第168話 レオガルド流呪霊術

 フジョーとの追いかけっこは五日目に入った。


 厄介なのはわかっていたが、予測以上に厄介な存在であった。


「クソ。半日駆けてもロックオンが外れないか」


 全力疾走で半日ほど離れてもフジョーのロックオンが外れない。泥を纏ったり水の中に潜っても外れることはない。嫌な気配がまとわりついているのだ。


「一度ロックオンされたらフジョーを倒すまで外れないか」


 いったいどんな理屈かはわからないが、オレに向いてくれるならそれはそれでやりようはある。


 霊力を高め、ヤトアの霊力を紛らわせるようにして作戦を伝える。


 フジョーの移動速度は相変わらず。人間が歩むていどでしかない。食事と眠る間はフジョーから数キロまで近づき、肉食モンスターが近づかないようにし、近づいたらオレが狩ることにする。フジョーに栄養を摂らせないためにな。


 十日も過ぎるとフジョーの移動速度が衰えてきたのがわかった。


 フジョーは食虫植物と思っていいだろう。待ち伏せタイプじゃなく狩猟タイプなのは「ふざけんな!」だが、それだけに地中からの栄養だけでは生きられないってことでもある。


 獣でも植物でも食わなきゃ弱まるもの。飲まず食わずで生きられるわけがないのだ。ましてやAランクの肉食モンスターを狙うってことはエネルギー供給がいいってことでもある。


 冬を越えるためのエネルギーを消費し、オレを追いかけるためにまたエネルギーを消費する。


 損得勘定ができる知能があるならとっくに諦めてどこかへと移動しているだろうが、フジョーは執拗にオレを追いかけてくる。


 それは理性より樹としての習性、または本能で動いていることを意味する。


 そんな存在に負けるようでは知能ある獣としての名折れ。なんのために知能を持つまで進化したって話だ。


 速度が衰えても一キロ以内には近寄らない。今の半分くらい遅くなるまで弱らせる!


 だが、多少なりとも危機意識を感じたのか、フジョーが停止した。なんだと五百メートルまで近づいたら小川のところで停止していた。


 ……水で飢えを凌いでいるのか……?


 一日近く水を飲んだフジョーはまたオレを追い出した。


 だが、歩みは遅いまま。心なしか嫌な気配も少なくなった感じがする。


「師匠!」


 フジョーとの一定の距離を保っていると、ヤトアがやってきた。


 追いかけっこしながらもヤトアたちが走りやすいよう道を作ってきたし、フジョーが疲労してきてからはミクニール氏族が住む地へと誘導してたので、オレと会うことはそれほどむずかしくはないのだ。


「罠が完成した! いつでもいいぞ!」


「わかった。そちらに誘い込む。お前らは離れていろよ。本気を出すんでな」


 ヤトアたちも参加させて修業させたいが、そろそろ決着をつけたい。ギギ成分がなくなって禁断症状が出そうだわ。


 三日かけて罠を仕掛けた場所へと誘い込む。


 フジョーが三キロくらいまで迫ったら雷を周辺に放つ。


 季節はすっかり春になり、草木が芽生えてきている。植物としてはこれから力強く育っていくのだろうが、ここら辺一帯の草木は刈られ、太くない樹はすべてヤトアによって斬り倒されている。


 雷によって空気は乾燥していく。


 呪霊によって生み出された雷には霊力が含まれているので、飢えてるだろうフジョーは警戒もせずオレへと向かったくる。


 フジョーとの距離、二百メートルくらいになったら全力全開で雷を残していた樹に放つ。


 木っ端微塵になる樹。ちょっと威力が大きすぎた。なので、その半分くらいに抑えて樹に放った。


 放ったれた雷は樹を砕き、火をつける。


 さらにさらにで樹に雷を撃ち込んでいき火をつけ、風を吹かせて火を煽り立てる。


 やがてヤトアが倒した木に燃え移り、山火事レベルとなった。


 さすがのフジョーも立ち上がり炎に危険を感じたのか、なにか枝を振り回して焦っている、ように見えた。


 風を吹かせて炎を操る。


「さあ、フジョー。炎を前にどう動く?」


 お前がどれほど長く生きてるか知らんが、これだけの炎に出会ったことはあるまい。これまで蓄えた生存能力で乗り越えてみるがいい。


「レオガルド流呪霊術、火災旋風だ!」


 炎の風をフジョーへと喰らわせた。

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