第167話 デッドレース

 まずは様子見と、ヤトアとロズに突っ込んでもらう。


 フジョーは肉食系モンスターを補食する樹なのは間違いないが、外敵をどう判断するかはわからない。オレに意識を向けているなら二人に意識はいかないはず。いっているなら複数同時に捕らえる能力があるってことだ。


 二人が近づくと、雪の下から根らしきものが飛び出した。


 すぐに石を投げて根らしきものを吹き飛ばしてやる。ナイス、オレ!


 嫌な気配に揺らぎはなかった。まだ自動防御として振動に向けて放った感じだろう。


 雪の下から飛び出る根らしきものを次々吹き飛ばしてやると、フジョーが土から這い出してきた。


 いや、樹が這い出すと言うのも変だが、枝を地面につけて根を地面からぬきだしたのだ。


「……ファンタジーなこった……」


 お前もな! なんて突っ込みはしないでおくれ。樹が動く姿と言うのは不可思議に映るんだよ。


「なんでタコのようにクネクネ動かせるんだろうな?」


 枝はオレの投球ですら弾いたのに、柔軟性抜群に動かしている。意味わからんわ!


「ウッ! 嫌な気配が増大し始めたな……」


 以前のような吐きそうなレベルではないが、それでも全身の毛が逆立つくらいには嫌な気配である。生理的に無理、って感じだ。


 それでも石を投げ続け、フジョーの意識(があるかどうかまだ判断つかないが)をオレに向けさせ、二人にいかないようにする。


 地上に出たフジョーは、動き回るオレに意識を向けたようで、嫌な気配がオレをロックオンした。


 二人はフジョーまで近づき、剣や槍を振るうが、効果はまるでない。業を煮やしたヤトアが霊操術を発動した瞬間、嫌な気配がオレから外れた。


「ヤトア逃げろ!!」


 咄嗟に叫ぶと、ヤトアも無意識にその場から飛び去り、鞭のように動いた枝が地面を叩いていた。


「霊操術は使うな! 技術だけで斬れ!」


 無茶なのはわかっているが、無茶を通さなければフジョーは斬れないだろう。フジョーがオレにロックオンしている間なら何度でも挑戦できるのだからドンといけだ。


 ヤトアが挑戦している間、オレはフジョーの周りを駆け回り、石を投げ続けた。


 フジョーの嫌な気配は変わらぬが、動きは鈍い。人の歩く速度くらいで、石を避けることもできない。前はもうちょっと速かった気がするんだがな?


「ヤトア! ロズ! 一旦退け! 初日から飛ばすな!」


 今日で決着できるとは思わない。それならフジョーの生態や行動を知りながら戦うべきだろう。


 二人が下がったらオレも下がる。だが、フジョーからのロックオンは外れない。泥を纏い数キロ走っても外れることはなかった。


 臭いではなくオレの霊力を感じ取ってるのか? だったら覚えられてしまったか。これではミクニールのところには帰れんな。


「ヤトア! ロズ! お前らだけで帰れ! オレの位置か完全にフジョーにバレている! エサを求めて動き回る! ゆっくり休めよ!」


 そう言って二人から離れ、エサを探しに向かった。


 なぜかミゴル(マンモス)は逃げておらず、五分もしないで発見。十分くらいて食い、すぐに移動した。


 フジョーがオレをわかるように、オレもフジョーの位置がわかる。速度も人の歩みくらいなので六時間くらいは休める。


 オレの睡眠は九時間くらいがベストだが、追われる立場を体に刻んでおくのにはちょうどいい。驕り高ぶるな、だ。


 体を収めれる窪みに入り、すぐに眠りにつく。


 ロックオンで深い眠りにはつけないが、我慢して眠るしかない。


 なんとか眠りについて、意識が途切れた──ら、フジョーのロックオンが強まった。


 いかん、深く眠りすぎた!


 フジョーが数キロ先まで近づいている。クソ! 夜、眠らんのかい!


 人の歩る速さでも夜の間ずっと移動できたら四、五十キロ以上離れないと休めないぞ。


「オレの体力がなくなるのが先か、フジョーの栄養がなくなるのが先か、デッドレースだな」


 でもまあ、エサがそこら辺にいる分、オレが有利か。


 数十メートル先を歩くミゴルの群れに飛びかかり、今日を生き抜くために貪り食った。

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