第179話 領事館

 コルモアにやってきたら船から荷物を降ろされていた。


 まあ、伝令は人間だったのでロルクルまでやってくるには二日はかかる。オレも次の日にきたから荷物も降ろされて当然か。人はたくさんいるしな。


「無事、帰ってきました」


 オレの前に片膝をついて恭しく頭を下げた。


 なんだかしおらしいレニーラを謎触手で絡ませ、高く持ち上げた。


「よく帰ってきた。レオノールの冒険王。お前の帰りを祝福する」


「ちょっ、止めてくれ! 恥ずかしいだろう!」


「アハハ。お前はそれでいい。畏まるなんて似合わないぞ」


 生意気な口調がレニーラらしい。オレだからと畏まるんじゃないよ。


 思う存分、人前で高い高いしてやり、微笑ましい空気が満ちたところで下ろしてやった。


「旅の話を聞かせてくれ」


 場所を神殿に移し、旅の話を聞かせてもらった。


 いきの航海はこれと言った問題もなく、小さな嵐にしか合わなかったようで、三十二日で到着できたそうだ。


「今さらだが、なんでそんなにかかるんだ? そんなに船の足が遅いのか?」


 ヨーロッパから日本にくるならまだしも大陸間が千キロも二千キロも離れてるものか? この星は九割以上、海なのか?


「大陸と大陸の間にはマロウス海域と言う竜の棲み家がある。そこに入って生きて出てきた船はない。パラゲア大陸に進出を阻んでいる理由でもある」


 竜の棲み家とは。ミドのようなしゃべる竜でもいるんだろうか? あれからミドとも会えてないし、一度会いにいってみたいものだ。


 パラゲア大陸からきたことに一悶着はあったようだが、ゴゴール族の姿に納得してもらえたようで、諸島連合体と交易条約が結ばれたようだ。


 こちらから持っていったものは高く売れたようで、凄い大金に化けたようだ。


 そこで帆を新しくして、鉄製品と黒羊の番を三組買い、なんと、女の奴隷を十人買ったそうだ。


 レニーラが? とは驚いたが、なんでも船員が嫁にしたくて買ったそうだ。


「よく許したな?」


 お前、そう言うの嫌いじゃなかったか?


「嫁不足は深刻だからな。仕方がないさ。船員のモチベーションが上がるしな」


 まあ、奴隷を買うと言うのはアレだが、事実、嫁不足は深刻だ。男8に女2の状態。一生独り身ってのも気の毒だ。仕方がないと割り切るしかないだろう。


「次の航海は争奪戦になりそうだな」


「もう起こっているよ。怪我人も出てる」


 ハァー。新たな問題発生か。定期的にいかないと暴動が起きそうだな……。


「年に何回いけそうだ?」


「今は二回が精々だろうな。諸島は春に嵐がくるから」


 そうなると船の数を増やさないといかんか~。


「それなんだが、諸島連合体からもこちらにきたいそうだ」


「うーん。やはりそうなるか……」


 その考えはあった。だが、いずれとは思って考えから外していたのだ。


「諸島連合体に渡ってこれる船と技術はあるのか?」


「損失覚悟だろう。パラゲア大陸進出は一攫千金の夢だからな」


 一攫千金ね~。まあ、わからないではないが、人間には過酷なところだ。オレらがいなければマイノカまでも到達できんだろうよ。そう考えると、ミドロアたちは凄かったんだな。


「オレは守ってやれないが、やってくるなら自己責任だ。許可の有無はレニーラに任せる。そうだな。双方に領事館を置くか」


「リョウジカン? なんだそれは?」


 あれ? ないのか? 国と国の繋がりはどうしてんだ? 断絶か?


「レオノール国の一部を諸島連合体に置かしてもらい、諸島連合体もレオノール国に領事館を置く。つまり、国交を結びましょう、ってことだ」


「なるほど。同盟航路を結ぶなら必要かもしれないな……」


 その辺の細かいことはレニーラ人間たちに任せるとしよう。


「その前にマイノカにきて、ゼル王に謁見して話を聞かせてやってくれ。外の世界を知っておく必要はあるからな」


「そうだな。ゼル王への土産もある。名目上は国の代表としていったからには土産の一つも買ってこなければ示しもつかんしな」


 そう言う上位への配慮はさすが貴族ってところだな。


「じゃあ、三日後に向かうとするか。それまで旅の疲れとここの環境に慣れておけ。海の上と陸地では違うだろうからな」


 ゼルにも連絡を入れて、寝泊まりできる場所も用意させるとしよう。


「ゼルム族の流儀とかあるのか?」


「人間の礼儀でやって構わない。人間の勉強にもなるしな。なんなら貴族の礼儀作法を教えてやってくれ。まあ、体格が違うからいろいろ変える必要はあるがな」


 未開の獣と侮られないよう諸島連合体の人間がくる前に教えておくとしよう。


「わかった。冬の間は滞在させてもらうか。いろいろ見て回りたいからな」


「雪が少なければミナレアやブランボルに連れてってやるよ」


「それはありがたい。大陸の奥を見てみたかったんだ」


 冒険王とか適当に言ったが、あながち間違ってはいなかったようだ。子供のように目をキラキラにさせてるよ。


 ついでだからセオルとその家族も連れていくとしよう。そうなると人を乗せる荷車を作る必要があるか。


 まあ、その辺は職人たちを集めて作らせるとしよう。人間が一番技術があるからな。


 レニーラが休んでいる間にオレはマイノカへと走った。

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