第92話 騎士団(ワルキューレズ)

 次は、騎士ワルキューレたちにジュニアを紹介する。


 横には大巫女たるギギと公爵たるルゼ。ザザ、ヤトアを並べ、その背後にはチェルシーに跨がったレブ、そして、オレが控える。


 権威づけと上下を教えるためのものだが、王国制でやっていくのだからこの並びは必要だろう。


「ゼル王の息子。レオガルド様よりジュニアと呼ばれている。騎士ワルキューレたちの働きはよく聞いている。銃士隊と協力し、レオノール国を害するモンスターを倒して欲しい」


 オレが教えた言葉をジュニアに言わせる。自力で言えるわけもないからな。


 ミナレアにいたヤツにはゼルの息子に前脚を折ることは納得できないだろうが、オレがいることで表立って意を唱える者はなし。従順な姿を見せている。


「それと、ゼル王に代わり、ミゼルをミナレア騎士団ワルキューレズ団長ワルドに任命する。任命後、副団長ワルズを選び出せ」


「はっ! 了解しました」


 ミゼルには事前に伝えてあるので、当たり前のように答えた。


「レオガルド様。ミナレア騎士団ワルキューレズをよろしくお願いします」


「ああ。任された。レオノール国の槍に育てよう」


 立ち上がり、騎士団ワルキューレズと銃士隊を連れて訓練場へと向かった。


「ヤトア。調子は戻ったか?」


 獣神教からもヤトアやザザを連れてきて、話し合いに参加させている。


 ちなみにギギやレブはジュニアやルゼの側にいさせてある。あちらも放っておけないからな。


「ミゼル。騎士団ワルキューレズの組織体制を決めろ。今後、増えることを考えてな。ザザ。手伝ってやれ」


 なんでもオレが、では他種族との交流がなくなってしまう。オレがいる間に他種族との交流をさせておこう。


 ゼゼとの話し合いで、団長ワルドの下に副団長ワルズを三人置き、四十人を八つの小隊に分けた。


 数が少ないので三人や四人の小隊になるが、偵察とか考えるとそのくらいでいいだろう。戦うときは集団となるんだからな。


「まずはその組織体制に慣れるよう訓練しろ。慣れてないといざと言うとき動けないからな」


「わかりました」


「ゼゼ。協力してやってくれ」


「はい。補給隊はどうします?」


「それはまだいいだろう。今の季節なら現地調達できるからな」


 採取で生ききたのだ、どこにどんな植物が生っているか知っている。季節が冬でなければ餓死することはない。一応、非常食は持たせてあるしな。


「オレは銃士隊を連れて見回りをしてくる」


 銃士隊二十四人とゼルム族の守人ガーディを四人連れて見回りへと出かけた。


「ボゼ。この辺の植生はわかるか?」


 まずなにより食えるものを探しておこう。オレも便通をよくするために草を食うときがあるし、芋の類いは結構好きだったりする。


「はい。昔、この辺でも採取してましたから」


 普通なら十キロ二十キロで環境はそう変わるものではないが、この大森林では数キロ違うと植生が変わってしまったりするのだ。


「まずは、どこになにが生っているか調べるぞ」


 オレも草食系のモンスターを探すことにする。


 草食系にもいろいろいて、身を隠すのが得意のやハリネズミみたいな肉食から身を守る術を持った者もいる。


 狩るのが面倒で積極的に狩りはしなかったが、これからそう遠くまで狩りにいけないのだから調べていて損はなかろうよ。


「まずは第一次防衛線内で探せ。オレは第二次防衛線内を探すから」


 オレがいればバリュードはやってこまい。


「警戒は怠るなよ」


 そう注意して草食系モンスターを探しに出かけた。


 オレの脚なら一時間もしないで第一次防衛線を出て第二次防衛線内へと入る。


「ん? バリュードがいるな」


 臭いが微かに嗅ぎ取れた。


 風下から向かうと、準モンスターが小型を数匹率いていた。


 あちらが気づく前に雷で準モンスターを痺れさせ、小型を風の刃で斬り刻んでやる。


 小型のはすべて平らげ、痺れて動けない準モンスターは首をつかんで訓練場へと運んだ。


「ミゼル。これで連携の練習しろ」


 痺れが抜ける前に後ろ足を折っておく。


「手負いだからと言って油断はするなよ。準とは言えモンスターはしぶといからな」


 オレには雑魚でしかないが、騎士ワルキューレたちには強敵だ。後ろ足一本折っただけではハンデになるかどうかだろうよ。


 訓練で死なれたら困るから、最初は見守ることにする。


 やはり後ろ足一本折っただけでは騎士ワルキューレたちだけでは手こずるようで、威嚇するバリュードに近づけないでいた。


 ここで言葉をかけるのもためにならないと見守っていたら、ヤトアが刀を抜いて飛び出した。


「師匠が連携と言っただろう! 引きつけ役を決めろ! 槍ばかりに頼るな! 声をかけ合え!」


 一閃で右の前脚を斬りつけた。


 ……また一閃が鋭くなったな……。


 手加減したのだろうが、前脚がギリギリ動く威力と深さを与えている。もはや準モンスターていどなら一人でも倒せそうだな。


「申し訳ありません!」


 すぐにミゼルが反応し、配下に指示を出し始めた。


「すまんな。手間をかけさせて」


「いや、よけいなことをした。あいつらの自主性を高める訓練だったろうに」


 オレな意図を見抜く弟子。人の世だったら歴史に残す剣士になっていただろうよ。


「オレがやると殺してしまうからな。ヤトアがやってくれて助かったよ」


 SSSにもなると手加減も難しくなる。謎触手では小型のでも厳しいからな。


「ここを任せていいか?」


 前脚を怪我したことでハンデとなった。ヤトアがいてくれるなら問題なかろうて。


「ああ。死なないよう見ているよ」


「頼もしい弟子だ」


「まだまださ」


 向上心があってよし。上を見続けて精進しろ、だ。

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