第180話 我が友
マイノカまでの道はよくなったとは言え、馬車を走らせるほど均されてはいない。荷物はゼルム族が背負い、大きいものは橇に載せてチェルシーに牽いてもらう。オレはレニーラとレニーラの部下、セオルの家族を背に乗せて運んだ。
四回も往復してしまったが、その日のうちには運び終え、セオルたちの護衛として四日かけてマイノカへと到着できた。
「道がよくなりましたが、なかなかキツい道のりでしたな」
「お前も四十近いしな。体力が落ちてきたか」
「そうですな。歳は取りたくないものです」
この時代では寿命もそう長くない。精々長生きしても六十くらいか? いや、食事もいいし、七十まではいけるか? まあ、四十前だし、そう苦ではないだろうが、五十になればマイノカにくるのも辛くなるだろう。その前に道をよくして馬車を普及させないとダメだな。
一日休ませ、次の日にゼルへと謁見させた。
まあ、お互い初めてでもない。謁見ってより宴会になってしまったが、まだ堅苦しい礼儀や作法がある時代ではない。無礼講で構わないさ。
宴会が終わればゼル、セオル、レニーラ、オレだけで集まり、同盟航路の話を始めた。
まずはレニーラから航海のこと、諸島連合体のこと、大陸の情勢なんかを話してもらい、今後どうするかを話し合った。
大体の方針が決まれば、他のヤツらも混ぜてまたレニーラに話をしてもらい、セオルにはコルモアやコルベトラ、ミドットリー島の状況を語ってもらった。
電話もなければ手紙もない時代なので、口頭説明になって長い時間を取られてしまうが、これもゼルム族、ゴゴール族、人間のコミュニケーションの場だと思えば悪いことではない。この時代に合ったやり方でやるしかないだろう。
何度目かの宴でレニーラが席から外れたので、そのあとに続いてオレも出た。
「レニーラ。疲れたか?」
「少々な。だが、おもしろい。元の大陸にもゴゴール族のような獣人やドラッドがいたが、少数で奴隷以下の存在だった。貴族の身としては会えることもない。だが、今はこうしてたくさんの他種族を見れて交流ができている。楽しくて疲れを忘れていたよ」
寄りかかってくるレニーラを受け止めてやり、レニーラの思いを聞いてやった。
レニーラも四十六歳。若い頃のような体力はない。だが、溢れる情熱は若い頃のまま。心に体がついてきてないことに悲しくも燃え上がる情熱に抑えられないようだ。
「まだまだ見なくちゃならないものがたくさんあるんだから今日は寝ろ」
謎触手でレニーラを絡め、神殿へと連れてってオレの寝床で眠らせてやった。オレのモフモフは最高級の羽布団より最強なんだからな。
オレの寝床にレニーラを連れ込んだことでギギから髭を引っ張られたが、オレのモフモフに入れてやったら許してくれた。
「まるで夫婦だな」
「オレとしては同族と結ばれて欲しいんだがな」
ギギがいてくれるからオレは生きてられるし、守護聖獣なんてやってられる。たが、一番に願うのはギギの幸せ。当たり前の幸せを送ってもらいたいのだ。
「あの子はもうレオガルド様を伴侶と思ってるんだからそう言ってやるな。大事にしてやれ」
レニーラの言葉になんとも言えない気持ちになる。
ギギがそう思ってくれるのは嬉しい。だが、オレなんかに関わってしまったせいで人間らしい暮らしを奪ってしまったうしろめたさもあるのは事実だ。
「人の心を宿すと言うのも大変なんだな」
まったくだ。だからと言って獣に戻りたいとは思わない。面倒臭い限りだよ。
「これがオレだ。このままいくだけさ」
もう後戻りはできない。捨てることもできない。うしろめたさはあっても進むしかないのだ。ならばよりよい国を創ってやって安らかな日々を与えてやることがオレのできることだ。
「ふふ。ギギに嫉妬してしまうな。もっと早くレオガルド様に会いたかったよ」
「オレはギギと出会えたことだけは後悔してないさ」
レニーラの言葉に同意はできない。同意したらギギとの出会いを否定することになる。それだけは絶対に言えないことだ。
「律儀な男だ」
「オレは純情なんでな」
ギギと出会ったことがすべて。もう他を選ぶなんてことはできないんだよ。
「お前を選ぶことはできない。だが、お前の夢を応援はしてやるよ」
謎触手でレニーラを絡め、背に乗せてやった。
「我が友よ。お前にオレの大切なものを見せてやろう」
そう告げてマイノカを案内してやった。
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