第95話 家族
ミディアの背にレブが跨がり、草食モンスターの狩り方を教える。
草食系の霊力は弱く、レブのレーダーでは捕らえ難いが、ゴゴール族なだけに気配察知は優れており、ミディアの嗅覚と合わせると簡単に発見できていた。
全長三メートルくらいある猿を発見。追跡。木を蹴って登っていき、首に噛みついて骨を折る。僅か五分で終了させてしまった。
「レオ様、見て~! 大きいの狩ったよ~!」
一部始終見ていたが、オレは褒めて伸ばす派。よくやったとレブとミディアの頭を謎触手で撫でてやった。
「ぐるる」
と、チェルシーがオレに頭を擦りつけてきた。猫か。いや、猫科だとは思うけど。
「猿は美味いか?」
オレも一度食ったことはあるが、なんかいまいちって記憶しかないが。
「さっぱりして美味しいって」
猫と犬では味覚が違うんだろうか? 蟲系ならそう感じないこともないけど……。
「ミディア、また肉づきがよくなってきたな」
回復力があるとは思っていたが、たった数日で二回りはデカくなってるぞ。
「こんなに食べれたの初めてだって」
「産まれたときから冷遇されてたんだな」
サイズ的にはAランクモンスターだったが、強さは準モンスターにも劣っていた。餓死しないのが不思議だったミディアが今ではSランクに入りそうな勢いの体格であった。
……モンスターって不思議だな……。
いやまあ、オレも不思議モンスターなんだが、他を見てると元の世界の常識がまったく通じない。いったいこの世界はどうなってるんだろうな?
「レオ様。バリュードがきたよ。数は二匹。Aランクだと思う」
「Aランクか。オレらも腹拵えしておくか。チェルシー、いくぞ」
「グルル」
オレの言葉を理解したチェルシーが頷くと言う芸を見せた。
……なんだかこの世界の理から外れて進化してそうだな……。
レブのレーダーがチェルシーにも移ったのか、感知能力はチェルシーが勝っている。いつの間にかチェルシーについていく形へとなってしまった。
五分くらい駆けると、Aランク二匹と小型が三十匹くらいいた。今まで最高の数だな。
「チェルシーは大きいのを仕留めろ! オレは小型のを仕留める!」
「ガアァァッ!!」
獣スイッチが入ったようで、気配がバーサーカーみたいなモードになった。レブと言う理性制御装置がないとこんなふうになるんだな~。
オレには獣スイッチが欠落してるので、血に酔うこともなく、小型のを冷静に仕留めていった。
チェルシーも仕留め終わると、レブとミディアが現れた。オレらの狩りを観戦していたようだ。
「レブ。小型のを解体してくれ。毛皮は持ち帰ろう」
Aランクのはチェルシーがボロボロにしすぎて剥ぎ取りするだけ時間の無駄だ。美味しくいただいたあとは大地に還しましょう、だ。
「チェルシー。理性を手放しすぎだぞ」
これが当たり前の姿と言え、食うのに集中しすぎて周りを警戒してなかった。
「チェルシー。ダメよ」
レブが注意すると、理性スイッチが入ったのか、バーサーカーみたいなモードが消えてしまった。レブ、恐ろしい子……。
「レオ様、全部は無理だよ!」
小型とは言え、レブの倍はある。体力があっても八体も解体したら根もあげよう。
「なら、それでいいぞ。纏めてくれ」
どうしても、と言うわけではない。持てるだけで充分だ。
纏めたものを謎触手でつかみ、一旦、ミナレアへと戻った。
何日かそんな訓練を続けると、ミディアの体はオレと同等くらいまでなってしまった。
「いや、育ちすぎだろう!」
確かに毎日腹いっぱい食ってたが、それでも成長速度が異常だろう。なにかミディアの特殊能力なのか?
「クゥ~ン」
体だけじゃなく知能も成長した感じで、目に賢い光があった。
「レオ様、この子、なにか違う」
「違う、とは?」
「よくわかんないけど、わたしの声がどんどん届かなくなってる」
レブの声が届かない。それって……。
「……レオ……」
とか、ミディアがしゃべり出しやがった。
「ミディア、レオ、好き」
ど、どうなってるんだ? 進化、した、のか?
最初は片言だったが、段々と単語を覚えていき、秋には難なく会話できるまでになってしまった。
「レオ。あっちに斑蜘蛛がいるよ!」
少女のような声を出すミディア。老いたらハスキーな声で「黙れ小僧!」とか言っちゃうんだろうか。
「ミディア、すっかりお転婆になって」
お転婆、と言うのだろうか、あれは?
「レブ。チェルシーもしゃべったりするのか?」
「たぶん、ならないと思う。チェルシーは普通だから」
つまり、ミディアは特別か。まあ、オレも特別っちゃー特別なんだけどよ。
「もしかすると、守護聖獣になるのかもな」
確信はないが、守護聖獣となれる獣は意外といて、条件が揃うといっきに進化していくのだろう。
「レオ! レブ! チェルシー! 早く早く!」
「確かにお転婆だな」
レブと苦笑し合い、ミディアのあとを追って駆け出した。
まあ、ミディアが守護聖獣かはわからんが、オレたちの家族になったことは間違いない。なら、家族として愛していこう。この世界で得られた宝なのだからな。
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