第93話 獣ハーレム

 第二次防衛線まで走り、バリュードの臭いを探った。


 臭いはいたるところに残ってはいるが、臭いは薄い。四日か五日くらいのもだろう。


 相手は嗅覚の鋭いモンスターだ、騎士ワルキューレの臭いを嗅ぎ分け、縄張り的なことを察しているのだろう。


「……オレを警戒してるのかな……?」


 準モンスターを率いるくらいなのだからボスはSかSSクラスだろう。


 これまでの経験からSはかなり年齢を重ねたモンスターで、かなり知恵も回り、警戒心も強くなる。ちなみにSSSランクには会ったことはない。自分のことを考えたら特殊中の特殊な存在なんだろうな~。


「小型のもいないか」


 しばらく臭いを探るが、小型の存在もない。いや、肉食系の獣もいなくなってるな。追い出されたか?


 さらに探ると、草食系モンスターを発見した。


「亀はどこにでもいるな」


 軽トラほどの陸亀っぽいもので、甲羅はオレの爪でも厳しい強度を持っている。準モンスターでは文字通り歯が立たないだろうよ。


 爪は効かずとも雷を防ぐことはできない。最大で放つと一瞬で天に召されていった。


 こいつは何度も食ったことはあるので解体するのもお手のものだ。


 だらんと垂れた首を噛み、噛み千切らないように引っ張ると、内臓まで出てくる。取っかかりが出たら前足で押さえ、ふん! と力をつけて甲羅を噛んで引き裂いた。


「見た目はグロいのに、いい匂いさせやがって」


 さらに美味いのが癪に障る。一匹では足らず、もう一匹探し出して美味しくいただきました。


 満腹になって昼寝をしていると、バリュードの臭いがした。


 ……ん? 一匹だけ……?


 群れで動くバリュードが一匹で行動とか珍しいな。斥候か?


 あちらはオレに気づいていないようで、ゆっくりとオレの間合いに入ってきた。


 ヤトアからオレは獣が出す殺気をあまり出してないようで、霊力のほうで感知しないとわからないようだ。


 草食系モンスターも同じで、オレの存在に気づくことなく間合いまで入られ、襲われたことすらわからないうちに絶命している。


 肉食系モンスターも自分より強い存在の殺気には敏感で、数キロ離れててもわかるくらいだ。


 バリュードなら鼻のよさでわかるようなものなんだが、なぜここまでオレの間合いに入ってこられるんだ? 亀の血でオレの臭いが消えてんのか?


 そんなわけないかと姿を現すと、あまりなことに絶句した。


「……またアルビノかよ……」


 いや、どんな種にいても不思議じゃないが、モンスターにまでアルビノっているんだ。異世界でも命は神秘だぜ。


 バリュードは黒や茶色が基本色。真っ白だとアレな映画に出てきたデカい山犬だな……。


「グルルル!」


 オレが現れたことに驚いたものの、いっちょまえに威嚇してきた。


「バリュードの世界にも差別はあるんだな」


 体は準モンスターサイズだが、何十日も食べてないくらい痩せこけ、右目が傷ついていた。


「よく生きてるものだ」


 オレの敵でもなければ脅威にもならない。これなら騎士ワルキューレでも難なく勝てるだろうよ。


 亀の甲羅を投げてやると、よほど飢えていたようでそこについた肉をがっつき始めた。


 大した量ではないが、少しは腹が満たされたようで、纏っていた気配が和らいだ。


「仲間、かどうかわからんが、腹が満ちたならどこかに去れ」


 別に同情したわけじゃない。脅威でもなければエサにもならないのだから見逃すだけである。まあ、伝わるかは知らんがな。


 襲われたところで傷の一つもつけることもできないと、アルビノバリュードに構わず昼寝を再開させた。


 昼寝から目覚めると、アルビノバリュードはまだそこにいた。


「……懐かれたか?」


 なんだろう。オレ、獣なのに獣に好かれる体質なんだろうか? 獣ハーレムとかごめんだぞ。


 大きく伸びをして、ミナレアへと帰るとする。


「ついてくるなよ」


 エサを与えたら懐かれるとか、完全に犬だな。オレ、そう言うの弱いんだから止めろよ。


 人間だった頃は猫派だったが、犬も嫌いではなかった。隣の家の柴犬を可愛がってたくらいだ。


「しょうがねーな」


 ちょうどいた蜘蛛のモンスターを風の刃で狩り、アルビノバリュードに与えてやる。


「結構美味いぞ」


 食ったことないのが蜘蛛を警戒してるので、脚を引きちぎって食ってみせた。


 しばらく警戒していたが、空腹には勝てなかったようで我を忘れて食らいついた。


「胃は丈夫そうだな」


 レブもそうだったが、アルビノだから胃腸が弱いのかと思ったらそんなに弱くなく、健康になると誰よりも丈夫になったものだ。この世界のアルビノは前の世界と違うんだろうか? 


 畳二畳くらいの蜘蛛を食べ尽くし、なんだか丸みが出てきた。どんな回復力だよ?


「クゥ~ン。クゥ~ン」


 なんて頭を押しつけてくるアルビノバリュード。やはりオレは獣に好かれる体質のようだ。


 人間に産まれて人間の女に好かれたら喜びもしようが、白虎っぽい獣に産まれて違う種に好かれても空しいだけである。


「ハァ~。好きにしろ」


 これもなにかの縁。獣神教のために利用させてもらおう。

 

 アルビノバリュードを連れてミナレアへと駆けた。

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