第178話 ロルクル村

 レオノール曆十八年。初秋。四十三名を乗せてクレンタラ号が出航した。


 諸島連合体まで三十日から四十日。あちらで一月。戻ってくるのでまた三十日から四十日。帰ってこれるのは冬が厳しくなる頃か。無事に帰ってこいよ。


 姿が見えなくなるまで見送り、見えなくなったら埋め立て作業に戻った。


 十日ほど作業に従事し、レブたちとコルモア周辺の探索と出た。


 もうモンスターはいなくなってしまったが、蟲系モンスターは集まってくる。特に蜘蛛系はどこから集まってくるのか謎なくらいよく現れる。


 美味しく食えるのだが、腹持ちはよくないのが難点なんだよな。五匹も食わないと腹は満ちない。そして、しばらく食わなくてもいいやってなる。


 チェルシーは蟲が好みじゃないので食わないが、なんだか爪で裂くのは好きらしく、楽しそうに脚長蜘蛛を切り裂いていた。


「レオ様。あっちにヘビのモンスターがいるよ」


「ヘビか。久しぶりに現れたな」


 アナコンダ級のはよく出て、食われた話がたまに出るが、レブが察知できるほどのヘビは久しぶりだ。


 レブの案内で向かうと、緑色の大蛇がいた。ただ、頭が二つある大蛇だけどな……。


 まあ、頭が二つあるくらいで驚愕するほどでもない。へ~。めっずらしいぃ~ってくらいだ。


 別に火を吐くわけでも呪霊が無効化されるわけでもない。ただ頭が二つあって、デカいだけ。精々、準モンスターってくらいだ。


 オレが狩るまでもなくチェルシーががぶりと噛んで真っ二つ。脚長蜘蛛を食ったので上半身(?)はコルモアに運んで住民たちに振る舞ってやった。


 一月ほどコルモアに滞在したらマイノカへ戻った。


 レニーラたちのことをゼルたちに話してやり、コルモアやコルベトラの状況を伝えた。


 一通り伝え終わったら競技場へと向かい、ロズから競技場の具合や改善したいところを聞かせてもらった。


 コルモアにいってる間に走るのが好きになった者が十数名出て、周辺警戒に出なくなったとかの問題も出てきたそうだ。


 そう言えば、ゼルもそんなこと言ってたな。まだ愚痴の域だったから聞き流してしまったが、過熱する前に考えておかないと不味いかもしれんな。


「長距離戦も加えておくか」


 ゼルム族は短距離も長距離も走れるが、全力で走れば十キロが精々。ロズでも二十キロは走れなかった。ちなみに霊操術を使ったヤトアも同じくらいだ。


 走るのに興味を持った者を集め、コルモアまで走らせてみた。


 マイノカからコルモアまでの道は往来が増えてきたので均されてきて、ゼルム族の足に負担もなくなってきている。


 ゼルム族の脚で約二日。数年前と比べたら三日も短縮できたが、二日の壁を突破するのはもっと道がよくならないとダメだろうな。


 食料と水を持たせて強行軍させたせいで、コルモアについたら汗だくで地面に伏してしまった。


 大体マイノカとコルモアの距離は二百キロちょい。全速力で百キロ。抑えれば二百キロもいけるか? とは言え、二百キロも走れば夜になる。今回はオレがいたからなにもなかったが、ゼルム族だけなら夜行性の獣に襲われていたことだろうよ。


 そう考えると、ゼルム族の長距離走は五十キロか。フルマラソンくらいがちょうどいいくらいだな。


 マイノカ一周では短いし、湖一周は長すぎる。うーん。難しいな、こりゃ。


「マイノカとコルモアの中間地点に町を造ってはどうです? 我々がマイノカにいくのは遠すぎます。中間に町があると助かります」


 セオルの提案を受け入れ、中間地点に町を造ることにした。


 中間地点に移っても構わないと言う者を百人くらい集め、まずは三十人を連れて中間地点に近い避難所へと向かった。


 連れてきたゼルム族に周辺を警戒させ、その間に樹を倒して家の材料を集めた。


 一日二日で終わることではないので、十日毎に交代させ、秋のうちに堀を持つ町──いや、村を造った。


 川があるので水には困らないが、食料生産は無理なので、今回の冬はオレやゼルム族がやることにする。


 人間だけでは不安なので、ゴゴール族にも呼びかけ、何家族が移り住んでもらった。


 村長は人間にして、三十手前のミゾルと言う男に任せた。


 ミゾルは元マイアナ人。一開拓民として渡ってきたが、セオルの目に止まるくらい頑張ってきた男だ。


「村の名前はお前が決めていいぞ。それをお前の姓としよう」


「は、はい。ありがとうございます。では、ロルクルにしたいと思います。おれの生まれ故郷の名前なんです。もう戦争でなくなってはいるんですが」


 戦争か。まあ、こんな時代じゃ侵略戦争も珍しくあるまい。


「では、この村をロルクルと命名し、お前をミゾル・ロルクルとする。マイノカとコルモアを繋ぐ地としろ」


「は、はい。全力をかけて発展させてみます!」


「ああ。期待している。しばらくはオレも協力するからそう気張らずやるがいい」


 雪が降る前に薪を集め、食料を運び込んでいると、コルモアから伝令が走ってきてレニーラが帰ってきたことを伝えた。


「わかった。もうしばらくしたらいくと伝えてくれ」


 伝令にそう伝えるよう指示を出し、冬越しの準備を再開させた。

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