第96話 出立

 第二次防衛線でバリュードの侵攻を防ぎつつ、ミディアの訓練をしていたら冬になった。


 守護聖獣になる要素があるせいか、知能も人並みに進化していき、かけ算わり算までできるようになったよ。


 ……こいつ、本当は転生者じゃないのか……?


 なんて思うことが度々。まさにスポンジが水を吸うがの如くオレの話を吸収、そして、理解していたよ。


 食事がいいからか、霊力も高まり、水を操る呪霊も凄まじいものになった。


 霊力から水を創り出したり、ある水を操ったりもできたりもした。


「もっとだ。もっと細く、もっと勢いよくだ!」


 今は沼地でウォータージェットカッターの練習をしていた。


 自らの霊力でウォータージェットカッターは無理なので、回りにある水を使っての威力あるウォータージェットカッターを習得させているのだ。


「レオ様、もう水がなくなっちゃうよ」


 もうか。かなり大きい沼だったのに。やはり威力があるウォータージェットカッターを放つとなると大量の水が必要となるな。


「ミディア。それまでだ」


 これまで四つの沼を枯らせた。


 これは、バリュードの水場を奪う目的とエサとなる草食系モンスターを追い払う目的で、わざと枯らしたのだ。


 ただまあ、あまりやりすぎると生態系が壊れる恐れがあるのでこのくらいにしておこう。他の沼はワニや蛇、噛みつき亀っぽいのが住み着いている。バリュードとは言え、油断したらエサにされるだろうよ。


「レオ様。バイズみたいなのがいっぱいいるよ」


 バイズとはワニみたいな獣で、一メートルくらいと小さい。だが、電気を放つ能力があって鹿くらいなら一発で気絶させれる威力はあった。


 オレには電気耐性はあるし、チェルシーやミディアでも狩ることは容易だが、こいつ、肉が泥臭いんだよな。好き好んで狩るのは悪食な蟲くらいなんじゃないか?


「結構いるな」


 ちょっとしたグラウンドくらいの沼だったが、獣たちの水場だったようで四、五十匹はいた。


「泥抜きしたら食えるかな?」


「レオ。ワタシは食べないよ」


「ぐるる」


「チェルシーも食べたくないって」


 こいつらすっかりグルメになりやがって。粗食に慣れてないと、エサがないときに困るぞ。ってまあ、オレも食おうとは思わないんだけどな。


「水もまだあるし、雨が降るまで堪えられるだろう」


 希望的見立てで申し訳ないが、大森林の生き物は生命力が高い。生き残れるとオレは信じているよ。


「そろそろミナレアに戻るか。バリュードも冬の間はやってこないからな」


 ミディアの話によると、バリュードは冬になると雪が降らない地に移動するらしい。ただ、他のモンスターもやってくるとかで、弱い者は食われてしまうそうだ。


 ……ミディアはずっと隠れて飢えを堪えていたそうだ……。


「冬の間はコルモアにいくか」


 ミディアのお披露目もしておきたいし、ミドットリー島の様子も見ておきたい。バリュードばかりに手間をかけてられないのだ。


「レブとチェルシーはまた巡回巫女の護衛を頼む」


「わかった。任せて」


「ぐるぅ~」


「チェルシー。これはわたしたちの役目なんだよ。春になったらレオ様に慰めてもらいなさい」


 慰めると言ってもグルーミングだから。コミュニケーションみたいなものだから。


 ……オレ的にはレーキで梳かれるほうが好きなんだけどな……。


 一応、第二次防衛線辺りを探ってからミナレアへと戻った。


騎士ワルキューレの訓練はどうだ?」


 ミゼルやボゼから報告を聞く。


 まだ結成して一年も経ってないからこれと言った成果はなく、連携した訓練をするしかないが、それでも報告を聞くと言った行為は大切だ。重要視してると教える必要があるし、報告義務を徹底させることも大事だからな。


 ルゼや長老たちを集めて町の様子も聞く。


「ゴノの実の収穫にもっと人手が欲しいですね。秋だけでも人を集めたいです」


 問題はいろいろあるが、ゴノの実の収穫があまりできてないことが問題のようだ。


「ゴゴールにきてもらうのが一番なんですが、あちらも秋は収穫で忙しいですからな」


 あれこれと話し合うが、人手不足はいかんともし難い。現状維持で話は終了した。


 だが、話し合いの時間を取ることは無駄ではない。問題意識を統一するだけでも集団としての纏りができる。知恵の出し合いも積み重ねていけばいずれ力となる。無駄ではないはずだ。


「冬の間、オレたちはコルモアにいく。バリュードの侵攻はないと思うが、警戒だけは怠るな」


「わかりました。銃士隊はどうします?」


「一旦マイノカに帰す。家族と過ごす時間も大切だからな」


 里心ついたら指揮にも関わる。帰れるときに帰しておいたほうがいいだろう。


「ギギ。連れてきた巫女もマイノカに帰すから用意を頼む」


「わたしたはどうします?」


 と、ゼゼ。


「ゼゼはジュニアたちと残ってくれ。ジュニアは騎士ワルキューレたちに訓練してもらえ」


 ジュニアも帰したいところだが、次代の王である。ミナレアでしっかり学んでもらおう。


「ルゼ。ジュニアを頼むぞ」


「はい。お任せください」


 準備が整うまでルゼやミゼルたちと話し合いを続け、雪がちらほらと降ってきた日にミナレアを出立した。

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