん、今回の目的はレニーラにレオノール国を見聞させるためだから人間の巫女と一緒にオレの背に乗せているよ。


「まさに道なき道を進むだな」


「これでも以前よりはマシになったもんだぞ。柔らかい草木が生えているくらいだからな」


 マイノカとミナレアの往来は増えたが、ここの植物の成長速度は早い。ほんの数日で人の丈くらい延びてしまう。オレが先頭を進んで刈らなければ七日から十日はかかるだろうよ。


 オレの早足ていどで刈っていき、五日でミナレアへと到着できた。


「随分と発展してるのだな」


「そうだな。ミナレアは川が三本あるから暮らすには最適なところだな」


 まさに川の字の如く三本の川があるので飲み水、生活水、用水路と使い分けられるので、畑にしやすく暮らしやすいのだ。


「レオ!」


「レオガルド様!」


 ミディアとライザーがやってきた。農業村にいないと思ったらミナレアにいたのか。


「元気そうだな」


「うん! 騎士ワルキューレとバリュードと戦ってた!」


「またきたのか、バリュード」


 しぶといモンスターだよ。なんか固執する理由でもあるのか?


「うん。でも、前よりは弱い。ボスが代わったんだと思う」


 前のボス、フジョーにやられたのかな?


「オレらはブランボルに向かうからたまにマイノカに戻ってくれな。ギギも会いたがっていたから」


「わかった。冬には帰る!」


「ミナレア。ギギねえ様にバリュードの毛皮をお土産にしよう」


「それいいね! 若いバリュードの白い毛皮をあげよう!」


 もう自分がバリュードではないと思っているようだ。まあ、オレも同族が現れたとしても違う種って思うだろうけどな。


 ルゼにレニーラを会わせ、交流している間にミディアたちと一緒にバリュード狩りに出かけた。


「第一防衛線まで入り込んでるのか──って、小さいな。完全に獣じゃないか」


 臭いが濃いから準モンスターかと思ったら、数十頭が群れてるだけだった。


「最近、こう言うのが多くて見過ごすんだよ。臭いがもうバリュードじゃなくなってるから」


 SSランクが率いないと下もは退化するのか? S以上はなんか特殊な電波でも出してるのか?


「獣じゃ腹も満たされんな」


 味も落ちてる。口が寂しいときに食うくらいの味だわ。


「まあ、毛皮は使えそうだし、持ち帰るか」


 ライザーには申し訳ないが、毛皮を剥いでもらい、肉はオレがいただいた。ミディアは同族の味は嫌いなんでな。ゲフ。


「これは大猟だな」


「この辺ではこのくらいはよくあることだ」


 獣はよく出る。騎士ワルキューレたちの狩りとなればこのくらいはいつものことだろうよ。


「ルゼ公爵とは話はできたか?」


「ああ。ゼルム族にもああ言う女がいたのだな。もっと早く知り合いたかったよ」


 まあ、ルゼも勇ましいところがあり、自立心を持った女である。そりゃ、レニーラとは話が合うだろうよ。


「今度、ルゼ公爵に海を見せてやってくれ。大森林しか知らんからな」


「ああ。必ず見せるさ。約束したからな」


 相当仲良くなったみたいだ。早く後継者を産ませないといかんな。


 粗方ミナレアを見て回ったらブランボルへと出発する。


 ブランボルまでは五日くらいの距離で、さらに往来があるので獣道くらいにはなっている。


「なんだか植生が変わったか?」


「そうだな。ブランボルは大陸の奥だ。獣の強さも少し増してるな」


 オレからしたら誤差でしかないが、ゼルム族やゴゴール族の話では二段階くらい変わるらしい。まあ、確かにここら辺の熊は一味違うけど。


「……こんなものまでいるのだな……」


 途中のキャンプ地で四メートルはある赤熊を捕まえてきたら、レニーラがびっくりしている。これまでも獣は狩ってきてたんだがな。


「久々の大物だ。こういうのが増えてくれると嬉しいんだがな」


 連れてきた銃士隊に捌かせ、肉はオレがいただく。うん。美味い美味い。


「レオノール国の民がレオガルド様が守護聖獣と崇めるわけだ。レオガルド様たちがいなければ人間など生きれるわけもない」


「今さらか?」


「毎日のようにパラゲア大陸の恐ろしさを痛感させられてるよ」


「まあ、そうだな。オレもこの大陸に生まれて三十年以上経つが、未だに驚くことがやってくるし、まだ見ぬ種族もいる。大陸制覇するには三百年くらい必要だな」


 それまで生きられたら、だがな。


「ゴゴールはよくそんな地で生きてるな」


「ブランボルは天然の要害に守られているからな。獣では近づくことはてぎんだろうよ」


 オレには細い溝をひょいと越えるくらいだが、獣には越えられない崖がブランボルを囲み、獣すら突き刺す茨が生えている。長年仕掛けた罠もあるので賢いモンスターは寄ってこない、らしい。


「吊り橋を渡るのか」


「ブランボルに通じる吊り橋はいくつかある。せめて正面は石橋を作ってやらないとダメだな」


 将来を考えたら丈夫な橋は必要だろう。ミナレアとブランボルを繋ぐんだからな。


「レオガルド様。ようこそいらっしゃいました」


 先触れを出したので、カルオンや猟兵イェーガー電撃兵ライカーが迎えてくれた。


「ああ。しばらく世話になるよ」


 今年の冬はブランボルで過ごし、ゴゴールの暮らしをレニーラに体験させてやろうと思ってな。


 ゴゴールに迎えられ、ブランボルへと入った。

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