第160話 一休み
次の日は、眩しいくらい天気がよかった。
つい先を急ぎたくなるが、天気がいいからと無理しても二人の体力を削るだけ。天が休めと言ってると解釈しよう。
昨日の赤目熊をいただき、周囲の雪を風で吹き飛ばしてくが、積雪量がハンパない。五メートルはあるんじゃないか?
やっと地面が現れ、地面を掘り起こして前足で固めていく。
いい感じになったら雷を全力全開。掘ったところを硬化──まではできないけど、熱は放出できた。
雪が解けて穴に溜まる。透明度はよろしくないが、体を癒すには問題ないだろう。上がるときに綺麗なお湯で洗えばいいんだからな。
ジャンプして穴から飛び出すと、ヤトアが赤目熊の毛皮についた肉を剥ぎ取っていた。
「師匠。肉を剥ぎおとしたら洗いたいんだが、川はあるか?」
「あちらのほうに小川があたな。赤目熊がうろついているから注意しろよ」
「そのときは師匠の昼食にしてやるよ」
頼もしい弟子だよ。もう赤目熊など敵じゃないからしい。
「ロゼル。風呂を作ったから入るといい」
肉剥ぎをみていたロゼルに声をかけた。
「は、はい」
遠慮気味のロゼルを背に乗せて穴へと飛び降りた。
「ちょっと温いだろうが体を洗うには問題ないはずだ」
巫女は常に体を綺麗にしろと教えてある。汚いと信仰心にも説得力が出ないだろうし、清潔のほうが病気にもならんだろうからな。
「ありがとうございます」
狼の毛皮を脱ぎ、鳥の羽根を詰めた布の服を脱いで裸となった。
何度見ても不思議だよな、ゼルム族の体って。
馬の下半身は寒さに強く、軽く羽織るだけでこの寒さに耐えられるのに上半身は人間と同じく着込まないといけない。上半身と下半身で体温が違うんだろうか?
「オレの尻尾を使って体を洗え」
汗はそんなにかいてないだろうが、ゼルム族は代謝がいい。垢も溜まるだろうからオレの尻尾をタワシ代わりに使って落とすといいさ。
「レオガルド様の尾をそんなことに使えません!」
「構わんよ。ギギもオレの尻尾で体を洗ってるしな」
オレの尻尾の毛は硬く、尻尾の筋肉(?)は直径一メートルの樹でも余裕で砕けるが、サラサラして肌に優しい肌触りらしい。
「お前を洗ったくらいでどうこうなる尻尾じゃない。遠慮なく使え」
自由自在に動かせる尻尾だが、そこまで感覚は鋭くない。岩を洗ってるのか肌を洗ってるのかの違いもわからないくらいだ。
「あ、ありがとうございます」
尻尾を湯に入れ、どう洗うかはロゼルに任せた。下手に動かすと吹き飛ばしちゃうからな。
最初は申し訳なさそうに使っていたが、オレの尻尾の心地よさに負けたようで下半身を重点に洗っていた。
「そう言えば、ゼルム族の下半身の毛は切ったりするのか?」
個人差はあるが、下半身の毛が長かったり短かったりする。だが、毛を刈っている姿は見たことがない。どうなってるんだ?
「伸びやすい方は切るかもしれませんが、大体はブラシをかけてる間に抜けますね」
あー確かに言われてみればオレの毛でブラシとか作ってたな。
「生え変わるのか?」
ちなみにオレに夏毛冬毛はないがよく生え変わる。きっと毛の代謝がいいんだろう。
「はい。夏と冬に生え変わります」
へー。生え変わっていたんだ。全然気がつかんかったわ。
「オレ、ゼルム族のこと、まったくわかってなかったな」
と言うか謎すぎて深く考えもしなかったよ。
「もう上がります」
尻尾を振って水を切り、ロゼルの濡れた体を拭いてやった。
「ついでだから下着も洗っておけ」
下半身はなにもつけないが、ブラジャーはしている。
昔は草で編んだもので胸を隠していたが、ミバール(布)が手に入ってからは肌着やらブラジャーなどを作った。
最初はギギに教えて人間に広がり、ゼルム族、ゴゴール族、ベイガー族と広まって今は当たり前のものになって、染めたヤツも出てきていたな。
下着類を洗濯し、オレの体に干させる。今日は陽射しがあるから昼までは乾くだろう。
「寒いならオレにくるまってろ」
陽射しがあるとは言え、冬は冬。上半身裸は寒いだろう。オレの体温で温まってろ。
「はい。ありがとうございます」
ロゼルがオレの毛にくるまり、そのまま眠ってしまった。
そんな姿にギギを思い出してしまう。早くプジョーを倒してギギのところに帰りたいよ。
オレも陽射しの気持ちよさに眠気が出てきたので少し眠ることにした。ギギの夢、見れるといいな……。
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